進路って、自分の進むみちだろ?
3年の3学期。俺達は受験シーズンを迎えた。




あのわけのわからないスローガンを胸に、よくここまでたどり着いたと自分をほめてやりたい。いや、ここで気を抜いてはいけない。受験は目前、気合を入れないと。

俺の第一志望は県立。自転車で10分のところに高校があるのだからそこに行くのが当たり前だと小さいころから漠然と思っていた。兄ちゃん達もそこだったし。レベルもいたって普通並み。俺の成績だとA判定でばっちり合格。今までこつこつ頑張って来たから当然の結果だ。
第2志望の私立は、これも一番近いところを選んだ。
要は近ければどこでもいいのだ。



俺の志望校調査用紙を見た椎神は、

「コータらしい選択だよね。夢も希望もあったもんじゃない。おもしろくないよコレ」

と、言ったが、“おもしろい”で高校を選ぶのもどうかと思う。俺は堅実なの。高校で特にやりたいこともないし、将来の夢はこれもまた漠然と公務員か?とか考えている。そんな中でも警察官にはひそかに憧れている。だって・・・カッコイイ!あの制服着て、悪い奴をこらしめたいと、チキンなくせに思っていた。

俺も一応2人の進路が気になったので訪ねてみたら、

「コータと同じだけど」

と答えたので唖然とした。
なんだそれ。夢も希望もない進路って言ったじゃんか。しかもなんで同じところなんだ?椎神ならもっと上のレベルの高校を受験すべきだと思う。それだけの実力があるのにもったいない。



「私立は別にもう一校受けるんだけどね」

私立を2校も受験するらしい。そっちが本命の学校なのかもしれない。

「どこ受けるんだ?」

「蒼谷学園」

「蒼谷?」

聞いたことがある。有名な私立校だ。ここから3時間くらい。特急だったら1時間弱の俺にとっては遠い場所だけど、確か全寮制の・・・

「あの金持ち学校?」
「金持ちっていうか、まあ、お金さえ積めば誰でも入れる学校ではあるね。でも普通に受験して合格できる学校ですよ・・・コータもね」

「俺?俺、興味ないもんそんな学校。第一お金高そう。」

私立はお金がかかる。うちの親ケチだから絶対県立外すなって言われているもんな。

「そんなに高いわけじゃないよ。入学金は少し高いけど授業料は普通の私立と同じくらいだし。まあ、寮費がかかるくらいかな。でも一般寮なら安いですよ」
「一般じゃない寮もあるのか?」
「ありますよ。そういうところで差をつけているみたい。金持のボンボンは広くてゴージャスな1人部屋じゃないと嫌なんですよ。寮にはいくつか種類があるらしいし」

すごい、ブルジョワな話だ。高校生の分際で寮にこだわるなんて。一般市民には分からない感覚だ。

「校風も自由でね。規則も厳しくないから人気があるんですよ」
「それで、椎神はそこに行きたいの?」

かなり詳しく調べてあるんだろう。話を聞くだけでも、県立なんかより椎神にはそっちの学校の方が合っているように感じた。

「京極の家がね、蒼谷を勧めるんですよ」
「龍成の?」
「そう。」

ということは、龍成も蒼谷を受けるのか。

「蒼谷はね、私達みたいに家業や生い立ちに問題を抱える生徒が多くてね、いろいろと都合がいいみたいなんです」

家業・・・そうか。俺は1学期の狙撃事件のことを思い出した。

あの時は学校も騒然として、龍成達が学校に来られなくなるんじゃないかと、本気で心配した。家業がヤクザである以上これからもいろいろな事が龍成たちに降りかかってくるだろう。高校生になったらなおさら増えるかもしれない。そして周りの人達も龍成達をヤクザと同等の目で見るかもしれない。

そんな目に合うのが分かっているから、親は蒼谷を勧めたんだろうな。実家で事件が起こっても退学にならないような、自分達が事件を起こしてもうまくもみ消してくれるような、そう言う立場の奴が多い学校の方がいいって判断したんだろう。今まで普通の学校に通っていた方が不思議だ。



「いいんじゃないのか。蒼谷で」
「受験はしますよ。親の指示ですから。でも行くのはコータのいる学校がいいんです」
「あのさ・・・進路って、自分の進むみちだろ?俺は関係ないじゃん」
「冷たいなコータは。友達なのに・・・」
「友・・・だから言うんだよ。自分が行きたいとこに行かなきゃ」
「だから、私が行きたいところはコータがいる学校です」

話が全くかみ合わない。椎神頭いいのに、もったいないよ。俺と一緒の学校なんて。それに、

「龍成は・・・どうするんだ?」
「同じですよ。コータと」
「あいつも?」
「そりゃ、そうでしょう。親にはかなり蒼谷をごり押しされてましたけどね。龍成は言いだしたら聞きませんから」


このままだと、また3人一緒か?

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