上書き保存
ガリッ



「っつ!!ぁ」


「分からねえなら、何度でもしつけ直してやる」


痛くて体がビクンと跳ねる。相変わらず両腕の拘束を解かれず、ベッドに張り付けられた俺は龍成の思いのまま、終始乱暴に扱われた。

首を一口噛んで痕を残すと、首筋を丹念に舐め上げる。
舐めて吸って、時には肉を噛んで、背筋や耳の辺りがゾワゾワする味わったことのない妙な感覚と、鳥肌が立つような気持ちの悪さと、でも荒い呼吸をして、無理やりされた噛みつくようなキスに体は何故か熱くて・・・



「やめ、、もう、」


苦しいのか、痛いのか、気持ちが悪いのか、そうじゃないのか、もう表現できない未知の感覚に翻弄されて泣きながら、龍成にやめてと頼む。



「他の奴が触れた痕を消してやるって言っただろうが。まだ終わってねえ」


絞められてできた痕なんて、舐めても消えないだろうに。それでも龍成の怒りは鎮まらないのか、何度も自分の雄の匂いを付けるがごとく、嫌と言うほどマーキングのような行為を続けた。






「龍成、名残は尽きないだろうけどそろそろ終わらせて。戸締りが来る時間だ」




とめどなく続くと思っていた行為は、椎神の声によって終わりを告げた。



「これからだってのによ〜」


散々好き放題したくせに、まだ喰い足りねぇと、カーテンを開けた椎神に文句を言う。


重たい龍成がやっと俺の腕を放し、体の上から下りると、俺も慌ててベッドから降りる。

唾液でコーティングされた首が、なんか龍成くさい。あいつが張り付いているみたいで嫌だった。早く服を着たい。



椎神は俺にボタンを直したシャツ見せたが、受け取ろうと手を出してもシャツを渡すそぶりは無い。


「シャツ・・・」

素っ裸なのが恥ずかしくて早く返せよと、口をとがらせて手を出すと、その手を引いてシャツの袖口を通し始めた。


「自分で着るって」

「いいから、いいから、ほら、こっちにも腕通して」

俺は着せ替え人形か!椎神は俺にシャツを羽織らせ、正面を向かせると、シャツのボタンまでとめだした。

人にされる事じゃないから、自分も下からボタンをとめようとしたら、ピシッとその手をはじき落された。

「いて、何すんだ」
「いいのコータは何もしないで」

「なんでお前がすんだよ」
「嫌なの」

笑顔は急に冷たく非情な顔に変わり、睨み据えてきた。こいつに睨まれる怖くてと足がすくむ。

「いや・・・・・・・そんなことは・・・無い」
「そう、よかった」

よくねえし・・・


隣では、「ぐあ〜やっと、目が覚めた」と、野獣が大きなうなり声を上げてさも気持ち良さそうに背伸びをしている。
憎たらしい。人にこんな嫌がらせしておいて。何だそのはつらつとした表情は。ムカつく。


「はい、コータ。これで元通り!!」

最後に上履きまで履かされて、俺はシンデレラか。椎神も笑顔に戻っている。


そして仏頂面なのは、俺だけ。




げっそりして、ソファーに置いたカバンを持って、壁にかかった鏡にふと視線をやると・・・・あれ?



俺は鏡に駆け寄った。
何で!
何これ!!

さっきより絞められた痕が濃くなってる!!!



椎神が上までとめたシャツのボタンを一つ外して、絞められた痕を見直すと、さっきよりもうっ血が酷く、絞められた痕も更に広くなっているし・・・プラス虫に刺されたような点々としたこの赤い模様は・・・・


「りゅ、りゅせ・・」
「んだよ?」

「何・・・・これ」
「ああ?痕消してやるって言ったじゃねえか」

「消すって・・・これ更に酷くなってんじゃん」
「だから、知らねえ奴に付けられた痕はきれいさっぱり消えただろうが!!」

何てことだ!!!!!




あいつの『消す』は、更に上から新しい絞め痕を付けて、傷痕の上書き保存をすることだったんだ。




不良によって付けられた痕は確かに消えたが・・・
もっと酷い痕が、首に新たに刻まれた。

信じられない。
無茶苦茶だ。
消すためにまた首を絞めるなんて、おかしい!!!



「前より、酷くするなんて・・・」

「元々はおめぇが悪ぃんだろうが」

「私も言いましたよねコータ。こんな痕付けて、後でどうなっても知りませんよって。これに懲りたら、もう自分勝手な事しちゃダメだよ」



俺の首を見て、上機嫌な2人。

震える手で、ボタンをとめ直す俺。



1人で帰ろうとしただけなのに・・・・・・

今日も理不尽な目に遭わされて、拒絶なんて到底出来なくて・・・・



2人の悪魔に両脇を挟まれて、夕暮れに染まる保健室を後にした。

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