溺れた虎 ※
「はあ、・・はあ・・・はぁ・・」
射精感の余韻がまだ体を支配している。
心は沈みきっているというのに、鎮火しきれない体の疼きを激しく呼吸することで何とか治めようとした。そうするうちに熱を持った体が少しずつ冷めて背徳感だけが心に残る。
なんてことをしてしまったんだろう。
横たわる龍成は動かず呼吸は落ち付いている。眠ってしまったのだろうか。重たい体の下から少しずつ体をずらしやっと這い出した自分の姿は見るも無残だった。
下された下着を引き上げ、腰に絡まった帯を震える手で外して浴衣をはおり直したが、腹と性器にこびりついた互いの精液が不快でたまらなく、帯を締める手が止まった。うつ伏せで寝息を立てる龍成の乱れた姿が目に入り、見ていられなくて上から布団をかけた。
なんでこんなことになったんだろう・・・始めは添い寝するだけだったのに。あいつは熱いから体で冷やせって言ってた・・・
でもキスして、舐められて・・・
龍成は明らかに欲情していた。
『お前・・・タロだろ・・・』 そう言ってちゃんと目の前にいるのは虎太郎だと認識してた。
今までのいたずらや意地悪だと思っていたことが、もしかして本気でこういうことをしたかったのではないかと疑ってしまう。
嫌だって言った、やめてと拒んだ。それでも龍成はやめなかった。でも、これは熱のせいなんじゃないのか?正気だったらこんなことするはずがない・・・
正気だったら?本当に?
本当に正気だったらしなかった?
執拗に虎太郎の手を放さなかった龍成。離れようとすると引きとめた。何度もタロと呼ぶ声はどこかさみしそうだった。
こんな龍成を見るのは初めてで・・・かわいそうだからそばにいてやろうと思ったのがそもそも間違いだったんじゃ。
こんなのいつもの龍成じゃない?それともこれが本当の龍成なのか?
熱でおかしかったんだ・・・そう思いたかった。
そう思うことにしたかった。
そうじゃないと・・・・・・今までの関係が全て壊れてしまいそうで。虎太郎は怖かった。
やっと友達だと思い始めていたのに。
一緒にいても楽しくて笑ってすごせる存在になり始めていた龍成が、男の自分に対して性的な行為に及んだことがショックでたまらなかった。遊びではなくて本気で押さえつけられたことに恐怖も感じた。
でも、龍成だけ?
欲情したのはあいつだけ?
そうじゃない。
俺も・・・・・・・・・・・・・・・感じてた。
それが許せない、信じられない。一番の困惑の原因。
無理矢理な行為だったはいえ、触れられて、なめられて、最後は夢中になって龍成に自分自身をこすりつけて・・・・・・・・イッってしまった。
気持ち悪かった・・・でも・・・気持ちよかった。
嫌だった・・・・・でも・・・自分からした。
痛かった・・・・・でも感じた。
そんな自分が、自分自身を抑えられなかったことが・・・怖い。自分の中に知らない自分がいるようで、あのときの自分を思い出すのも嫌だ。
龍成は・・・どうしてこんなことをしたんだろう。
考えて考えて考えても・・・結局はここに戻ってくる。どうしてなのかと・・・
(「タロ」)
行為の最中、せつなく名をささやかれた。あんな声聞いたことがない。
(「タロ・・・」)
欲情した声。あんな風に呼ばれたら、どう答えていいのか分からない。
いつもみたいにふざければいいのに、冗談だとバカにして言えばいいのに。本能の赴くままに求められた結果がこれだ。
これからどうしよう・・・
布団に臥した龍成に視線をやった自分の頬から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
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