いい友達?(3)
散々笑った後、そこに現れたのは椎神だった。



「ね、3回まわってチューチューだよ」
「アホかあんたは、何言ってんの!普通この状況を見たら助けるだろう」
「何で?」
「僕、襲われてるんだけど」
「見ればわかりますよ」
「じゃ、助けろよ」
「だから何で?」

・・・ただで助ける気もちは皆無かよ・・・やっぱり性格がねじ曲がってる。


「私はたまたまここに居ただけですから、別に助ける理由もありませんしね。さて、お邪魔しました。あ、こっちには来ないでくださいね。では続きをどうぞ。さようなら」

そう言って元いた茂みの中へ帰ろうとする。いくら仲が悪いからといってこの状態で人を見捨てて行くか?あいつの頭の中ってどうなってんだ。ひどい奴だとは思っていたけれど、ここまで非常識な人間だとは思わなかった。もう、絶対あいつとは話したくない。こたろーにも近づけさせない。あいつはおかしい。



「な、何だよ。驚かせやがって・・・」

後ろを振り向いてこの場を去ろうとする椎神に自分達への敵意が無いことを知ると、再び2人は千加ににじり寄ってきた。



「あーーーもう、分かったから!!3回まわるから待って!!」



絶対話さないと誓ってから10秒は経っただろうか。自分の決意の弱さには情けなくなってくるけど、貞操が関わっているんだからプライドがどうとか言っていられない。H自体は初めてじゃないから別にもったいぶることも無いんだけど、こいつらとやるのはごめんこうむりたかった。

立ち止まった椎神は振り返り僕を見て、更に追い討ちを掛けるようなことを言う。

「鳴き声も忘れずに」
「分かってるよ!!言えばいいんだろ!」

恨みがましく目くじらを立てて、クソッと悪態をついてから3回グルグルまわった。そしてチューチューとやる気の無い声で鳴いてやった。


「全くかわいくない・・・かわいさのかけらもない・・・・コータだったらそれはかわいくワンワン鳴きますよ」
「お前・・・こたろーにもこんなことさせてんのか!」

ひどい。親友に・・・あの素直で純粋なこたろーに何てことをさせてるんだ。
こいつはやっぱり、こたろーにはふさわしくない。こいつの下でこたろーがどんな悲惨な目に遭ってきたかそれを思うと心が痛くなるよ。こいつの意地の悪さに耐えに耐えてきたんだろうな、だからあんなに意地らしくてかわいいのかなこたろーは。



「では、お約束どおり、何とかしてあげましょう。・・・と、言うことで先輩方」



先輩方と呼ばれた3年達はギクリと肩を上げて椎神に目を向けた。そんな怯える3年に椎神は声を荒げることもなく、淡々としゃべり始めた。

「遠野くんを助けることになりましたので。早速ですが一撃で寝るのと、痛い思いをしながらでも這いずって逃げるのと、どちらのコースがお好みですか?」

両手を開いてどっちを選びますか?と左右の手のひらを上げ下げして先輩に選べと強要している。選べって言われても、どっちもボコられることに変わりは無い。助けてもらってなんだけど、本当にひどい悪魔のような・・・・・・・死神だ。

「お、俺たちは・・・別に・・・な」
「ああ・・・ちょっと、遊び心で・・・」

先輩方は少しずつ後方に下がりながら、ある程度椎神と距離が開くときびすを返して走り出した。



「待ちなさい!」

初めて聞く椎神の荒い声。その声の矛先を向けられた先輩達は、背後からの怒声に恐怖したのか、振り返らずその場で固まった。

「今後一切ちょっかいを出さないように。それとあなた達だけではないでしょうから、ほかの連中にも言っておいてくださいね。遠野君に手を出したら・・・容赦しませんよって」

「ひっ」

小さい悲鳴が聞こえた。そして先輩達は慌てふためいて校舎に向かって走り去った。




「その格好、男に襲われましたって宣伝しているようなものですよ」

言われてはっとすると、確かに自分の格好は情けない格好だった。慌ててシャツをズボンに突っ込んでベルトを締め直し、乱れた襟元を正した。

「あんたさ・・・」
「はい?」
「どういうこと」

今回助けてくれたのは3回まわって鳴いたからだ。元々助ける気が微塵もなかったような奴が、今後のことまで手を回してくれたことに驚き何か裏があるのではないかと疑ってしまう。

「ああ・・・別にあなたのために言ったわけじゃありません」
「だろうね」

こいつには嫌われている自覚がある。何もなしに僕に有利なことをしてくれるはずが無い。



「コータがね、友達って言ったんですよ」


「え?」

「あなたのことを、大切な友達だって。ですからあなたに何かあるとコータが悲しむでしょう」

そんなことを、こたろーは・・・

俺のことを嫌っているこいつに、こたろーが言ってくれたその言葉に胸が高鳴る。僕だって誰よりもこたろーのことを大事な友達だと思っているよ。僕達ちゃんと心が通じ合っているんだね。

「大切な友達」と聞いて、有頂天になっている僕を椎神はまた冷たい目でねめつけている。けどそんなのへっちゃらさ!何も年月だけが友達を作るわけじゃない。僕はまだ出会って数ヶ月だけど、こたろーの中ではかなり信頼のおける友達になっているってことだよね!

「浮かれても無駄ですよ。あなたが立ち入る隙間なんてありませんから」

「それはどうかな〜。あ!・・・そんな事よりそろそろこたろーが来るからどこかに行ってくれない」
「え!コータここに来るんですか?」
「そうだよ、僕達はここでご飯食べるために来たんだし」
「そういうことはもっと早く言ってください、ああもう・・・・・・・龍成!ちょっと止めて」

(龍成?はい?京極も居るのか?)



椎神が茂みの向こうに慌てて呼びかけると、ガサガザと葉が擦れる音がした。そしてむこうから出てきたのは・・・女の人。


「へ?・・・なんで」


何で女がここにいる?
顔を伏せがちに通り過ぎた女の人は20代くらいのきれいなお姉さんだった。なんで男子校に女の人が。しかもなんか服装乱れてました!・・・・・・・そういえばさっきここに来たとき女の人のあえぎ声がしたけど、あれってまさか今の人の声か?




「クソが、ギャーギャーうるせえんだよ」

そのあとから胸をはだけてだるそうに出て来たガタイのいい男は・・・京極龍成。ってことはさっきいちゃついていたカップルはあの女と京極!学校でセックス!真昼間に!お日様の下で?!
初めて間近に見た京極の体はシャツの上からでも十分に分かるほど筋肉のしっかりついた強靭な体躯の男だった。その胸元の開いたシャツからのぞく肌は、男の色気をムンムン撒き散らしているが、それでいてどこか退廃的な雰囲気を漂わせている。なんでこんな危険そうな奴とこたろーが親友なんだ・・・




「が・・・が・・・学校でな・・・なんてことを、しかも女!!」
「遠野君の相手は男だったけどね」
「うるさい!僕はへんなことしてないもん」
「ははは、でも犯られちゃっても面白かったかもね。茂みを挟んでこっちで遠野くんがあんあん喘いでいて、むこうでは龍成が喘がせて・・」
「わーーーもう、それ以上言うな!恥知らず!!」

信じられない。白昼堂々と女を連れ込み校庭でするか?
見た感じ椎神は見張り役ってところだろう。そこにたまたま僕がやって来てそして先輩達に襲われて・・・幸か不幸か椎神に助けられたというわけか。



「あのな、どうしてもやりたかったんなら、せめて寮でしろよ。紫風寮なら連れ込んでいくらでもできるだろ」
「どうしてもセックスしたかったわけじゃないんですよ。たまたま連絡が来てあの女が近くに居て会いたいってしつこいから。じゃあ暇つぶしに軽く・・・」
「それが恥知らずで異常だって言ってんだよ・・・」

チッと舌打ちをする京極を見ると、もしかして最後まで出来なかった?のかもしれない。情事を邪魔されて怒ってんのか?それって僕のせいになるのか?こんなとこでやってる方が悪いと思うけど。やっぱり京極もおかしい。何を考えて生きているのか到底理解不能だ。




「だからここはまずいって言ったでしょう」
「あんな女外で十分だ。空き教室まで歩くほうが面倒くせえ」
「龍成。身なりきちんとして、コータが来るって」
「ぁあ?」
「ここでご飯食べるそうです」

椎神の言葉を聞いた京極は初めて僕に視線を向けた。「これが高校生の目つきかよ」と、かち合った視線は心を抉られそうなくらいのそら恐ろしさを感じる。

「こら、サル。てめえ次からは校舎内で食え」
「な、何でだよ。お前らに命令される覚えはないね。それに、サルって言うな!」
「うるせえ、殺すぞてめぇ」
「うっ・・・・」

椎神の睨みも実はかなり怖い。いつもは負けたくないから怖くないふりをしているけど・・・でも京極の睨みは・・・もっと・・・・・・・恐ろしい。射殺されそう。



ストン。(あ・・・)



あまりの怖さに腰が抜けて、芝生にペタンと座り込んだ。



「千加ぁ―――?千加どこ?」



遠くからこたろーの呼ぶ声が聞こえる。

「じゃ、遠野君。ここでのことはお互い内密にってことで。しゃべったらあの先輩達よりも先に死ぬほどおしおきしちゃうかもよ」



うふふ・・・と笑って極悪な2人組みは、こたろーの声と反対の方向に消えて行った。



(何なんだよ・・・あいつらは・・・)



「殺す」とか「死ぬ」とか、友達とふざけて使うことはあるけど、あいつらの言葉には・・・本気が感じられてゾッとした。



次回予告・・・「一人ぼっちの夏休み」

お母さんと龍成の美味しいご飯を天秤に掛けるこた。どっちの海鮮丼がうまいかなんて、美味ければどっちだって俺は食います。寮ではかわいい勘違いマイハニーがこたを待つ。実家を取るか寮をとるか、再び天秤はどちらに傾くのか。
この回から話はシリアスな展開に突入です。アホっぽい次回予告ともおさらばです。前半の山場がやってまいります。ああ・・・気が重い。

(この予告はフィクションです)


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あきゅろす。
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