変化しそうでしない日々(2)
「あのさ、椎神」
「ん?」
「千加にああいう態度とるのやめてくれ」
「かわいい子はいじめたくなっちゃうんですよ」

今はニコニコしてるけど、さっきの椎神の態度はかわいい子にするそれじゃなかったと思う。あの冷たい目。他者を排除するときのあの目つき、俺は苦手だ。


「せっかく友達になったんだから」
「じゃあ私のことをちゃんと紹介してくれればよかったのに」
「お前がそれをさせてくれなかったんだろう。いきなり連れ出そうとするし。それにハムスターとか言いすぎだぞ」
「似てましたけどね。コータはああいうのがタイプ?」
「なんだよそれ。あのな、千加は同室なの」
「緑林寮の?」
「ああ、だから絶対意地悪なことすんなよ。大切な友達なんだからな。今度ちゃんと謝れよ」

「大切ね〜」

なにか含みがあるようなことを言いながら、「謝ればいいんでしょ〜はいはい」とふざけてはいるものの謝罪の約束だけはさせた。



「ねえ、龍成。コータに大切な友達ができたんだって」
「・・・・・・・・」

目の前を行く龍成は何も言わずポケットに手を突っ込んだまま、まるで話など聞いていないかのようにまっすぐに前を見据えて歩いている。

「コータと同室なんですって。名前・・・ちか?でしたっけ」
「遠野千加だよ。そうだ、お前ら用事もないのに部屋に来るなよ」
「どうして?」
「だって千加と椎神って・・・、こういう言い方は悪いけど、なんか合わないような気がする。さっきだって・・・」
「だから、それは今度ちゃんと謝りますから。コータの同室者とは仲良くしておかないとね。あ、そうだ。コレが終わったらコータの部屋に行きましょう。ね、龍成もハムスター見たいでしょう」
「何だ?ネズミか?」

あまり興味がなさそうに龍成が答えた。

「ネズミじゃなくて、ハムス・・・そうじゃなくて。龍成も千加にそんなこと絶対言うなよ」

どいつもこいつも、なんでこう波風を立てたがるんだろうか。さっきやりあったくせに、この後会うだって?千加絶対怒ってるって。会ったらまた険悪な雰囲気になっちゃうよ。この後どうしよう・・・そういえば、「コレが終わったら」って言ったけど、これから何をするんだろう。

「なあ、椎神これから何するんだ」
「いいこと」
「何処に行くつもりなんだよ」
「いいところ」




椎神はふざけて言ったが、行き着いたところには素行の悪そうな不良たちがゾロゾロたむろしていた。全員が近づいてくる俺達に一気に視線を向け睨みつけてくる。


(こ・・・怖い・・・・これはいつものパターン・・・・・)


なんでこんなところに来るんだよ。「いいところ」って言ったじゃんか。嘘つき!!あいつら普通じゃないよ。高校生ともなるとガタイがいい。自分よりも一回り大きい不良たちにビビらない方がおかしい。ああ・・・来るんじゃなかった。



「へ〜逃げずにやって来たかぁ。それだけは褒めてやるぜ。京極」
「なんだ、たった3人で俺達とやり合おうってのか?舐められたもんだぜ」



やっぱりケンカかよ。おい!
椎神を睨むが、奴はそんな俺を見てにっこり笑って「軽めの運動だよ〜」といつものごとくふざけている。
下品に薄笑いを浮かべながら不良たちが俺達3人を取り囲む。何人いるんだ?11、12人・・・と数えるのが嫌になってきたから途中でやめた。



「面倒だ、まとめて相手してやる」



龍成、お前は何でそう相手を挑発することしか言わないんだよ。龍成の言葉に頭に血が上った不良たちが一斉に攻撃してくる。

囲まれているので逃げるわけにはいかないし。

「タロ、てめぇやられたら・・・分かってんだろうな」
「あ――― もう!お前のケンカに俺を巻き込むなぁ――――――――――!!!」


乱闘が始まる。
高校生になっても。

大して変わらない俺の日常。






高校生になって更にケンカの頻度は増え、やっぱり俺の生活はこいつらによって安息を奪われた。
ただ今までと違うのは、
そんな日常でも俺はちょっと楽しんでいること・・・・・・・かな。慣れってすごいね。






「おかえりーこたろ・・・・げっ!!」

帰ってきた俺を万遍の笑みで迎えた千加の顔が引きつる。それは俺の後ろに極悪ツインズが立っていたからだ。




「な、何だ何の用だ!あ―――その線から入るな!!ここは僕とこたろーの部屋だからな。許可無く入ることは禁止だ!」
「じゃあ許可してください」
「い・や・だ・ね!だれがお前なんか入れるか。こたろーこっちにおいで。ちょっと、そこにいたらドア閉められないから出て行ってくんないかな」

はあ・・・だから言ったじゃん。今日は無理だって。
怒りが治まるまで止めたほうがいいって言ったのに、無理やり押しかけて来るんだもんな。


「椎神、今日はもう帰って。後で龍成の部屋に行くからさ。それでいいだろ」
「コータの部屋を見たかったのに」
「お前達のところと比べたらうちは狭いぞ」
「いいんですよ、広くても狭くても関係ありません。あ〜見たいなぁ、入りたいなぁ〜。コータとは親友なのに部屋にも入れないなんて残念だなぁ」

千加の眉間にしわが寄る。わざと聞こえるように大きな声で言う椎神はこれみよがしに残念だと繰り返す。

(なんだよ!まるで僕が悪いみたいじゃないか!!)



飄々としている椎神の態度が千加にはひどく気に障るようで、どんどん千加の目くじらが上がっていく。これは爆発する前に引き離した方が・・・そう思ったとき、椎神の後ろで黙っていた龍成が唐突に口を開いた。


「これがネズミか?・・・・・違うだろ、こりゃあ、アレだ・・・・・・・・リスザルだろうが。目でけえし」


「あははははは!龍成・・・最高!ネズミもいいけど・・・サル・・・サルって至言!」


・・・・・お、お前達はアホか!なにいきなり爆弾落としてんだ!!



「ふ・・・・・・ふっ・・・あ、あんた・・・達・・・・・・・・・で・・・・・・で・・・・・・・・出て行けーーーーーーーーーーーっ!!!!!」



眉間のしわが寄りに寄った千加。うん、怒って当然だよ。悪いのはあいつらだ。でも、千加の手がフローリングのクッションに伸びたとき、それはまずいと俺は慌てた。

「ご、ごめん、千加。2人とも、出てって。ほら、早く」

椎神の胸を押し、ドアの外に押しやって俺も一緒に廊下に出た。バタンとドアを閉めると、バスンと千加がクッションをドアにブチ当てた音が聞こえた。顔を上げると椎神はおなかを抱えて笑っているし、龍成はつまらなさそうな顔でケッと舌打ちをする。




「龍成!なんであんな事言ったんだよ。あれほど変なこと言うなっていったじゃんか」
「変なことか?見たことをそのまま言っただけだ。ありゃあサルだ」
「それが悪いって言ってんの。せっかく紹介しようと思ってたのに、台無しだよ・・・」
「ぷぷっ・・・」
「椎神もいい加減にしろよ・・・」

2人とも何も罪悪感を感じていない。ほんと、犬とか下僕とかサルとか、人に対して失礼なことを平気で言うんだから。

「はは・・ごめんごめん。謝ろうと思って来たのに、もしかして逆効果?」
「もしかしなくても200%逆効果だよ。もう俺、知らないからな」
「まぁ、人柄はなんとなく分かったからよしとしますか」
「人柄?千加の?」

あんなちょっとした時間で分かるものなのか?しかも何でそんなこと知る必要があるんだろうか。

「だって、コータと3年間一緒に住む人間だよ。妙なことを考えてる奴だったら即刻たたき出さないといけないでしょ。ね、龍成」
「・・・・・子ザルだったけどな」

妙なことって、なんだろう?ああ・・・意地悪とか性格が悪いとかそういった奴だったらってことか。そんなことまで考えていてくれたのか。要らない世話というか、おせっかいというか、自分のことくらい自分でなんとかするのに。

「サルじゃない。千加だよ。ちゃんと覚えてよね」
「犬とサルが同室か・・・」
「あは、キジもそのうち出てくるかもね」

龍成いはく、俺が犬で千加がサル?
じゃあお前達は、さしずめ鬼ヶ島の赤鬼と青鬼だよな・・・
ってことはそのうち桃太郎が出てきて、こいつらを成敗してくれるんだろうか。成敗・・・・・・・・・・・・成敗してくれてもいいかも・・・・・・・・・・




鬼のような奴らに先手攻撃を喰らった千加はそれからしばらく極悪ツインズを目の敵にすることとなる。それは仕方が無いことなので、怒りがある程度鎮まるまでは放置しておこう。でも仲良くはならなくていいから、せめて普通に話せるようになってくれるといいな。千加は俺の友達。極悪ツインズも俺の友達。だから友達の友達は・・・友達って言うじゃんか・・・

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あきゅろす。
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