ヒーロー
「お前3組の・・・」
北川は凶悪な転校生の姿を発見し、見るからに焦っている。周りにいる奴らもそうだ。
「何だよ、何か用かよ」
迫田はいじめの現場を隠すように、引き倒した僕の前に立った。
北川達と、地面に座り込む僕を交互に見て、転校生は面白がって笑っている。
「何がおかしいんだ!」
「いや〜俺、もめごと大好きだからさ〜」
力む北川に、転校生は楽しそうにヘラヘラ笑って言う。
「面白そうなことがありそうだったから、付けて来たんやけど、、、マジで遊びてぇ」
凶悪な転校生は、手をパキパキ鳴らしながら北川に向かって行き迷いもせず顔を殴った。
グチッと拳が当たる音がして、北川は後ろによろめいた。
「いっ、、き、京極てめぇ!!」
きょうごく?
殴られた北川が叫んだ名前に聞き覚えがある。
確か・・・(3組の京極君ねすごいんだよ)・・・そうだ・・・女子が話してた、サッカーの・・・・・・・
ほんとに。
こいつが・・・?
虎太郎の目の前で、北川達を次々殴って周る転校生が、あの、、、高学年をコテンパにしたという噂のカッコイイ京極君!!!!
あの極悪転校生が京極・・・君!!!
虎太郎をいじめていた全員が、転校生にのされていく。
そのケンカの様子はとても楽しそうで、生き生きと暴れているように見えて・・・正義のヒーローが悪を倒すようにかっこよくて軽やかだった。
正義のヒーローが来た・・・
「先生に言ってやる」
北川や迫田は転校生に向かって、痛む顔を押さえて泣きながら叫んでいた。
「は〜ん?何言ってんだ?お前らが先にやったんだろ」
バカにしたように、転校生は言い返す。
「何言ってんだ、京極が先に殴ったんじゃねえか」
負けじと迫田が言い返す。
「あのなあ・・・俺の事じゃなくて、そこの」
と、転校生は僕を指差す。北川達もみんなが僕に視線を移す。
「お前ら、そいつ・・・はつったよな」
北川が喉の奥でグッと息を殺す。
「足蹴ったり、髪の毛引っ張ったり、地面に引きずったりしたよな」
全て見ていたと言わんばかりに、北川達のやったことを次から次へと暴いていく。
「そいつ、無抵抗だったよな。1対5かぁ〜」
俺との事を言う前に、何で体育館裏なんかにいたのか、そこをまず説明しないといけねぇよな〜と、ニヤついた顔で見下して言う。これは完全な脅しだ。
どう見ても部が悪い北川達は、俺と転校生を睨みながらクソッと悪態をついてその場を去ろうとする。
「あ、そうそう、お前らな」
去る北川達を大声で呼び止めると、高慢な態度で命令するように言い放った。
「今度こいつに手を出したら」
こいつって・・・・・僕?
僕を一度見てから口の端をグイっと上げニャ〜と唇を上げて、凶暴な目つきで北川達を見返した。
「ただじゃおかねえから」
極悪ヅラの京極に圧倒された彼らは、かわいそうなくらい、青ざめて逃げて行った。
その場に残った僕と、転校生。
「お前いつまで座ってんだよ」
腕組みをして僕を見下ろす目が怖い。早くこの場から僕も逃げ出したい・・・けど・・・腰が抜けてて立てない。
「まただんまりかよ」
転校生は僕の目の前に座り込んで肩を掴むと、いきなり首に噛みついた。
これって・・・また!!
「ぎゃ============!!」
転校生の胸を両手で弾き飛ばし、僕は慌てて立ち上がり、2,3歩後ずさった。
突き飛ばされた転校生は、フンと鼻を鳴らして立ち上がり、
「何だ、しゃべれるし、立てるじゃねぇか」
とこのヒーローはふざけた感じで面白がっていた。
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