安定剤
6年も一緒にいて更にこれから3年か・・・
こういうのを、腐れ縁って言うんだよな。
以前の俺なら絶対拒否していたけど、今は結構寛容になったと思う。友達と面と向かって言うのはまだ照れるけど、自分の中ではあの2人の立ち位置は「嫌な奴」から「友達かな?友達でもいいかな?」になっていた。
3人の進路もこうして決まり、目前に第2希望の私立受験を控えた俺達。1週間後は受験だ。まずはしっかり滑り止めを押さえておかないと。ここでコケたら話にならない。受かって当然だもんな。
「おい・・・・・・・・・・・・・椎神・・・」
昼ごろから機嫌が悪そうに机に突っ伏していた龍成が、下校前のHLになってやっと起きた。
「電話しろ、今日は・・・ここから車で・・・・・・・帰る」
「ちょっと、どうしたの龍成?」
なんだか龍成の様子がおかしい。機嫌が悪いのはいつもだけど、具合が悪そうに見える。
「もしかして、具合悪いのか?」
傍まで来て突っ伏した顔を覗き込んで見る。ちょっとだけ見える額を指先で触ってみると・・・なんか体温高くないか?
「龍成・・・熱あるんじゃ」
俺のつぶやきに、仏頂面の龍成がムクりと頭を起こす。そっと龍成の額全体に手を当てると、やっぱりちょっと熱いような気がする。そんな俺に龍成が眉を寄せた不機嫌面で低く唸る。
「・・・そっちの手も・・・よこ・・・せ・・・」
片手は額に当てていると言うのに、奴はもう一方の手まで欲しがり、仕方なくさし出すとその手を乱暴に掴んで自分の首に当てた。
「ああ・・・冷てえ・・・・いいわ・・これ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こいつも、つれて・・帰る」
「なぬ?」
俺は体温高めな人間だぞ。その俺の手を冷たいって・・・こいつ絶対病気だわ。しかも連れて帰るって何のつもりだ?
虎太郎の手を冷却材の代わりにして額と首に当て、眉間にしわを寄せた龍成はいつもの覇気が50%減な感じで弱っているように見えた。
「やっぱり体調がおかしいね。こんな龍成初めてですよ。悪いんだけどコータ少しだけ付き合ってくれる」
「俺が?」
「だって、龍成が連れて帰るって言ったでしょう」
「言ったけどさ、家の人が迎えに来るんだろ」
「うん。でもコータもいっしょに・・・、だめですか?」
いつになく真剣な椎神の表情。そっか、一応お目付け役って立場なんだよな。どうしようかな・・・だいたい俺が行っても何の役にも立たないし、俺を連れて帰りたいのは龍成のいつものわがままだし、その龍成が具合悪そうだし・・・
「・・・分かった。でも、ちょっとだけだからな」
「ありがとうコータ。良かったね龍成。直ぐ車呼ぶから」
廊下に出て電話をする椎神。車はすぐに到着しそうだ。龍成はあれっきり俺の手を握って自分に当てたまま机に沈み込んだ。俺はそんな龍成の机の横に立ったまま人間保冷剤になっていた。
HLが始まって席に戻りたいけど、状況が分かっているクラスメイトや先生もそのままでいいと言って気遣ってくれた。やっぱり綾瀬って安定剤だよな・・・と、どこからともなくヒソヒソと声が聞こえたが今は無視することにした。
教室を出るときも、龍成は俺に背後から覆いかぶさり「死にそう」とか「だりい」とか耳元で呟きながら、俺に体重をかけてダラダラ歩いた。俺よりでかいのに首に手をまわして寄りかかるからこっちはつぶれそうだ。普段ならやめろと叫んでいるけど、病人にそれはあんまりかと思ってなんとかこらえて頭一つ分違う巨体を引きずって歩く。
門の前に黒い車。いつもは俺を歩いて家まで送った後、近くまで迎えに来るこの車に乗って龍成たちは帰るらしい。やっぱりこの車は・・・悪い意味で目立つ。黒いベンツなんて普通じゃないよな。
ふらつきながら車を目指し、後部座席に乗り込むと「膝枕だ!」と弱ってるくせにまだ態度がでかい。
「手!・・・頭と首・・・冷やせ」
それっきりしゃべることなく眉根を寄せて目を閉じた龍成に、これも介護だと思い、言うとおりにしてやった。なんか、さっきより熱いな・・・
そして車は山城邸に向かった。
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