後始末 ※


死神の冷酷な宣下。


右手にはめたゴム手袋が薄暗い部屋の中で真っ白く浮かび上がり、その長い指が手袋の装着具合を確かめるように動かす様は、奇妙な生き物が蠢いているように虎太郎の目に映った。


「さあ、言うことを聞いてコータ。膝をついて座りなさい」


布団に座る虎太郎の目の前に立った椎神が、白い手を伸ばしてくる。柔らかい樹脂の手で前髪を撫で上げられ、妖しげな指先が接触した体は、それに拒絶反応を起こしビクリと跳ね上がった。

これから椎神が自分に何をしようとしているのか・・・・。
それが分かるからこそ、虎太郎は怖いのだ。
龍成との情事の後は、椎神によるいかがわしいい性の加虐が待っていた。

自分を凝視したまま動こうとしない虎太郎の正面に立ち、その体に影を落とした椎神は、冷笑を浮かべて震える旧友を見降ろす。その美麗な顔に弧を描く死神の口からは、旧友を絶望に突き落とす言葉しか出てこなかった。

「ちゃんときれいにしておかないと、後で辛い思いをするのはコータですよ」


(やっぱり・・・やっぱり椎神は)


椎神は、虎太郎が嫌でたまらない行為を施すために、ここへ来たのだ。


それは、・・・・・・・・



――――― セックスの後始末。




後孔の処理は、屈辱以外の何物でもなかった。


体の奥に残されたままのモノは、全て体外に出してしまわないと後々後悔に苛まれることになる。
体内に残る・・・・・・・・男の精液。
歩くと垂れ下がる穢れた体液は、男に犯されその欲望を溢れるほど受け入れさせられたことを思い出させる。時には残滓により腹痛が起こることもあり、セックスの後までも嫌悪感や痛みに襲われるのだった。

凌辱の証が、まだ身の内で自分を穢し続けている。
ここに龍成は居なくても、体内にはまだ龍成がいる。
自分の中にあの凶悪な獣が残っていると思うと、自分の腹さえおぞましくなる。今すぐにでもその存在を消したくてたまらなくなった。

その処理を他人の手にゆだねる屈辱。
まして椎神の手など・・・・・・・・二度とこの体には触れさせたくなかった。

「お、俺・・・いい。・・・・・ 自分で、」

「させませんよ。これは私の役目ですから」

間髪入れず否定した椎神は、虎太郎の腕を掴み膝立ちさせようと引っ張り上げる。強引なところは龍成と何も変わりはしない。

「いっ、!」

掴まれた腕は、龍成によって蹴りを喰らわされた二の腕。そこは赤黒い内出血の痕と、打撲で肉が少し腫れたようになっていた。

「コータが強情を張るからですよ、さあ」

椎神は冷酷な目で虎太郎を見下ろし、膝をつけと再び命令した。

(どうしてまた・・・・・もう・・・11年も経っているのに・・・またこんな・・・)

獣と死神に、否定の言葉や拒絶の言葉は通用しない。
それどころか抵抗は逆に火に油を注ぐ結果になり、その結果更にむごい目にあわされる。そして2人は、獲物を嬲りながら、痴態に呻く様や泣きじゃくる様を見て自分達の物だと嘲笑う。

抵抗は、無駄。
サディスティックな2人を煽り楽しませるだけ。
より相手を興奮させ、その煽りを喰らうのは自分だった。
それに・・・・
もうこれ以上痛い思いをするのは・・・・・・・・・・いやだった。

自分はあの獣に犯されたのだ。
出来る限りの抵抗はしたが完膚なきまでに叩き潰された。力で勝てない、そして女のように抱かれて・・・・・そんな自分に何が残されているかと考えると、もう自分を守る必要性を虎太郎はあまり感じなくなっていた。



虎太郎は痛む体を無理に起こして、椎神に支えられながら布団の上に膝をついて立つ。体の中心を隠していた黒いスーツが、膝立ちになった足元にバサッ・・・と滑り落ちた。

「ああ・・・きれいですよ、コータ」
「・・・・・・」

一糸まとわぬ傷だらけの・・・血の華が咲く虎太郎の体。
胸の小さな突起の周囲は、獣の口によって念入りに嬲られた跡が残っている。
薄い筋肉が程良く付き、引き締まった戦士の体は男らしく見えるが、全体的に細い体つきや腰のくびれが、青年の体にまだ少年の部分を残しているようで見る者の嗜虐心を駆り立てる。
脚の付け根から太ももの内側にかけて散りばめられた口付けの痕の多さに、よほどその体が美味かったのだろうと、獣が貪欲に貪った執着の深さを見る者に知らしめた。
傷、血、散った花弁・・・・・・。敗北した戦士は倒錯的だった。

「素直なのはいいことです。コータ、そのまま脚を開いて」

言うとおりにすれば、椎神は優しいそぶりを見せる。
全裸の虎太郎が膝立ちになり脚を肩幅に広げた体勢になると、椎神も虎太郎の前面に膝をつき2人は向かい合わせになる。

「私にすべて任せれば、何も心配することはありません」

だから「何もしなくていい、力を抜きなさい」と、耳元で囁く。
天使のような優しい声が、それとは真逆の恥辱にまみれた行為を促した。



衰弱している虎太郎が膝立ちの体勢を取り続けるのはつらいので、椎神は自分の肩にしっかり掴まるように虎太郎の手を導く。すでに膝はこの姿勢に痛みを訴え始めていたので、すがるように虎太郎は椎神の肩につかまった。
傍から見れば愛し合う者同士がピッタリと体を抱き寄せ、抱擁し合っているように見えるだろう。
椎神の肩に自分の顔をうずめて隠す。虎太郎はもう何も見たくなかった。
そして訪れるであろう淫猥な指先を、息を殺して怯えながら待つ。

虎太郎の背中を椎神の左指がツーっとなぞると、ゾクリと肌が泡立つ。それは不快がほとんどであり、二の腕には鳥肌が立つときのゾワゾワとした感覚が走った。下って行く指が尻の割れ目の上でピタリと止まると、クスリと鼻で笑う声とキュポッとチューブを開ける音がした。

ブチュブチュとジェルを出す耳障りな音に、耳を塞ぎたくなる。

(嫌だ・・・)

割られた尻の間の、性交によって腫れ上がっている秘所に、ヌルッとしたジェルが塗りつけられた。

「くっ!」

喉の奥でくぐもった声が鳴る。蕾を優しく愛でるように撫で、ジェルを追加しながら丁寧に塗り込んでいく。

「んっ、ぁぁ」

冷たいジェルが熱を持ち腫れそぼった蕾を撫でると、鈍い痛みとムズムズする感覚が沸き起こり自然と声が上がった。自分の漏らした声に、虎太郎は開いていた口をあわてて閉じ、顔を椎神の肩に押し付けて羞恥に耐えた。

「声、もっと聞かせて・・・コータ」

椎神の手袋をした指が、ジェルの助けを借りて孔の中にズブズブと侵入してくる。

「いっ、・・・んぁ!」

ツキンとした、入り口の傷と指が擦れた痛み。
獣との残酷な性交は、挿入直後にアナルが裂けるという耐えがたい激痛を虎太郎に与えた。
指1本でも痛い。当たり前だ。孔は切れている。
それでも椎神は構わず、指を中へと侵入させた。

「あ・・・ぃっ・・・いた・・・ぁ」

長い中指を奥まで埋め込んだ後、腸壁を押すように孔の中の感触を確かめる。
指が動くたびにグジュジュと水音が室内に響き、開かれた孔の隙間から重力に逆らえない汚れた生温かい液体が、太ももを伝わってドロリと流れ出てきた。

(痛い・・・・気持ち悪い・・・・)

痛みと汚れたモノが流れ出る感覚。自分の体内から他人のモノが排出される異常さに、おぞましさがその身を小刻みに震わせた。

「っ・・・いっ・・・痛い・・・」
「まだ、たっぷり入っていますよ」

グチュグチュと中を掻きまわす指は、特殊な生き物のように虎太郎の中で肉を掻き分け中を広げながら淫らに蠢く。

「う、・・・あ、も・・・・・・・やめろ・・・・・」

クチュグチュル・・・

「何回、中に注がれたんですか」

とめどなく流れ出る汚れた精液に、椎神はどれだけ中出しされたのか詰問してくる。

「くっ、」

(そんなの、そんなの・・・・・・・・・・・・・・・・・分かるかよ)

龍成の荒れ狂ったように激しいセックスは、衰弱しきった虎太郎には長く耐えられず、注挿が始まり裂けた痛みが痺れに変わって感覚がマヒしてきた頃、深淵へと意識を手放した。
だから龍成が意識を失った自分をどのように犯し続けたのか、何度この身に汚れた欲望を吐き出されたのか・・・・そんなことは全く分からなかった。
それに、

(そんなこと、知りたくもない・・・・)

膝が痛くなり立っていられなくなった虎太郎は、無意識のうちに椎神の肩から首に腕を回している。
崩れ落ちそうな虎太郎の腰を椎神は左腕でしっかりとささえ、右手は休むことなく孔の中で前後左右に動かし続けた。

「た・・・。痛い・・・・も・・・っ・・いたい・・・」
「もう少し我慢しなさい。それとも、中に残しておきたいですか。龍成の種を」
「っ・・!」
「ふふっ。女なら間違いなく孕んでいますね。飢えた獣・・・龍成におあずけなんてさせたコータが悪いのです。反省しなさい」

椎神は手首まで、ジェルと虎太郎から漏れ出た龍成の精液にまみれている。
その手から垂れ落ちる濁った精液が、虎太郎の膝に絡まるように落ちている龍成の黒いスーツの上に、ポタポタと汚れた染みを残す。

黒いスーツに落ちる白濁の情痕。
抗うことのできない闇に囚われ続ける自分。

「ふっ、んぁ、 も・・・やぁ・・・」

(もう・・・こんなの・・・)


(もうやだ。誰か・・・誰か・・・・・・・・・た・・・すけ・・・て。)


虎太郎の心を辱めおとしめる、邪淫な死神が統べる隠靡の時。
椎神は自分にだけに許されたこの淫猥な時を十分に味わい、小さな子供のように自分にすがる虎太郎を、そのきれいな指で犯しながら甘美な世界に酔いしれた。




「おかえり、コータ」




死神は凍てつくような美しい笑みを浮かべたまま、闇の中で崩れた虎太郎の体を愛しむように抱きしめた。

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