全国ニュース(2)
次の日も。また次の日も、あいつらは学校に来ないどころか、連絡さえよこさない。



べつに、心配とかしてないぞ。うん。まあ、クラスメイトとしてだな、こんなに休みが続くと何だな、気になるというか・・・そんなもんだ。間違ってもこれは心配ではない。

「あいつら風邪かな」
「さあね」
「綾瀬って結構冷たいのな」
「そう、普通だけど」
「あんなに仲いいのに、気にならねえの」
「別に」
「じゃ。連絡とかは」
「・・・・ないよ。そんなの。あるわけないじゃん」


そう、あれ以来全くうんともすんとも連絡がない。龍成はともかく、椎神はそういうところは豆だから、連絡が来ないのはおかしいと思っていた。連絡くらい・・・俺の方がそう言いたくなる気分だ。

「ふうん。そんなもんなん」
「・・・・何が」
「綾瀬って、なんかあいつらの特別に見えたからさ。でも連絡ねえんだ。何だ、そんなもんか。わりぃ、もういいわ」

そう言って俺の机から離れて行った。
なにそれ、「特別」?「そんなもん」?
言われた言葉を頭の中で繰り返すうちに何だか腹が立ってくる。



「特別」って、それはお前らが勝手にそう思ってるだけじゃん。そんなこと思われてこっちは迷惑なんだ。しかも「そんなもん」ってなんだよ
こっちはな、もう6年もずっと一緒に居るんだよ、にわか仕込みの付き合いのお前達とは全然キャリアが違うの!何も知らない癖に知ったかぶったこと言うなよ。あいつらのことは俺が一番よく分かってんの!!!

はーはーはー・・もう、腹が立って血圧上がりそう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?



虎太郎は自分の考えに矛盾点を見つけてしまう。



一緒に居て迷惑なのに、嫌なのに。でもクラスメイトから「そんなもん」と2人とのつながりを希薄なものと揶揄されただけでこんなにも腹が立つ自分に驚いた。
散々「あの2人とは関係ありません」「俺は無関係です」「友達じゃありません」と平気で言って来たのに、今日はたった一言「そんなもん」と言われたことでこんなにも心穏やかでないなんて。



どうした俺?何かおかしい。



6年間も一緒で嫌だったのに、さっきは「6年間も一緒なんだから一番あいつらをよく知っているのは自分だ」なんて、まるであいつらの友人としてのポジションを誇示しようとでもするようなことを考えていた。


クソぅ・・・やっぱ今日の俺おかしい。
シトシト降り続ける雨を眺めながら、いつの間にか始まっていた授業など上の空で聞き流していた。

そうだ、だいたいあいつらが連絡一つよこさないのが悪いんだ。先生からもみんなからも毎日しつこく聞かれて、きっと俺思ったより疲れてストレスを感じているんだ。居れば居たで俺に嫌がらせばかりして、居なければ居ないで迷惑をかける。ほんと最悪な奴らだ。そうだ、あいつらが悪い。一言くらい連絡しやがれ!

本当に嫌いなら徹底して無視すればいいのに、すでにこんなことを考えていることがおかしいと気がつかないのが虎太郎なのだ。






その日の帰り、初日は1人で快適ルンルン気分で帰っていた虎太郎だが、5日目の今日は気持ち足取りが重たく感じていた。
雨の降りがひどくなり、走って帰ってもよかったが、目に入ったこじんまりとした本屋に駆け込み、しばらくここでやり過ごそうと店内に入った。傘立てに傘をさし、体に着いた水滴をパパッとはじき落とす。
狭い店内は数名の客と、会計カウンターにお爺さんが一人、新聞を読んでいる。手近にある週刊誌を掴みパラパラっとめくり、興味をひく記事がないかと物色する。しばらくの間そうしているとぬれた服も乾き、涼しい店内で快適に何冊目かの雑誌を読み終えた。
店内はBGMのかわりに、お爺さんがつけっぱなしにしているテレビの音が流れていた。




『昨夜23時ごろ・・・・区・・で・・発砲事件があり・・・』


流れていたのはニュース。夕方のこの時間なのでいつも見ている全国ニュースだろう。都内で起こった何かの事件の中継映像が流れていた。

なんだか物騒だな。怖い事件ばかりだ。虎太郎は今度は漫画雑誌を手に取り、自分の好きなマンガのページをめくり読み始めた。


『・・・狙撃されたのは・・天神会系列・・組の組長・・・・・で、調べによりますと』





・・・・今何て言った。





虎太郎は、雑誌をその場に置いて、テレビの方を見た。アナウンサーの声がはっきり聞こえない。カウンターに歩み寄り、じっとテレビの画面を食い入るように見つめた。




『狙撃されたのは 天神会系列の 京極組組長 京極・・・・』




!!!!!!京極?・・・・これって、まさか龍成んとこの・・・




「どうしたんじゃ坊主」

会計の前でテレビを見たまま動かない俺に店長だろうお爺さんはいぶかしんで聞いてきた。

「・・・今、京極って・・」

「ああ、何か昨日の夜、組長がチンピラに鉄砲で撃たれたんじゃと。どうせ、敵対しとる組同士のいざこざじゃろう。なんだ、坊主、知り合いでもおるんか」

「・・いえ」

俺の頭は真っ白になった。





狙撃って・・・撃たれたって・・・龍成達・・・大丈夫なのか・・・





俺は、テレビがすでに芸能ニュースに変わっているというのに、その場から動けないでいた。

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あきゅろす。
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