西中の常識
「おい綾瀬、今日の委員会ちょっと遅れるって椎神に伝えておいて欲しいんだけど」
「なあ、綾瀬、京極知らねえ?漫画渡したいんだけど、あいつ何処行った」
「綾瀬君〜手紙椎神君に渡してくれた?本当に!ありがとう優しいのね綾瀬君」
「綾瀬、京極は何処だ。学校に来ているはずなのにHL以降何処に行ったか分からん。探して連れて来てくれ」

綾瀬、綾瀬、綾瀬って・・・・・・・・


いいかげんにしろ========!!!!!!!!






「綾瀬、椎神だけどさ頼みが・・」
「俺に言うな」

どうして、みんな俺にあいつらの事を聞くんだ。それに俺は1組、あの2人は4組。俺達はクラスが違うのに、なんで。用事があるなら4組の連中に言えばいいだろう。

「だって綾瀬いつもあの2人と一緒じゃん。だから居場所も知ってるかと」
「たまたま登下校が一緒なだけだ」

「休み時間もほぼ一緒じゃねえか」
「最近はそうでもないよ」
「そうか?」

ほとんどべったりだと思うけどなーと俺の考えを否定する。周りの認識は京極+椎神+綾瀬でワンセットに見えているらしい。





わが校(西中学校)を、いや、ここ一帯の近隣校に知れ渡る(悪い意味で)赤毛君と金髪君は他校ではものすごく恐れられる存在だ。西中では、入学式から先輩達を返り討ちにしたので、早いうちに敵は減り校内であの2人にケンカを吹っ掛けるやつはあまりいない。

小学校の仲間がほぼ全員一緒に西中に進学したので、同級生に人気の高かった彼らは、今も変わらず受けがいい。
他の小学校から上がって来た奴らは、初めは廊下ですれ違うだけでも怯えていたが、彼らがむやみに人を脅したり、暴力をふるったりしないことが分かると、進んで近づくことはしないが、必要以上に過剰反応したり、差別的な目で排除するようなこともなかった。





椎神は女子に「素敵な王子様」と絶大な人気を誇った。
人当たりがよく、成績も優秀で、常にトップだ。先生から信頼が厚く、委員会の仕事なども他学年から頼りにされている。
金髪でなければ・・・ケンカしなければ・・・それが先生の口癖だ。
でも、必要以上は人と関らないから、馴れ馴れしく接近しようとする者は、天使の顔が一転して堕天使の冷徹な表情に変わり、きつい一言を食らい撃沈する。




龍成は・・・・相変わらず何考えているのかわからない。
授業中よく居なくなるくせに、成績は俺と変わらないのがむかつく。俺は一生懸命勉強しても260人中良くて50番がやっとなのに、あいつは楽してそれくらいの成績をとる。頭のできが違うんだとよくバカにされる。
授業中は寝てるか、居ないか、マンガ読んでるか。昼休みはグラウンドを見ると、サッカーとか、野球とか、バスケとかして、運動部の奴らとつるんでいることが多い。見た目は完全に極悪不良だけど。
そして自然と西中の不良が龍成の周りに集まり、彼をリーダーとして奉り上げるが、本人に不良グループをまとめる意思が全く無い。

そして少なくとも週に3回は、下校時絡まれてケンカ三昧。もちろん俺も巻き込まれる。

龍成も椎神も他人から過剰な期待を抱かれている。いい事でも、悪いことでもだ。群れることなく飄々と自分がしたい事を貫き通す。
俺のことは「下僕」として縛りつけるくせに、自分達は勝手気ままな自由を楽しんでいる。
そして多くの人間がその派手で整った見た目や、突出した強さや才能に魅了され、憧れを抱いている。




みんな、ばかだ。

あいつらに、騙されてる。






平凡な俺が2人と親しげにしているのをやっかむ連中も居た。
小学校5,6年と中1。この3年間たまたま同じクラスだったから仲良くしてもらっていたんだろうと、俺たちを良く知らない奴が影でそんな事を言っていたらしい。

俺も実際何度かやっかみを受けた。なんでお前みたいなのがあの2人の傍に居るのかって。

変わりたいのなら、いつでも変わってやるよ・・・
どうして俺があの2人のそばに居るかって?聞きたいのはこっちの方だよ!!







そして中2で念願の・・・・クラス別・・・



クラス表示が張り出された掲示板を見たとき、俺は歓喜に打ち震え、あの2人は不機嫌そのものだった。

家に帰ってクラスが分かれたことを親に話すと、

「いやだゎ、頼むの忘れちゃってた」

頼むの?

俺は母親の話を聞いて目眩がした。


「小学校の時はあんた不登校ぎみだったから、進級の時仲のいい友達と同じクラスになれるように、先生にお願いしてあったのよ。中学に上がる時も環境が変わってまたイジイジされても困るから、慣れた友達と一緒にって頼んだのよね」

母親の言う仲のいい友達とはあの極悪ツインズだ。
うちの家族は俺の言葉よりも、極悪ツインズの言うことの方を信じる。悲しいことに俺より奴らの方が信用度が高い。なんてひどい家族だろう。

そんな母親が、中学も期待通り順調に登校する俺を見て気が緩んだのか、2年の進級時に担任に相談しなかったためクラスが初めて分かれたのだ。


俺にとっては、嬉しい誤算。

これでもうあいつらも離れてくれるかもしれない。
1組と4組じゃ、体育も違うし、奇数クラスと偶数クラスは諸々の活動で一緒の組み合わせになることもない。

登下校は我慢しよう、休み時間も仕方ない、来たときだけは相手にしよう。






でも、あの2人の呪縛から、おいそれと解放はされなかった。


離れたことによって、俺は余計自分があの2人と仲がいいと思われていることを嫌なほど実感させられる。



まず、クラスが違うのに、10分休みごとにあいつら絡みの相談が舞い込んでくる。所在を聞かれたり、用件を頼まれたり。
綾瀬はあいつらのマネージャーみたいだな。新しくできた友人にそんな事を言われてショックだった。

龍成が先輩ともめると、教師や仲間が飛んできて
「綾瀬、頼む。京極を止めてくれ!!」
と俺に懇願する。
そんなの椎神が止めると言うと、
「あいつに京極を止める気なんてない。綾瀬を呼ぶのが一番いいと言ってどこかに消えてしまった。だから呼びに来たんだ」
と。・・・・・
椎神の奴!平凡な俺の生活をぶち壊す気か!!
それに、あいつを止めに行った俺が、あとでどんな目に遭うと思ってるんだ。みんな知らない癖に。他人のしりぬぐいのために何で俺が嫌な思いをしないといけないんだ!!


椎神に頼みにくい用件を伝えたいときは、俺に代わりに伝えおいてくれとか言いに来るけど、俺はあいつのための伝言サービスじゃない!


龍成の機嫌が悪いと、俺を探しに来て奴に差し出す奴もいる。しゃべらなくていいからとにかく横に座ってろとか言って。俺はあいつの精神安定剤じゃない!








あの2人に問題が発生した時は「綾瀬」を当てがっておけば万事収まりがつく。


それが西中の常識である。




知らないのは虎太郎本人だけだった。

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