虎狩り(2)
メモを見て戦慄が走った・・・




――――― ちか、廃工場、30分 ―――――




これって・・・まさか
千加が捕まった!!



「虎」と言ってきたからには、相手は間違いなくケンカの相手。誰かは分からないけど千加を人質に取られた。


握っていた携帯が通話中だったことを思い出し、メモのことを椎神に伝えなきゃと焦る。

「椎神!」
『とにかくコータ。すぐに帰り・・』
「千加が捕まった!廃工場にいるってメモが・・」


電話の向こうで椎神が舌打ちする音が聞こえた。


『コータ。一人で動いたらだめだよ。1時間・・・いや50分で寮まで戻るからそれまで部屋で待ってて。いいかい絶対そこを動くんじゃないよ』

ブチッと電話は切れた。
50分って・・・それじゃ間に合わない、千加が危ない!!

虎太郎はメモをテーブルに置いて携帯だけ持ち、部屋の鍵を開けたまま飛び出した。






7日ぶりに外に出た。

焦りすぎて絡まりそうになる足で必死に走る。


(クソッ、何で、何で千加を!!)


千加は無事だろうか。ひどい目にあってはいないだろうか。


(俺のせいだ!!)


俺が・・・俺なんかが友達だから。
千加は関係ないのに。俺がそばにいたばっかりに・・・


『危ないことばっかりして、いつかとんでもない怪我とかしちゃうよ』


千加の言葉が甦る。


俺のことを心底心配してくれた千加が、俺のせいで拉致された。・・・俺が千加の言うことを聞かなかったから。千加が心配していたことをもっと早くちゃんと考えていれば、千加を俺達のトラブルに巻き込むことなんて無かったかも知れない。


(もし千加に何かしてみろ!絶対に許さないからな!!)


心の中でそう叫びながら、虎太郎は人気の無い静まり返った目の前の建物をグッと見据えた。






ほとんど休み無く走り続けたせいで、呼吸は乱れ体中汗が噴き出していた。走りすぎて膝がガクガクする。その膝に両手をつきゼーゼー荒い息を吐き、額に浮かぶ汗を手でぬぐうと、べったりと流れるような汗が手の甲にしみついた。
ポケットから携帯を出すと寮を出てから25分。なんとか奴らが指定した30分以内に間に合った。

この廃工場はよくケンカで訪れる場所。
いつもは夜に来るので明るい日差しの下で工場を見るのは初めてだった。すでに工場としては機能していない人気のない廃屋。不良がたむろするには格好の場所だった。



呼吸を整えて気持ちを落ち着けてから廃屋の工場の扉を開けると、ギギギという錆びた音が屋内に響いた。薄暗い中、ガラス窓から入る光に宙を舞うほこりが光って見える。その先にたむろする一群の視線が一斉に侵入者に突き刺さり、廃屋内の鬱蒼とした空気が揺れる。




「よく来たな。蒼谷の虎」




耳に張り付く嫌な声。
声がする方を視線で追うと、勝ち誇ったような高慢な態度で虎太郎を射る視線とかち合った。
薄笑いを浮かべる口元はいびつに歪み気味が悪い。
千加を拉致るような連中だ。その声も姿も何もかもがイラつく。
20人はいるだろう。男達はいつかは覚えていないがケンカで倒した奴らだった。たった一人でやって来た俺に、余裕たっぷりの奴らはふてぶてしい態度でこちらを見下しニヤニヤしている。




「千加は・・・」
「こたろー」
「千加!!」


千加の声が廃屋に響く。やはり拉致られていたんだ。
男達の後ろに、縛られた千加が椅子に座らされていた。見た感じでは怪我は無いようだけど、もしかしたら腹とか殴られているかもしれない。

「そいつは関係ない。離してやってくれ」
「そういうわけにはいかねえ。大事な人質だからな」



人質・・・
こんなことに千加を巻き込んでしまった。
やはり一番恐れていたことが起こってしまった。

こんなことが起こらないようにケンカはやめようって思っていた矢先に、関係のない千加を危険に晒した。どうして千加を一人にしてしまったんだろう。
千加は一度俺と一緒に襲われている。面が割れていてもおかしくは無かった。それが分かっていながら安易に外に出してしまった。これは俺のせいだ。俺の考えが甘かったから・・・



悔やむ俺に男達が近づいてきた。

「抵抗してもかまわねえぜ。こっちもやられる気は毛頭ねえからな。俺達を全員倒せたらあのガキは返してやるよ」
「ひ・・卑怯だよ、そんな大勢で・・・ぐっ!!」
「千加!!」

非難の声を上げた千加はリーダーらしき偉そうに振る舞う男に頬をはつられた。

「だい、じょうぶだよ。僕のことなんていいから、逃げてこたろー」
「うるせえぞこのガキ。おい、口ふさいどけ」
「な、、、む・・ぐ・・」

しゃべる千加の口を男の手がふさぎ押さえつける。

「やめろ、千加に手を出すな!」



周りを完全に取り囲まれた。
20人なんて人数、一人じゃ倒せない。せめて千加だけでも無事に・・・。あの電話からすでに30分は経っているはず。なんとか持ちこたえて、椎神が到着するまで千加には手を出させないようにしないと。

男達の目は獲物を前にした野獣のようにギラギラと目を光らせている。ジリジリと摺り足でにじり寄り虎太郎との距離を縮めて来る。手には鉄パイプを持った奴もいてかなりヤバイ相手だ。




「さあ、虎狩りの始まりだ」




暗く陰湿な声が廃工場に響き渡った。



次回予告・・・「暴行」

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あきゅろす。
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