保健室
眉根を寄せて苦しそうに・・・いや、怒った顔に近いか?そんな表情でスースー寝てる龍成の寝顔。寝てるときくらい普通の顔できないのかよ。



「おい、龍成、起きろって、帰るよ」

「・・・・・・」

モゾッと体が動くけど起きない。

「なあ、起きろってば。もう放課後だぞ」

「・・・・・・」

呼んでも起きない。困った。これじゃ帰れない。

「なあ、椎神。だめだ龍成起きな・・」
椎神に起してもらおうと後ろを向きカーテンを開けようとした時、ズボンのウエストをガシッと掴まれ、後ろに引っ張られた。



「ぬわっ!」
引っ張られた俺はベッドで寝ている龍成の腕の中に倒れ込み、背後から羽交い絞めにされた。

「くぉら、りゅぅぇ、離せ」

ジタバタもがくが背中から腕ごとガッチリ拘束されて、動けない。胸の前で交差する龍成の腕を引きはがそうとしても頑丈な腕はびくともしない。

「寝たふりかよ!ふざけんな、帰るぞ」

龍成の吐く息が耳を掠め、ゾワリと悪寒がする。手が駄目なら足だと、今度は両足をバタつかせ龍成の足を蹴ろうと狙うが、反対に膝で足を挟まれてしまう。

密着する体。薄いシャツ越しに伝わる体温がやけに生々しい。まるで抱き枕のようにして、後ろから抱き付き、横抱きにした俺の耳元に口を寄せてくる。



「目が覚めねぇ、全然起きる気がしねえ、だりい」

耳舐めながら言うんじゃねえ〜〜〜
ペロッと舐めて一言発した龍成は、今度はパクッと耳たぶを咥え口の中でチュルチュルと吸ったり舐めたりを始めた。

「やめろぉ、ぎもぢわるい〜〜〜、うわっ、中まで舐めんな、止めろって・・・ちょ、、し、椎神!!」

自分の力では龍成の腕からは脱出できない。ここは椎神に助けを・・・
仕切りのカーテンがふわりと開き、天の助け!椎神様が現れ、ベッドに転がる俺の状況を無表情に観察した揚句「何か用?」と、とぼけている。



「ちょっ、これ、どうにかして」

この場をどうにかしてくれと、目線で訴えると、ああ、分かったと即座に俺の置かれた状況を察して椎神がベッドに寄って来た。
よかった、椎神がいて。クソッ龍成の奴、気持ち悪い冗談かましやがって!背後に居る龍成は、椎神が来ても行為を中断することなく、まだ俺にくっついて悪のいたずらを楽しんでいる。



椎神の手が俺の足首をヒョイッと持ち上げ、上履きを片方ずつ脱がせ始めた。


「・・・何やってんだ」


脱がした虎太郎の上履きをベッドの下に置き、今度は俺たちが暴れたせいでずり落ちそうになっている掛け布団をガバッと引っ張り、適当に畳んで隣のベッドに放り投げて「これでよし!」と言った。

「よしじゃねぇ、椎神!」
「邪魔だったんでしょう」
「ち=が=う=。邪魔なのはこれ」

龍成を指差し、未だ俺の耳にご執心な龍成を引きはがしてとお願いするが、椎神は俺を無視してカーテンを引いて去ってしまった。なんてひどい奴だ。

「な、龍成、もうふざけんのやめて、帰ろうよ」
「ふざけてねぇぞ。至って真剣」

「嫌がらせか!!」
「そうでもねえ」

「じゃあ何か怒ってんのか」
「いや、上機嫌」

フフンと笑いながら背後から回る手が動き、俺の肩を掴み今度は仰向けにひっくり返された。
俺の上に獣のように四つん這いになった龍成が覆いかぶさり、上機嫌だと言うだけあって口角を上げてニヤついている。が、そんな龍成の表情が・・・・・・・・・





「・・・・おい」



上機嫌だった声が一気に下降して、腹の底から響くようなドスの利いた声色に変わった。





「なんだ、こりゃ」



さっきまでニヤついていた顔が、段々険しくなり、怒りに変わっていく龍成の視線は俺の顔ではなく、首の辺りを凝視している。





ブチブチブチッ!!




何やってんだこいつ!!

龍成は凶悪な顔のまま、何故か俺のシャツの襟元を掴み左右に力任せに開く。ボタンが2,3個ちぎれる音がし、はだけたシャツをグイッと引き下げられ両肩があらわになる。
いきなりの暴挙に何が起きているのか分からず、体が硬直した。目線を下げると自分の素肌が龍成の眼下に曝されていることに気づき、途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。
龍成を払いのけようと両手で胸を押し返すが、体重をかけている重たい体躯は迫りくる壁のようで、虎太郎の抵抗など些細なものとして押しつぶしてしまう。


「な、何すんだ、龍成!」
「うるせえだまれタロ。くおらぁ!椎神てめえ!!」

俺から視線を全く外すことなく、傍に居るであろう椎神に向かって怒声を浴びせる。
カーテンが開き、呼ばれた椎神が手にシャープペンシルを持ったまま再び姿を現し「また何か用〜〜、課題に集中できないから頻繁に呼ぶな」と面倒くさそうに俺たちを見て答えた。




「何かじゃねえ、てめえ、こりゃあ何だ?傷モノにしやがって」



傷モノ?何を話しているんだこいつらは。虎太郎は意味が分からず龍成と椎神を交互に見た。龍成は怒気をみなぎらせて椎神を睨み、椎神は酷薄な表情でそれを見返していた。

何、何何何、何この状態。何で睨みあってんの。こいつらきっと視線で人が殺せる・・・

まさに一触即発の雰囲気。

まさかここでケンカ始めるんじゃないだろうな。お前らが暴れたら保健室壊れちゃう。それよりも俺は無事でいられるのか?
険悪な空気に1人でハラハラしていると、椎神が冷たく言い捨てる。



「半分は龍成の責任ですから。あなた寝てたんですからね」

冷静な口調で、龍成を責める。

「ケッ、何責任転嫁してんだよ。てめえが目ぇ離したからこんなことになってんだろう。クソッ誰がやりやがった」
「その言葉そっくりそのままお返ししますよ。私が間に会ったからこれくらいで済んだんですよ。まあ、きっちりお返しはしましたけどね」


2人の会話にどうやら首のうっ血の痕を話していることがわかる。それはやばい。


「だいたい飼い犬の首にしっかりと縄を付けておかない飼い主が悪いんですよ」

その"犬"とはやっぱり俺のことだよな。



「ケッ、飼い主の言うことをちゃーんと聞くのが犬だろうがよ。頭の悪いペットを飼うとしつけるのが大変だぜ〜」

おい、"頭が悪い"は訂正しろ。




「じゃあ、きちんと調教しないとね」


いや〜な台詞をいや〜な顔して言うなよ椎神。俺は口の端をピクピクひきつらせて椎神を仰ぎ見たが、奴は悪魔の微笑で見返してくる。

「へ、変な事言うなよ」

やっと2人の会話に入り込んだが、情けないことに声が震えている。



「ったく、勝手な事しやがって、飼い犬に手を噛まれた気分だぜ。だが聞きわけのねえペットをしつけ直すってのも、案外おもしれえかもしんねえよなぁ、タロ」





怖〜い台詞を、怖〜い顔して言うなよ龍成。俺の頭の中ではこれから始まる身の毛がよだつような罰への公式が出来上がっていた。






     ≪式≫(1人で帰った)+(龍成の知らないとこで他の奴にボコボコにされケンカに負けた感じ)=(ペット条項の1と2に違反) 

                  
          ≪答え≫ だから、罰な

          ≪模範解答≫ コータぁ    調教だよ! 




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あきゅろす。
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