虎太郎の意思
ニュースが流れた次の日、靴箱で去年同じクラスだった奴らにつかまって、龍成達のことを根掘り葉掘り聞かれた。




京極と言う苗字は珍しい。そして欠席が1週間近くになる。龍成の不普段の素行。それらが事件への関与を否が応でも想像させる。

「あいつヤクザだったのかよ。マジやべえ」
「やっぱ普通じゃねえと思ってたんだよ」
「あいつ学校来るのか。なんか関わり合いたくねえよな」
「先生達も否定しねえもんな、やっぱヤクザなんだよ」
「椎神も一緒に休んでるってことは、あいつもか?」
「そうかもな、いつも一緒にいたし、なんか椎神もまともじゃなかったしな」



関わるのは、ごめんだ。迷惑だと。



今まで龍成の存在が怖くても、そんなことを言わなかった奴らが、手のひらを返したように冷たい言葉を投げ捨てる。





あいつら、今日もやっぱり休むのかな。
教室に入るとやはり、机に2人の姿は見えず、昨日の今日だから当たり前かと、思い自分の机に向かおうとした。

「おい、綾瀬ニュース見たか」

やっぱり。クラスメイトのその言葉に、遠まわしに俺を見ていた奴らも視線を一気に集中させる。

「京極、ヤクザだったんだな。なんかあるとは思っていたけど、お前知ってたのか」

興味津津だ。龍成がいたら絶対言えない癖に、龍成を西中のボスとか言って祭り上げていた癖に、素性が分かったらこれかよ。


「だったら何」

「お前、知ってて付き合ってたのか」

「あいつがヤクザってわけじゃないだろ」

「そ、そうだけど。なんかやべえじゃん。そんなのとつるんでるなんて」
「それに、組長の息子かもしんねえんだぞ、ちょー怖えな」
「なあなあ、椎神もヤクザの仲間なん?」

じゃあ、お前達は何なんだよ。同じグループ気取りだったじゃねえか。
どいつもこいつも、ヤクザって分かった途端これかよ。そりゃあ俺だって初めて知った時は驚いたけど。




学校中が噂で持ちきりだった。
担任からも声をかけられたが、龍成達のことを話す気にはならない。
こんな事態になったので、改めて携帯の番号を聞かれた。メモして番号を書いた紙を渡した。ちゃんと連絡が取れるといいな。

「綾瀬は電話するのか?その、こういう事態になっているから」

この間はかけろっていったくせに。相手がヤクザだと分かり事件になったとたん、かわいい生徒をこれ以上関わらせたくないのは分かるけど、大人までそういう態度か。


これが普通。
一般人はヤクザなんかには関わり合いたくない。
そうだな。それが普通の反応だな。



だから、もう前みたいにあいつらとも関わらないと?



でもね、二人は俺らと同じ中学生だ。家はヤクザだけど本人達には関係ないんだ。
ヤクザの家に生まれたけど、あいつらが選んだわけじゃない。

数日前までは一緒に騒いでたじゃん。
仲間みたいにつるんでたじゃん。
くだらないこと言って笑ってたじゃんか。

なのにこんなにも簡単に切り捨てるの?なんで酷いことが言えるの?ひどすぎる、こんなの。


あいつらが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かわいそうだ。







それから数日が経ち、死者も出なかったことから一過性のニュースはもう取り上げられることも無かった。組長を狙撃した犯人はまだ捕まっていないようだけど。
担任は一度だけ龍成の携帯に連絡がついたらしいが、電話は本人達が出たわけではなく、家の関係者(組の関係者)と話をしたらしい。綾瀬は友達だから心配だろうと、わざわざそのことを教えてくれた。落ち着くまでしばらく休むらしいことも。


「なあ、綾瀬、あいつらの携帯知ってんの?」

また興味本位で聞いてくる。もう、うんざりだった。

「知らないよ」

答えるのも嫌になる。

「うそ言うなよ。知ってんだろう」
「なあ、かけてみたか?」
「今どうなってんのか、聞いてみろよ」

「だから、知らないって・・・」

「何だよ、つまんねえなお前」
「あーなんかおもしれえことねえかな」

その言葉、龍成の前で行ってみろよ。言えない癖に。
みんなは面白がっている。同級生の置かれている特殊な事情に。
笑ってるやつが多いけど、龍成達が登校してきたら、本人に向かって言える奴なんていないだろう。


くだらない。


そんなのでよく友達気取りでつるんでいられたものだ。
みんな都合がよすぎる。

次から次へと起こる事件に、発砲事件は世の中からはすぐに忘れ去られても、学校ではそうはいかなかった。






2人が休み始めて10日たった今日も、陰口が絶えることは無かった。

「なあ、あいつらいつ学校に来んのかな」
「あれだけニュースになりゃあ、来れねえんじゃねえの。転校とかさ」
「撃たれた組長って、やっぱ京極の親かな。死んでねえみたいだけど」
「聞いてみてえよな、なんかおもしろくね」





――――――『おもしろくね』――――――





ブチ!!!

その言葉に・・・・うっぷんが積りに積もっていた俺は・・・     ・・・・・多分・・・・・・    ・・・切れた。



目の前で面白いと笑った奴の顔を、気がついたら殴っていた。殴られた相手は驚愕の目で俺を見て、今度は怒りの形相で殴り返してきた。


「てめえ、綾瀬!なんだっつーーんだよ」


殴り返してきた相手の拳をなんなくかわして、今度は腹に一撃お見舞いしてやった。何だよその拳。それで殴りに来たつもり?
龍成相手に、嫌がらせの喧嘩相手ばかりさせられてきた虎太郎にとっては、かわすのは造作もないことだった。

「おい、やめろってお前ら、綾瀬もいきなり殴るなんて、何なんだよ」



「・・・なにが『おもしれえ』だよ。お前ら散々龍成を利用しておいて、あいつのことが分かったら、そんなこと言うのかよ!」


「いや、俺達そういうつもりじゃ」


「じゃ、何のつもりでそんな酷いこと言うんだよ!興味本位で好き勝手言いやがって」


龍成達とワンセットでいる虎太郎だが、校内で喧嘩はしない虎太郎を周りはおとなしいチキンな奴だと勝手に思っていた。いつも龍成の言いなりな腰ぎんちゃく。綾瀬虎太郎という個人よりは、京極のおもちゃかパシリという存在で認識されていた。



そんな虎太郎が今、自分の意思で怒っている。



こんな虎太郎を目にするのは初めだった。クラスメイト達はバツの悪さを感じながらも、勝手に弱者だと思い込んでいた虎太郎が噛みついてきたことに苛立ちむかついた。

「べつに、悪気はねえって、それにおもしろいって思って普通だろ?」
「綾瀬も何そんなに怒ってんだよ」
「綾瀬、調子に乗ってんじゃあねえぞ」
「助けてくれる椎神様も居ねえのに、何粋がってんだよ」
「そうだ、こいつ絶対連絡先知ってるって。やっぱ番号聞き出そうぜ」
「はっ。おもしれえ。やっちまおうぜ」





もう、止まらなかった。





クラスの不良連中が一気に襲いかかって来た。
机は倒れ、ガラスは割れ、止めに入った他の男子も構わず突き飛ばした。女子の悲鳴、職員室から中庭を駆け抜けて止めに入る教師達。
対龍成用に作られたデビル7組で、まさか、京極の抑止力と言われた綾瀬虎太郎が真っ先に問題を起こすとは、誰も予想してはいなかっただろう。






―――綾瀬の暴走―――それは完全な想定外だった。


[←][→]

29/46ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!