若のペット(2)
「ははは。そう緊張するな綾瀬君。君たちはまだ中学生だ。いろいろ難しく考えることは無い」

暗にヤクザだと言うことを深く考えるなと言っているのだろうけど。山城さんと椎神のやり取りを見たあとにそう言われてもなあ。椎神は堂々と揺るぎない目で、自分の主である龍成を誇らしげに語った。それはほんとに、任侠映画のワンシーンみたいだったよ。





「それで、話は戻るが椎神、綾瀬君は友達・・・ということでいいのか?」

組長さんまでもが、亀山先生の言葉に当てられて俺と龍成のことを面白半分にかんぐっている。

「あは・・・そうですね」
「お前にしては歯切れが悪いな」

山城さんと椎神の会話がさっきの亀山先生の話にまで戻っておれはあわてた。

「じゃから、ほれ椎神の・・・虎太郎はコレじゃろうて」

相変わらず小指を立てていやらしい想像をする先生。「ですよね〜虎太郎君かわいいから」と助手の人まで言いだした。



「コータは若のペットです」



さらりと誤解をまねくような発言に山城さんの酒を飲む手は止まり、亀山先生の目は今以上ににんまりと垂れ下がり、助手さんは口に手を当てて笑いをこらえている。確かに飼い主と下僕関係は引き続き続行されていたが、人前で言うことか!

「へんなこと言うなよ!俺達はただの・・・・同級生だ。そりゃあ龍成は時々変なことするけど、あれは悪ふざけであって、別に何にもなかったしこれからだって何もないの!」
「時々?毎日味見されているくせに何もないってことは無いでしょう?それに何もないとか言ったら・・・また龍成が怒りますよ」
「知るかそんなこと!お前も人前で変な事言うなって」

「照れてるんじゃな。かわいいのう」
「違います!」

俺、この爺さん嫌い・・・



夕食の場でこんな変な会話をしなきゃならないなんて。絶対山城さんに変な関係だって勘違いされた。もう・・帰ればよかったと大きなため息をつくと、廊下からドスドス乱暴な足音が近づいてきた。


「まさか・・」


椎神が障子を振り返ると。

バタン!!打ちつけるように引かれた障子。そこに立つのは浴衣姿で怒りをあらわにした龍成だった。


「こんな・・・ところ、、いやがった・・」

「り、、りゅせ・・」

名前を言い終わる前に俺は龍成に腕を引っ張られ、廊下に引きずり出された。

「な・・おま、」
「うるせえ、ずべこべぬかすな。てめえは・・・」

そのままズルズルと引っ張られて俺は龍成に連行された。


「龍成!」

廊下に走り出た椎神が声をかけるが。

「寝る!!」

と言って龍成は俺を連れ、その場から消えた。嵐のような一瞬の出来事。

「ほんとうにお手つきじゃないのかの?」
「してませんよ。私の知る限りでは」

椎神の言うことに間違いは無いのだが、その椎神でさえ今の龍成の行動には呆れているようだ。

「・・・虎太郎は大丈夫かのう」
「何かあったら先生、お願いしますね。見てお分かりだと思いますが今、本能で動いてますから」

「わしゃああいつに5時間は起きん鎮静剤を打ったんじゃが・・・」
「若様39.5度でしたよ、熱」

椎神と亀山そして助手は思った。

――――――――龍成はやっぱり只者ではない。

龍成の異常さなどそんなことは百も承知だったはずなのに。常人とは違う京極家の長男。親さえ手放した凶悪な子。



「アレが、普通の子供に見えたぞ。熱が出て幼児返りにでもなったか?はははは」

とどめを刺した山城組長の言葉。凶悪な、誰にも無関心な甥っ子が、熱にうなされながらも同級生をかまいたおす様を見て、組長も珍しいものを見たと笑っている。


野獣を飼いならす綾瀬虎太郎。

本当は虎太郎が龍成に飼われているのだけれど、今の状況は全く逆に見える。弱り切った龍成がタロを手放せないでいる。懐に仕舞い込みそうな勢いでさらっていった。



その場にいた椎神以外の者は皆、虎太郎の何が龍成をあそこまで突き動かすのか、その理由を事を考えられずにはいられなかった。

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あきゅろす。
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