鬼(龍?)のかく乱(1)
龍成が車から降りるときはもう動けず、黒服のおじさんたちに担ぎ出されていた。
ほんとに悪いんだ・・・ぐったりとして連れて行かれる龍成なんて始めて見た。
「・・・・タ・・・・・・・・ロ・・・・・に、・・・る」
黒服の人達が立ち止まり、「若」と龍成の言葉を聞きとろうとしている。
「タ・・・・・・・・・・・・・ロ・・・・」
え?俺?
龍成がしぼりだすタロという言葉に黒服のおじさんたちが一斉に僕の方を振り返る。
「コータ。傍についててやって」
椎神にも龍成の声が聞こえたらしく、俺は背中を押されて龍成の傍に行くように促され、玄関をくぐった。
「・・・離れてんじゃ・・・ね・・。」
「ああもう、しゃべるなって。分かったから」
ぐったり両脇を抱えられて引きずられている癖に横目で俺を睨み、そのままがっくり頭を落とした。こりゃあ相当まずそうだ。
離れの龍成の部屋に行き、布団に寝かせ、とりあえずホッと一息。黒服の人は去って行き、椎神は病院から先生が来るそうなので玄関まで迎えに行った。部屋には最高潮に具合の悪い龍成と、布団の横にチョコンと正座する俺だけになった。
「あちい・・・死ぬ」
「はいはい・・・」
手を出せと、無言で訴えているのが分かる。この王様め・・・仕方なく布団ににじり寄って額に手を当ててやると、いきなりその手を引っ張られた。
「こらっ・・なにを」
バランスを崩してそのまま龍成の胸の上にダイブ。すると奴は寝がえりをうって俺を布団の上に押し倒し逆に上に覆いかぶさって来た。
「おま・・お前、何やってんだ」
俺の上にまたがる龍成はゼーゼー言いながら、熱で潤んだ目をして俺を見降ろしている。そしてあろうことか俺のガクランをグイっと引っ張った。
「なにしてんだ!、龍成。お前病人だろうが、ふざけんな」
「あちい・・・手だけじゃ足りねえ・・体で・・冷・・・せ・・・」
ガクランだろうがシャツだろうが、普段ならお構いなしに引きちぎりそうな奴だけれど、さすがに今は力が入らないのを自覚しているようで、チッと舌打ちするとボタンを外しにかかった。一つ目のボタンを外したところでブツブツとガクランに文句を言い始める。
「なんでこんなもん・・・着てやがる・・・」
「冬だからだよ!おまえこそなんのつもりだ」
ボタンを外す手を止めようと龍成の指を掴むけどそのたびに手をはじかれて、抵抗むなしく二つ目のボタンを外された。
「俺、病人だ・・・ぜ・・・おとなしく言うこと聞けや・・」
「病人なら、大人しく寝ろ!!」
「やさ・・・しくね・・ぇな。タロ・・・体で・・・看、病・・」
そこまでで言葉は途切れ、そのまま龍成の体がドンと俺の上に落ちた。
「うぐ・・・お。重い・・りゅう・・」
「ク・・クソ・・・ちから、、が・・入らね・・」
バカかこいつは!!病人のくせに、わけわからんことするからだ!重い、息が苦しい、つぶれる!!
押しのけようとしても全然動かない。力が入ってない人間ってこんなに重くて動かないものなのか。龍成は俺の体の上にうつぶせのまま覆いかぶさって荒い息を繰り返す。奴の熱い吐息が首筋にかかり、高めの体温が伝わってくる。このままじゃ悪化しちゃうよ。自業自得だろうけど・・・そのとき、
スパーン!
すごい勢いで障子が開いた。
「うむ?乳くり合いの最中じゃっか?」
布団に倒れたまま声がした方に視線をやると、そこには白髪交じりのお爺さんと、椎神、そして荷物を持った若いお兄さんが、布団の上で重なっている俺達を見降ろしながら立っていた。
「ぶっ倒れたと言っていた割には元気そうじゃの、京極の若」
「うる・・せえ・・・・クソ爺。うせろ」
「何言ってるんですか龍成。心配して飛んできてくださったんですよ」
「ひょひょひょ・・・さて、どうしたもんかのう、椎神の・・・」
「診察をお願いします、亀山先生。あんなことしてますけど見た目より悪いんですよ」
のんきに話している頭上の人物達はいったい何時になったら動き出すつもりだろうか。面白そうにこの状況を傍観している。
「椎神!!早く龍成どけてよ。こいつ重すぎ」
「ああ、コータ、そうだね」
ニッコリ笑って「やっぱりコータを連れてきて正解だった」などど言う椎神が、やっと龍成をひっくり返して俺を引っ張り出してくれるが・・・龍成の手が俺の腕を再びつかんだ。
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