死神はNo1
俺は靴箱まで来て、腕を離すとまた上靴に履き替え、カバンを教室に置いているという椎神に付き合って階段を上った。



その途中、踊り場の鏡で、絞められた首を見てみると・・・くっきりうっ血した絞め痕が付いている。
喉ぼとけの辺りは親指で抑え込まれた痕がとても色濃く残り、そのほかにも圧迫された場所に筋状のあざのようなものができていた。

(これって、首絞められたって分かるよな。家に帰ったらすぐにタオルでも巻いておこう。)
家族に余計な心配をかけないようにしようと、帰ってからの事を考えた。






「そう言えば、お前何処にいたんだ?」

2人が来なかったから、あんな目に遭ったんだと文句を言った。本当は1人になれて神様に感謝していたのに、その後起こったことを思い出すと、1人になるのも考え物だ。どっちにしても悪い状況にしかならない現状に落ち込む。

「ごめんね、6時間目が終わってそのまま職員室に呼ばれて」
「なんか問題でも起したのか?」

「まさか、優秀な私が問題など起すわけないでしょう」
「・・・・・・」

数分前起してたくせに。しかも学校の目の前で。
こいつの自意識過剰で女王様な所も全然変わらないよな。むしろ増長傾向にあるから怖い。

「今度英語のスピーチコンテストがあるから、学校代表で出てくれないかって声かけられて、課題暗唱文読まされてたから」

「げ、暗唱文って、アレ読めたの」
「うん」
「全部?」
「そう、全部」

こともなげに話す椎神に俺は絶句した。
勉強ができるのは知ってたけど、初見でアレを読めたのがすごい。
掲示板に「スピーチコンテスト参加」の要綱が張り出されていて俺も教科の中では英語が一番得意なので、コンテストの暗唱文の課題文が書かれていた用紙を見てみたが。
とにかく長い。A4びっしり2枚って、知らない単語もいっぱいだった。それは調べればいいけどあの量を暗唱はちょっと無理。しかも課題文以外にも自己スピーチもあるからそっちは自信がない。

「じゃあ、出るんだスピーチ」
「出ないよ」
「え、せっかく読めるのに。椎神だったらすぐに暗唱できるし自己スピーチもうまくいくよ」

学校代表に選ばれたのにもったいないと残念がると、

「金髪を染めてくれと懇願された」
「へ?」

ボソッと話す椎神。

「さすがに学校代表が、この髪じゃまずいんでしょうね〜」

なるほど。一番優秀な生徒がみごとに金髪だ。これでは学校代表として出すわけにはいかないだろう。
だから、先生は優勝できるほどの実力を持つ椎神に黒髪にしてくれ!とお願いしたのか。

「戻せばいいじゃん。黒髪に」
「嫌です。プリンにならないようにこの2年間どれだけ努力してると思ってるの」

努力の方向が違う。その才能をもっと別の事に向けようよ。


教室に着きカバンに荷物を詰めると、椎神は二度と1人で帰るなと念を押してきた。自分たちがコータを置いて帰ることは無いし、もし急用があったら必ず伝えてから帰る。そもそも今日だって教室のカバンや、靴箱を見ればまだ校舎内に居ることは分かったはずだと俺を叱る。

今日の事は、俺が悪いと?

何かふに落ちないが文句を言っても口では勝てないので、1人で帰ることはもう諦めよう。はあ、こんなことさえ自由にならないことが何だかとても切ない。


椎神は龍成のカバンも持っている。

「あいつも帰ってないのか」
「あたりまえでしょう」

そうなんだ。帰ってなかったんだ。じゃあ何処に居るんだろう。

椎神に付いて教室を出ると、行きついた場所は保健室だった。入口には『養護教諭、出張により本日不在』のカードが掛けられている。


「龍成どこか悪いのか?」

ドアを開ける椎神に、先に入ってと促される。

「まさか、ピンピンしてますよ」

言いながら椎神はドアを閉めた。

一番奥のベッドにカーテンが引かれている。あそこにいるのか。

「昨日寝てないんですよ、おかげで今朝から機嫌が悪くて手がつけられないから、昼休みにベッドに叩き込んだんです」

そう言われると、登校中あくびばっかりしてたことを思い出す。
龍成にそんな事ができるのは椎神くらいのものだ。そんな龍成の不機嫌のオーラをまき散らされたクラスの連中は午前中生きた心地がしなかっただろう。かわいそうに。

起こさないと帰れないから仕方なくベッドに近づき、カーテンを掴み引くと、そこには眉根を寄せて眠りに就く野獣が、静かな寝息を立てていた。




カチャ・・・




ドアの鍵が閉まる。



でも僕はそんな事には気づかなかった。

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あきゅろす。
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