いい友達?(2)
混雑する購買部。
昼時は腹をすかせた欠食児童がわんさか学食と購買に人だかりを作る。少し出遅れた俺達は学食をあきらめ、パンか弁当でも買おうと購買の長い列に並んだ。

「今日何処で食べる?教室、それとも天気がいいから外にする?」
「そうだな、暑そうだけど俺は・・・外がいいかな」

普段は教室だけど、こんな天気のいい日は屋外でピクニック気分を味わうのもいい。

「屋上のベンチはもう取られているよね、中庭に行ってみて空いてなかったら裏庭だね。木陰も多いし」
「裏庭遠いから、中庭が空いてるといいけどな」
「じゃあさ、僕が先に行って場所取っておくから。こたろーは日替わり弁当と紅茶買っといてね」
「ああ、分かった」

俺は何処でもいいんだけど、千加は結構場所にこだわる。芝生の上よりもベンチ。椅子だけの場所よりもテーブルのある場所。たしかに千加が見つけてくる場所は先取りするだけあっていい場所ばかりだ。だから場所取りはいつも千加の仕事になっていた。

(俺、何弁当にしようかな・・・唐揚げ、日替わり、幕の内。タコさんが入ってるのは・・・あ!最後のタコさん取られた!!)

大好きなタコさんウインナーを取られ、今日は何もかも出遅れた感な虎太郎だった。






中庭に出るとやはり、同じようなことを考えていた者達がいい場所を既に確保している。裏庭にもまだベンチはあるのでそこならまだ空いているかもしれないと、予定通り千加はいつも行かない裏庭に足を踏み入れた。



「・・・・ん・・・あっ・・」

?なにやら茂みの奥から声が聞こえる。



「ああ・・・ぁ・・も・・・」

(げ・・・これって・・・濡れ場!!こんな真昼間から学校内でどこのどいつだ!やるなら帰ってからしろよな!あれ、でもこの声・・・まさか・・・女?)

帰ってからやれというその考えもどうかと思うが、基本千加はこういうことに関しては偏見は持たない。ただ場所柄はわきまえるべきだと思う。なにせ自分達は今からここでランチを楽しみたいのだから。
しかもここ男子校なのに、聞き違いだろうか。あえぎ声は女の声のような気がしたんだけど・・・

(ほんともう、困るよね。仕方ない別の場所にするか)




「千加ちゃん」
「ひっ!」

静かにこの場を去ろうとしていたところを、後ろから急に声を掛けられびっくりして振り返ろうとすると、誰かが僕の口を手のひらで押さえて体を羽交い絞めにした。

「ムグ・・・・ぅ、・・・だれ・・・むぅ・・・ん・・・・」

誰だこいつ!
体を密着させて後ろから襲ってきた相手は誰だか分からない。自分より大柄なことは確かだ。聞いたことの無い声、そしてまた別の手がばたつく僕の腕を押さえた。

2人はいる・・何なんだこいつら。

「めずらしいじゃん、千加ちゃんが一人でふらついてるなんて。ラッキー」

覗き込んできた男の顔はやっぱり知らない奴だ。そして俺の腕を押さえる奴が前に回りこんでくる。襟章を見るとVのバッジ。3年か。
ニヤニヤしながら薄気味悪く笑う奴が、ベタベタと制服の上から僕の体を触り始めた。

「ぐえ・・気持ち・・わ・・・」
「気持ちいいことしようぜ千加ちゃん」

(気持ち悪いの間違いだろうが!人の名前勝手にちゃん付けで呼ぶな、この腐れ野郎が)

千加はあまりの気持ち悪さに、口を押さえられた手を思いっきり噛んでやった。

「痛っ!」

拘束の力が緩んだときとっさに男の腕から逃げ出したけど、足が絡まって数歩先で転んでしまった。

「おい、何やってんだ。しっかり押さえてろよ」
「こいつ・・噛みやがった・・・」
「へー気が強いって聞いてたけど、噛み付くなんていけない子だよなあ」

言うことがいちいち気持ち悪い。なにがいけない子だ、虫唾が走る。

「何だよお前達。気持ち悪いんだよ。あっち行けよ」

「何って、せっかく憧れの千加ちゃんと会えたんだから、俺達とちょっと遊ぼうぜ」
「虎が傍にいないとかこんなチャンスめったに無いよな。早いとこやっちまおうぜ」

虎って、こたろーのことか。




1年の中ではかわいいと定評のある千加は、妙な輩に声を掛けられることは多いが、ここまで強引なことをされたことは無い。せいぜい「付き合わないか」とか言われるくらいで、断れば無理強いするような奴はいなかった。

自分の身くらい自分で守れると思っていた。でもそれは大きな間違いだったらしい。

今まで自分が無事だったのは、蒼谷の三悪と呼ばれるこたろーがいつもそばにいたからだと、こいつらの発言で知ることになろうとは。自分は知らない間にこたろーに守られていた。勿論こたろーも自分が千加の横に居るだけで、そんな威力を発揮していることは知りもしないのだろうけど。



「悪いけど、あんた達全然好みじゃないから。逆に気持ち悪いし」
「ひどいこと言うよなぁお嬢様は。俺達なんかお呼びじゃないってさ」
「そんな気位が高いところもそそるよな。2人で相手してやっからさ、楽しもうぜ千加ちゃん」

ジリジリと近づいてくる男達。いい男相手なら付き合ってやってもいいけど、この2人は完全にアウト。見た目もやり方も最低の部類だよ。気持ちいいことは合意の上でないとね。
後ろは茂みの向こうに壁。逃げるには目の前の2人を抜けるしかない。
ああ・・・無事に逃げられたらちょっとだけこたろーにケンカを教えてもらおうかな。ケンカはやめてと言いつつも、こんなことをお願いしようと考えている自分は調子がいい。でも背に腹は変えられないしね。
もう、見ているだけで気持ち悪い。あんな奴に掘られるとか冗談でしょ。僕の理想は背が高くて、美形でクールで話が面白くてケンカもちょっとはできて、そんなのが好みのタイプなの!


一か八か男の横をすり抜けようと地面を蹴って駆け出してみた・・・・けど、そうは上手くいかない。簡単にガッチリ捕まえられて芝生の上に抑えこまれた。

「捕まえたよ、千加ちゃん」
「しっかり押さえとけよ」

そして、ベルトに手が伸びる。

「げ!やめろって。さわんな!!バカ、アホ、変態、ホモ、クソ野郎、僕とやりたいなら顔と性格全部直してから出直して来い、この・・・腐れ○ンキンタムシ!!!」


「ぷ、あははははははは!!」


突如上がる笑い声に僕を襲っていた男達の手が止まり、声がする方を振り返った。腹に乗っかっていた奴の体重が軽くなった隙に、そいつの足の間から這い出して男達の傍から少しだけ離れることに成功する。

「ぷぷ・・・も、だめ我慢できない。うける・・・マジで・・・うぷぷ・・・○ンキンタムシとか普通タンカ切りますかね」

茂みの向こうに見える黒髪が揺れている。そいつはどうやら笑いすぎて震えているみたいだ。


「誰だお前、出て来い!」


せっかく千加とお楽しみに突入したところを邪魔された3年達は、僕を放り出して茂みに向かって怒鳴り上げた。

「ここは場所が悪いですよ先輩方。丸見えです。本気で犯るなら空き教室がお勧めですよ。よかったらご案内しましょうか?」

やっと笑うのを止めた男が茂みの向こうから姿を現す。
あ・・・あいつは・・・




現れた男は背が高くて、嫌になるほど美形で・・・・・クールかどうかは知らないし話は面白いというよりはムカつく、でもケンカは強いだろう。僕の理想としては半分は当てはまっているけど、こいつだという時点でマイナス100点がつくほど嫌いな奴bPがそこに涼しげな顔で立っていた。



「3回まわってチューチューって鳴いてみてよ。そしたらこの場を何とかしてあげてもいいよ」



ニッコリ笑って僕に最初に放った言葉がこれって、やっぱりあんたは最低なクソ野郎だよ。

「お、お前は・・・」

3年の先輩方はさっきまでの余裕は何処に行ったのか、顔色はすでに青くなり指の先が震えていた。


「し、死神・・」

「違いますよ先輩方。私は“しいがみ”です。その名前で呼ばれるのは不愉快ですから二度と呼ばないでください」

悠然と立つその男椎神は、両腕を組んで不適に笑った。



次回予告・・・「いい友達?(3)」

颯爽と?現れたヒーロー・・・いや、ヒールだろう椎神。茂みの中から現れた椎神の正体が今明らかに!!(いや、そんなの明らかにしなくていいって・・・)そしてこたはタコさんウインナーを逃して涙したのか!!(それもどうでもいいって・・・)それを知った龍成はタコさんをレシピに加えるのかそれとも「ウインナーなら俺のチ・・」(爆死!!)

(この予告はフィクションです)

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