若のペット(1)
「ねえ、明日土曜だし、泊って行きなよコータ」



鎮静剤が効いて眠りに着いた龍成だが、起きた時俺がいないとまたきっと暴れ出すと思った椎神は、「ちょっとだけ寄って」と言ったくせに、結局俺を泊めようと引きとめた。



「虎太郎とか言ったなぁ坊。わしからも頼む。さっきの勢いじゃと目が覚めた途端暴れること間違いなしじゃ」


昔から龍成のことを知る亀山先生からもお願いされ、医者がそう言うのならと、家に電話して事情を話し一日だけ泊ることにした。
インフルエンザかなと思っていたけど、ただの風邪のようで、2,3日休んだら熱も下がるみたい。39度も熱が出ているらしく、椎神が知る中では龍成が伏せることは初めてのことで、まさに鬼のかく乱。怪我はするけど病気はしない、普段元気な奴が病気になると結構酷くなるっていうからあいつもその口か。


食事の準備に時間がかかるから、先にお風呂に入るように言われ、夏休みぶりにあの広いお風呂にゆっくり浸かった。山城邸のお風呂は好きだけど去年の夏に、剥くとか剥かないとかで嫌な体験をした場所でもある。あれを思い出すと気が滅入る・・・。あのあと、何となく兄ちゃん達に「剥けるって何?」と聞いて、「こたも大人になったな〜Hも気になるお年ごろなのか」とおもしろがられ、こんこんと赤面するような話をしてくれた。おかげさまで今はもういろいろ予備知識も備わり・・・・無事に剥けました。

風呂から上がると新しい下着と浴衣が準備されていて、厚手の羽織も一緒に置いてあった。いつものことだけど旅館みたい。肌着とかないかな。Tシャツでもいいんだけど、素肌に浴衣じゃ寝る時きっと肌寒い。パジャマとかトレーナーがよかったんだけど。あとで椎神に聞いてみよう。


7時になって広間に呼ばれて夕食をとった。専属の料理人がいるのでここでの食事は豪華だ。椎神に俺、亀山先生と助手の人も今日は泊るらしい。そして山城さんもいて5人での食事となった。

「綾瀬君。今日は本当にすまないな」
「いえ、そんなこと」

小5で初めて会った山城さん。龍成の叔父さんは山城組の組長。本当は怖い人らしいけど、俺はこの家でヤクザっぽい所は見たことがない。あまり顔を合わせることが無いし、龍成達は離れに住みヤクザなみなさんは本家にいるので、夏休み滞在している間も会うことはまれだった。



「しかし・・・龍成がこれほど調子が悪いのも珍しい」
「はい。私も初めてです。あんな若を見るのは」

山城さんと椎神って雰囲気が違う。龍成のこと「若」とか言ってるし。なんか、上司と部下?そんな感じの受け答え。龍成にとっては叔父さんでも椎神にとっては目上の人になるのかな?そんなことを考えていたとき、亀山医師が俺に話しかけてきた。

「虎太郎は・・・・・もう若とHしたのか?」
「ぶっ・・・!」

俺は口の中の物をのどに詰まらせた。



「コータ大丈夫?もう、亀山先生、食事中にそういう話はやめてください」

俺の背中をさすりながら「はい、お茶飲んで」と椎神が湯のみを渡してくれる。

「なんじゃ、しとらんのか?若も案外奥手じゃのう」
「へ・・変な事言わないでください。さっきも言ったじゃないですか」

まだ、のどに何か詰まっている感じがして、もう一口お茶を飲む。

「そうか、じゃあこれから喰われるんじゃな。味見くらいはさせとるんじゃろ?」
「ぶぶっ====!」

ご飯中に吹き出してごめんなさい・・・椎神はハンカチを出して俺の口元を拭いて、拭きこぼしたお茶もササッとふきあげながら、視線は亀山先生に向かっていた。



「先生」

「椎神の・・・お前さんそう睨むな。せっかくの美人さんが台無しじゃて。ああ、虎太郎はかわいいのう。こんな男になるなよ。ただでさえ寒いのにこいつに睨まれると冷や汗かいて風邪をひきそうじゃわい」

亀山先生はひょひょと笑いながら、椎神をおちょくっている。あの椎神相手にこんな口が聞けるなんてすごい。さすが年のこう。



「わしの知る若はのう・・・・・何でも傷付け壊してばかりの子供じゃったが・・・」

亀山先生は思い出したようにポツリとそんなことを言った。食事にはほとんど手をつけずお酒ばかり飲み、そのうち山城さんのそばに寄り酒を酌み交わし始めた。

「京極から離れて5年・・6年か。少しは変わったのかのぉ」
「ふむ、相変わらずアレはやりたい放題だが。あれの性格はまさに京極の血筋。天神会の先代にそっくりや。椎神はどう思うか?」

山城さんから話を振られた椎神は、姿勢を正し向かい合って答えた。ピシッと座る椎神ってやっぱりカッコいい。俺達の前でふざけているときと感じが全然違う。

「はい。若は京極の直系として必要な力はすでに身につけておられます。気性の荒さはまさに血筋から来るもの。若を置いて京極の名を継ぐ者は他におりません。約束の5年後にはご期待以上の・・」

「そう硬い言い方をするな椎神。俺は普段の龍成の様子が聞きたいだけだ。綾瀬君が驚いているぞ」

山城さんは笑いながら椎神をたしなめた。確かに俺は固まっていた。椎神が山城さんに対して礼を取り組長に相対する態度で話していたからだ。山城さんと会話する椎神の目は鋭くて、俺は椎神のこんな目は初めて見た。


やっぱり・・・ヤクザになるのか?龍成の事を「若」と言ったこととか「名を継ぐ」とか。普段は龍成と呼ぶのに、あいつを立てて言った言葉に、俺の知らない椎神の姿を見て複雑な心境に陥った。

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