暴行
8人までは覚えていた。
勝てる見込みなんて初めから無かったけど、1人でも多く倒して時間を稼ぎたかった。殴られた男が、虎太郎に向かって血が流れる口元をぬぐいながら悪言を吐く。
「てめえ・・・調子にのりやがって。ぶっ殺してやる」
目を血走らせて殴りかかってくる奴を紙一重でかわし反撃に出るが、次から次へと向かってくる相手は多勢、虎太郎の息も上がり肩が大きく上下し、思うように減らない敵に一層危機感が増す。
(あと・・・何人だ・・・)
向こうに見える千加は手で口をふさがれたまま、ムグムグと何かをしゃべりたそうにうごめき、縛られた体をジタバタさせて抵抗している。
(こんな目にあわせてごめん・・・・ごめんな千加)
俺と友達っていうだけで人質にとられて、こんな怖い思いをさせて、はつられて・・・
千加だけでも何とかしないと。
でも、自分は息がこんなにも上がっているというのに、相手は無傷な奴らがまた何人もいる。状況は悪くなっていく一方だった。
「動きが鈍ってきたな。蒼谷の虎もこの人数じゃあきらめるしかねえんじゃねえか」
「あの時は散々痛い目に合わされたからなぁ・・・今日はたっぷりお返しさせてもらうぜ」
くく・・・と下卑た笑いを浮かべ、息が上がる虎太郎に数人がかりで襲い掛かった。
戦う体力なんてもうほとんど残ってはいなかったが、体は地面を蹴っていた。本能で始めの一人はかわして、次に来た奴に拳を入れたが反撃はそこまでだった。後ろで倒れていた奴に足をつかまれバランスを崩すと、それを見逃さなかった相手に羽交い絞めにされて完全に拘束された。
「くそ・・・はなせ!っ・・」
四肢をばたつかせても2人がかりで後ろから押さえつけられてはびくともしない。さっき俺に殴られた奴が間髪いれず顔を思いっきり殴ってきた。
「ぐあっ!」
3発、4発続けて殴られ口の端が切れてチリッとした熱を感じ、口の中にも血がにじみ鉄の味が口内に広がる。
「ぐっつ・・・ぐあ・・」
肩をつかまれ腹にけりを入れられる。前のめりにうずくまる体を引き起こされて鳩尾を下から蹴られると、せり上がる内臓が痛みと嘔吐感を同時に与え口に胃液の味がにじむ。
他の奴らも次は自分だとうなだれる虎の前にやって来ては、荒々しく掴み上げ交代に殴る蹴るの暴行を加えていく。
頬は腫れ、紫色になった口の端からは血が伝い落ちる。捕らえられた体はぐったりとしてあがらう力も消え、前のめりに上半身が倒れそうになる。
「まだお寝んねには早えんだよ」
「が・・・ぁ・・」
前髪をわしづかみにされて、また腹を突かれる。拘束していた手が離れると、虎はそのままドサッと地面に倒れ付した。
「むぐ・・・こお・・らぁろーーーー!!!」
千加の口ごもった悲痛な叫び声が耳に届くが、意識があまりはっきりしない。体のあちらこちらに暴行を受けたが、腹が一番ダメージを喰らっていて殴られた場所がジグジグと鈍く痛みそこが熱を発している。
(もしかして内臓が・・・肋骨折れたかな・・・)
朦朧とした頭では自分の体の状態も把握できず、悲惨な状態なのは間違いないだろうが、自分の意志ではもう体も起こせそうになく、やられた傷の具合など確かめようも無かった。それでも、千加を・・・
「せ・・・か・・・」
ひどい暴行を受ける虎太郎を見て必死に暴れる千加は、自分の口を押さえる男の手に噛みついた。
「うわ・・・っ・・このガキ」
男は噛まれた手を押さえたが、すぐに千加の頬を叩き返した。
バシッと乾いた音が響くが、叩かれてもなお千加は負けじと虎太郎に向かって叫んだ。
「こたろー!・・・もうやめてよ。ひどいよ!!こたろーが死んじゃうよ」
うつ伏せに倒れた俺にリーダー格の男が近づいてきて、横腹にけりを入れる。
「ぐっあ・・・・」
「こたろー!!」
「くく・・・ざまあねえな」
笑いながらもう一度同じ場所をいたぶるように蹴り上げる。
「があぁ・・・ぁ」
痛みに身じろぐ虎を虫けらのように見下ろす男は、痛めつけるのに飽きた様子で痛みに眉を寄せて耐える虎太郎の全身を眺めた。
「思ったよりあっけねえ。もう終わりかよ」
散々いたぶった後、力尽きた虎に勝ち誇ったように吐き捨てたが、その声にも全く反応を示さないことに、まだこの狂宴を終わらせるには早すぎると暴虐な思念が腹のそこからふつふつと沸き上がってくる。
「こんなんじゃ、おもしろくねえな」
数人がかりで暴行を加えたというのに、それでもまだ飽き足りない。顎に手を当て何やら謀計を巡らせているその顔は酷薄な笑みさえ浮かべている。ボロボロになって動かない虎。これを・・・
「うっ・・・・っ・・・・・・・」
虎太郎のうめき声に汚い薄笑いを浮かべた男は、虎太郎のポケットからのぞく携帯電話を引き出した。
通話記録を押すと「椎神」の名がすぐに出る。そこにある電話番号とメールアドレスに目を見開き、そしてニヤリと口の端を奇妙に吊り上げた。
思いついた姦計に自然と笑いがこみ上げる。
「くくっ。おもしれえこと・・・・・・・・・思いついたぜ」
リーダー格の男の言葉に、全員の目が集まる。男はその携帯を一度閉じてストラップに指をひっかけぶらぶらと揺らしながら言った。
「お前らこいつの服、脱がせろ」
そこにいた全員がその男の言葉の意味を理解できず、釈然としないまま聞き返した。
「こいつの服なんか脱がせて、どうすんだよ」
「決まってるじゃねえか」
地面に転がる虎に下卑た視線を落とした後、不気味に笑った男の口から狂気の言葉が発せられた。
「レイプするんだよ」
――――― レイプ ―――――
その言葉に千加の顔は青ざめた。この男・・・・・・・・何を言っているんだ。
それは廃屋内にいる連中も同じ思いだった。転がっているのはあの虎だ。女ではない。
「おいマジで言ってんのか?男相手に突っ込むのかよ、マジかんべんしろよ」
「こいつ相手に勃つかよ、ボコボコだぜ」
「バカいってんじゃねーよ。気持ちわりい」
ふざけながらニヤつく周りの連中は虫の息の虎を見下ろし、薄汚れ血を流す虎を相手に強姦することに躊躇していた。
「いいから早くしろ、こいつに突っ込んでヒイヒイ言わせてるところをこれで撮るんだよ」
そう言って手にぶら下げていた虎太郎の携帯を見せつけた。
「椎神のアドレスが入っている。送ってやればあいつ、どんな顔すると思うか?」
男の意図が分かって、周りの連中も顔を見合わせ更に二ヤつき出す。
「そりゃあ、仲間が掘られてる画像なんか見たら、怒り狂うだろうな」
氷のように研ぎ澄まされたあの顔が、怒りに歪むのを想像するだけでもおもしろい。仲間の無様な姿を見て、冷静でいられるはずもない。声を荒げ屈辱に顔を引きつらせる椎神も見てみたいものだ。
これで人質は2人。死神も地べたに這い蹲らせてやる・・・
そして最後はあの極悪龍だ。
「でもそれって、ヤバくねえのか」
「あいつ、何するかわかんねえぞ」
椎神は常軌を逸した恐ろしい男だ。だがらこそ死神などという凶悪な通り名が付いている。そいつがここに来る・・・おそらく怒り狂って。その事態に仲間内からしり込みする声が上がる。
「なにビビってんだ。次は椎神を袋にすればいいことじゃねえか。こっちには人質がいるんだぜ」
虎を餌にすれば、仲間を助けるために必ずやってくるはずだ。そうして1人ずつ潰していく。3人を相手が無理なら1人ずつ罠にはめていけばいい。
男の声にそれならばと、腰が引けていた仲間達が次々に虎の周りに集まりだす。
上手くいけば蒼谷の三悪を今日一気に片付けることができる。今まで散々苦渋を舐めさせられてきた。今度は俺達があいつらを半殺しにしてやる。
「犯ろうぜ」
男達の声が頭上から聞こえるが、何をしゃべっているのか虎太郎には分からなかった。
次回予告・・・「レイプ※」
キモチハSΟЯЯΥ_φ(´c_`。ヾ)。゚。*. //
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