3組の京極君
新学期、泣く泣く僕は母親に引っ張られて4年4組の教室に入った。



あの一日泣いた事件の日以来、家に閉じこもっていた僕は、久々に学校という大勢の人がいる場所で人見知りに陥っていた。
まず始業式は体育館に入れず、1時間目の自己紹介はどうせしゃべらないからと順番を飛ばされ、後で先生が代弁する形で紹介し、近くの席の人とも何もしゃべらずいつもの新学期をスタートさせた。

唯一ラッキーだったのは、あの名前も知らない転校生が同じクラスにいなかったことだ。
彼がいたら間違いなく今年一年不登校だ。



4年生になって2か月。
いろいろと嫌な事があるけど、我慢して何も楽しいことのない毎日を過ごした。
一人ぼっちで窓から外をボーっと眺めると、グラウンドがいやに賑やかだ。
たくさんの人数が集まってサッカーをしているが何だか様子が変だ。もめている?ケンカかな、やだな〜



「なあ、お前さ」

外を見ていた僕に、クラスの名前も知らない男子が話しかけてきた。

「お母さんと学校に来るとか、恥ずかしくねえ」
そう言って数人の仲間と一緒に僕を囲んで冷やかし始めた。

「お前すぐに泣くってな、去年教室で一日中泣いたってほんとかよ」
クスクスとバカにしたように笑われて、僕は悔しいけど言い返せなくて涙が出てきた。

「げ、ほんとだ、こいつ泣きだしたぞ」
泣き虫、泣き虫と騒ぎ立て始めたので、教室に残って遊んでいた連中も面白がってはやし立ててきた。

泣けば泣くほど僕をいじめる。
おもしろそうに理由もなく僕をいじめる。

3時間目の授業が始まって、先生に泣いている理由を聞かれても、仕返しが怖くて何も言えない。いじめた奴らは面白そうにまだ僕を見てニヤニヤしていた。




昼休みに、また外を見ていると、クラスの女子の話し声が耳に入って来た。



「3組の京極君ね、すごいんだよ」



キャキャと楽しそうに数人の女子の会話がはずんでいる。
あんなふうに話せていいな〜僕も女の子に生まれたらあんなふうに話せたのかな・・・


「中休み、5,6年生とケンカしたんだって」


ケンカの話?高学年と?きょうごくって誰?
虎太郎は女子の話に興味をひかれて耳をそばだてる。


「グラウンドでサッカーしてたら、場所を寄こせって高学年が横取りしてきたの。そしたら京極君が早い者勝ちだってつっぱねたんだって」

高学年に逆らうなんて・・・僕じゃ絶対できない。
すごい奴もいるんだな。


「でね、サッカーボール蹴って、高学年の顔面に当てて鼻血出させたって」
「うわ、すごい。かっこいい〜」

鼻血って、、、痛そう。人の顔にボールぶつけるの?なんて奴だよそいつは。


「それで、あとはもう怒った高学年が、京極君達に殴りかかったらしくて」
「で、どうなったの」
「4年生が勝ったの、すごい!すごいよね!」

5,6年にケンカ売られて勝つ奴なんているのかぁ大体ケンカは痛いし怖いよ。


「きゃー、私も見たかった」
「椎神君もかっこよかったのよ」
「あ、知ってる。始業式に3組に転校して来たかっこいい男の子でしょう」

女の子たちは、高学年に勝った同学年の男の子達の話題で持ち切りだった。




そんな女子の会話を聞いていると・・・

まただ・・・





僕はさっきの男子達にまた囲まれていた。
名前は授業中に分かった。先生が指名したから。

北川くん、迫田くん達。
この二人がいじめのリーダーだ。






何が面白いのか、彼らは事あるごとに僕にちょっかいを掛けてきた。

冷やかしや悪口などから始まり、わざとぶつかってきて押したりもする。

図工で作った作品が僕のだけ壊されていたり、体操服が隠されていたり、間違いなく彼らの仕業だと思う。
僕を心配してクラスの女子が先生に告げ口をすると、北川君達はさらに隠れて僕へのいじめをエスカレートしていった。




そして、1学期もあとわずかで終わる頃。
僕は体育館の裏という、いじめるには格好の場所に呼び出されていた。






北川達5人に囲まれる僕。


「先生にチクッただろう」
「・・ぼ・・ぼく・・なにも」

言ったのは女子だろう。今まで何度か僕がいじめられているのを見て先生に報告してくれていたから。

「お前がチクッたに決まってる」
「ほ、ほんとに、、言ってな、、」

ドン!!と力任せに押されて、体育館の壁で強く体を打ちつけた。
甘やかされて育った虎太郎は暴力に対する抵抗力が全く身についていない。男の子がよくするケンカなど一度もしたことがない。

壁に背中が当たっただけで、もう目には涙が浮かび、泣き声を漏らし始めた。

うっ、、ぐすっ、、ううっ、、

「おい、こいつ、もう泣いたぜ」
1人が僕の顔をはつった。パシンと言う鈍くて渇いた音がコンクリートの壁に響く。

「泣き虫、弱虫」
今度は、足のすねをガツンと蹴っ飛ばされ、

「もっと泣かせてみようぜ」
髪の毛を掴まれて、グイっと引っ張られた。

わやわやと面白いからやろうぜと、口々に言っている。
肩を掴まれて引きずられ、地面に転がされて、目の前に北川の影が落ちた。

痛い、怖い、やだ、助けて、お母さん!!!






「なあ、お前ら〜」

突然その場に不似合いな間延びした声がして、北川達が身じろぎ後ろを振り向いた。
地面に座り込んでいた僕も、声がした方に目を向ける。


・・・・・・

・・・・・・・・・あれって

・・・・・・・・・・・・・・・げ、転校生。


北川達の向こうに、数か月前に教室を凍らせ、あろうことか僕の首に噛みついて笑った凶悪な転校生が立っていた。

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あきゅろす。
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