龍と天使とタロの夏休み
僕の夏休みは、朝はダラダラと寝たり起きたりを繰り返し、テレビを見ながら宿題をする。兄姉が暇を見つけては遊んでくれたが、それ以外は本を読んで昼寝をしてゴロゴロする。そんな一日を40日間過ごすのが今までの定番だった。


「おはよう」
僕のベッドの横に、きれいな顔した天使が、おはようなんて挨拶してる・・・・

「早く起きないと、龍成にまた喰われるよ」

その言葉に、眠気なんか一気に吹き飛びガバッとベッドから飛び起きる。急いで洋服を着替えて階段を下り顔を洗ってキッチンへ行くと、

「こた、あんたもう少し早く起きなさい。京極君達を待たせてばっかりでしょうが」

また来た!

「よ!タロ。おは」

京極 龍成・・・


朝7時15分。綾瀬家の食卓には、就職したばかりの長男武(たける)、大学生の長女華子、高校生の二女蝶子がちょうど朝食を終えて出かける準備をしていた。
父は居間でお茶を飲みながら新聞を読み、大学生の二男の将(まさる)は昨日の飲み会で帰りが遅くなりまだ布団の中だった。

ごく普通の綾瀬家の朝の風景に、夏休みになってから異様な面子が朝食に加わることになった。ダイニングテーブルに家族のように座っているあいつ。

お母さんが作ったご飯を、3杯目のお代わりをガツガツ腹に収めているあいつは、極悪転校生、京極龍成。

「じゃ、玲子さん、僕も朝食を頂きますね」

僕の母親を玲子さんと呼ぶ、後からやって来て丁寧な言葉でしゃべるこいつは、いつも龍成とくっついている椎神 優(しいがみ ゆう)。さっき僕の部屋までやってきてわざわざ起こしてくれた天使だ。あ、顔だけ天使みたいに綺麗で中身は悪魔みたいな奴だから堕天使とでも言おうか。


いじめ事件から僕を助けて以来、なにかと「そばにいろ」とか言って休み時間のたびに僕のクラスまでやってきて、クラスメイトの好奇の視線に曝された。

夏休みになってやっと解放されたと思ったら、ラジオ体操に毎朝誘いに来やがった。
児童の心身共に健やかな育成をはかるプログラムとかいうPTAの企画で、40日間の夏休みのうち半分はラジオを体操をしに、7時30分に学校のグラウンドに集合しなければならなくなった。

夏休み初日の7時過ぎに突如玄関に現れた龍成に母親は驚いた。

(こ・・こたに友達ができた!!!!!!)

綾瀬家は朝から大パニック。
兄姉4人が龍成に駆け寄り、名前を聞いたり、本当に友達なのかと聞き返したり、父親は龍成に握手なんかして「これからもよろしく頼む」と厳めしい顔を最大限に緩めて、末っ子の友人を歓迎した。

パジャマ姿で、母親に引きずられてきた僕は、あいつの顔を見て眠気なんか吹っ飛んだ!極悪龍成!!

「何だ、まだ寝てたのか?ラジオ体操間に合あわねえぞ・・・何なら明日から毎日起しに来てやろうか」

”毎日”その言葉に家族は嬉々として大賛成し、母などは泣いて喜んだ。
あの、甘えん坊で、気が弱く、怖がりで、泣き虫、人見知りが激しく、自分に自信が持てない、貧弱でここ最近は不登校、引きこもり傾向にあった虎太郎に友達ができるなんて、奇跡だ!!
この神様が与えてくれたすばらしき友を逃してたまるか!!!と、

「「「「「「京極君!!これからも虎太郎のことよろしくね」」」」」」

父母兄姉は声をそろえて嘆願した。龍成は、

「俺達はもう友達だから、なタロ」

『友達』だって?微妙な響き・・・あいつはこの前学校で・・・
『虎太郎ねぇ〜・・・虎って感じじゃぁねえよな・・・コタ、、タロウ、、、よし! タロ だ。 タロに決定 お前タロな!!タロ、タロははっ、うける、タロ おもしれえ!』
とか言って、腹抱えて笑いながら僕の名前けなしたじゃんか。

思い出すと腹が立つ・・・タロと呼び名を決められたあの日の屈辱。まるで犬でも呼ぶように連呼されて・・・・・・クソゥ。なのに友達とか堂々と親の前で宣言するなよ。友達なら虎太郎くんとか呼んでほしい。


健康な小麦色の焼けた肌に、意志の強い目、ニッコリ笑うと白い歯がキラリと光る。お前リポディ○ンDのCMの兄ちゃんか・・・凶悪ヅラを笑顔の下に隠した龍成は、こうやって綾瀬家の大事な客賓扱いとなり、僕のテリトリーまで易々と侵入を果たした。
次の日からは椎神もやって来て、友達が一気に2人になった事実に綾瀬家はフィーバーした。

ラジオ体操が終わると、そのままグラウンドに残った同級生達とサッカーしたり缶けりしたり、プロレスごっこしたり、僕は始め見ていただけだけどそんなこと許されるはずもなく、無理やり引きずり込まれ毎日土で汚れ、傷だらけになって家に帰った。

運動が究極に音痴でも、誰も僕に文句を言ったりいじめたりしない。
それは、龍成達がやり方は荒っぽいけどルールとかコツとかを教えてくれて、ビビりながらも耐えながら付いてくる僕に「綾瀬ってけっこうやるじゃん」とみんなの僕に対する考え方が変わったからかな。

服を汚して帰ると喜ぶ母親。龍成のおかげで、学校で遊んで帰ってくるようになった僕に、

「怪我なんて男の子らしいじゃない。今日はプロレスもしたって。勝てるようになるといいわね〜!」
貧弱で、女の子みたいなこたが、どんどん男の子らしく変わっていくのを喜色満面でほめたたえる。


帰ってきたら、午後まで宿題。椎神は勉強ができるみたいで、僕の宿題の丸付けまでしてくれる。
分からない所は教えてくれるから、同級生なのに家庭教師な椎神の事を姉ちゃんたちは「優先生」とか小学生に色気ふりまきながら言うのはよせ。


昼はお母さんが作ってくれていたおにぎりを3人で食べて、再び外で遊び、夕方になると、また明日と言って二人は帰る。これを毎日繰り返した。

[←][→]

5/46ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!