桃色気分(1)
「ども・・・綾瀬虎太郎です。2年です。よろしくお願いします・・・」

みんなの視線がなんか・・・変?自己紹介失敗したか。




今日は千加に連れられて初めて英会話研究会にやって来た。
空き部屋といっても狭く、元々は資料室だったところを使わせてもらっているようだ。テーブルを囲んでパイプ椅子に座るのは総勢7人。少ないとは聞いていたけど7人の部活ってのも文化部なら珍しくはないらしい。3年が3人、2年が俺を入れて2人。そして新1年が2人。そう・・・俺は仕方なく見学に来ただけなのにすでに部員名簿にその名を記されていた。

「あーこたろーはね知っての通り三悪とか言われてるけど悪じゃないから。むちゃくちゃ優しくておとぼけ君でかっこかわいいんだから!そこんとこ勘違いしないでね」

もっとましな紹介をしてくれればいいのに。ほら見ろみんなポカンとした顔で見てるよ。そんな中、佐久間さんだけは笑っていてかわいい後輩が増えてうれしいとわざと聞こえるように大きな声で言った。

「ああ、遠野。お前のあれ、入部どうだ?」
「だめだね。バスケ部は掛け持ち禁止だって」
「遠野の色仕掛けでもか?」
「すんごーーーーく悩んでたけど、結局部活を取るんだよね。だからしばらく口聞いてやんないの」

佐久間さんと千加の会話を聞きながらまだ部員を増やそうと何やら画策しているのが分かる。でも色仕掛けって・・・・何やってんだこつは・・・




「さて、今日は新しい部員も増えたし今年1年の大まかな流れを説明しようと思う。英語力を上げることが第一だが、それと同じくらいみんなが楽しく過ごせる部活であってほしいと私は願っている。部長として全力を尽くしていくつもりだから意見がある場合は気兼ねなくどんどん言ってくれ」

へー結構まともなことを言う人なんだ。初対面があんな感じだったからちょっと変な人かと思っていたんだけど、顔だけじゃなくて中味も案外いい感じな人なんだ。
入部にはかなりの不安があったけど話を聞けば部活内容もしっかりしているし、何よりも英会話には興味があったからしばらく部員として活動してみようかという気になってきた。






ピロリ〜



まだ明るい下校時。
これからだんだんと日が高くなっていき6時過ぎくらいではまだ夕暮れでも十分明るかった。千加と2人今日の部活の話なんかをしながら寮への道を歩いていると、ポケットの携帯がメール着信音を伝える。すぐさま開いてみると・・・



「あ!」


――――― 佐藤美里


う・・・うわっつ!!さ・・・佐藤さんからだ・・・



メールの相手はあの淡い桃色のラブレターの女の子。




俺はあれから返事を考えたあげく、何も返事をしないのはいけないことだと思い、結局答えを出せないままやってはいけない曖昧な返事を返してしまった。


――――― 手紙、読みました。ありがとうございます。


俺はそこまでしか思いつかず迷ったあげくその文面で転送してしまった!訳の分からない男だと思われただろう・・・別にかっこも付けたい訳じゃなかったからそれが原因であきれられても仕方ないも思った。とにかく返事だけはしておかないと失礼なので送ってみると、その後すぐにメールが来て、


――――― お返事、ありがとうございます。うれしいです。またメールしてもいいですか?


返事が返ってきてびっくりした。それもあきれたとか言う感じじゃなくて、俺と似たような短めの文。それを読んで俺は迷わす返事を打ってしまった。


――――― はい。


これだけ・・・・。

でもこれでも精一杯だった。
いきなりのメールのやりとりに、心臓はもうバクバクだった。なんかこれってもしかして本当に友達とかになっちゃうんだろうか。


そして今、あれ以来2日ぶりのメールが届いた。




「何固まってんの?誰から?」

メールを見たまま動かない俺の態度を不審がった千加が、携帯をのぞき見る。

「み、見るな」

あわてて隠すがそれこそ挙動不審。疑ってくださいと言っているようなものだった。

「あーーこたろー。もしかしてあのおさげちゃん?」

おさげちゃん・・・それは佐藤さんのこと。千加はあの場所で佐藤さんを見ていたから彼女の髪型を名前の代わりにそう言っているのだ。

「う・・・・・・・」
「やっぱり。すごいじゃん、もう連絡する仲になったの?」

「いや・・・これは・・・まだ2回目だけど」
「わ〜こたろーにしては思い切ったね。よく頑張った!で、なんて連絡してきたの」

興味津々で内容を聞いてくるけど、俺だってまだ見ていない。覗くなよ!と言ってメールを開いて読んでみる。

「何うれしそうな顔してんの!」

にやにやしながら俺の顔と携帯を交互に見る千加は早く内容を教えろとせっつく。

「・・・元気ですかって・・・」
「?それだけ」

「・・・うん」
「・・・・・・」


・・・・・・・・・・マジですか。こたろー君。
何だこのぽやや〜んとした生ぬるい雰囲気は。


好きな相手にメールしてその内容が「元気ですか」だけとか、何考えとんのじゃあのおさげ!しかもたったそれだけの文面に顔を真っ赤にして固まるこたろーってどこまで初心なん!
このままじゃいかん。ここはガツンと一発!


「すぐに返事打ちなよ。今何してんの、とか今度会おうとか。電話していいかとかさ!」
「えええ!!!何でそんないきなり。無理、むりむりむり!おかしく思われるって」

「そんなこと無いって、おさげちゃんきっと待ってるよこたろーが誘ってくれるの」
「そう・・・・・・・・・・なのか?」

女の子の心境なんて分からないこたろーは、千加の言葉にせかされてとにかく返事を打たなきゃとそればかりが頭を占める。
でも、何て打てばいいんだろう。なんて打てば・・・
考えた挙句、ひねり出した言葉をピピピと入力してすぐに返信を押した。



「ふう・・・」

返事を送り返す、ただそれだけのことに動悸がする。


「なんて打った?ちゃんと誘った?」
「へ?」

「会いましょうとか打たなかったの?」
「そ、そんなこと打つわけないじゃん」




『元気ですか?』と聞かれたから・・・『元気です』と打ち返したのだ。たったの4文字を全力で。




「は・・・はは・・・・・あははは・・・・・・」

千加は引きつりながら笑うしかなかった。

こたろーの・・・・・・こたろーのバカちん!
何だよ・・・この緩いピンポンゲームは・・・・・・・・

耳まで紅く染めた純情少年のふがいなさに、はあーーーーーーと今年一番の大きなため息を吐いた。

いかん・・・こんなニブチン共を放っておいたら、延々と一文ずつ送り合っていつまでたってもお見合い状態から先に進まない!ここはキューピッドとして一肌もふた肌も脱がないと。
こたろーの明るい恋愛のために全面的に協力しよう。まずは帰ったらこれからの予定を詳しく立ててやろうと考えた。デートだデート!メールなんかで満足してたらこの2人会うのに何ケ月かかることやら。今月中には絶対に計画を進めてやる!!と一人意気込んだ。


夕暮れ時なのもあって、こたろーの顔は更に赤みを帯びて見えた。照れ隠しに目をキョロキョロさせながら落ち着かない様子で歩くこたろー。きっと初めてであろう女の子への気持ちにどうしていいかわからず戸惑っているに違いない。



あれから千加はずっと考えていた。こたろーの笑顔を取り戻す方法を。

楽しいことや何か夢中になれること、そんなものを見つけて欲しくてこたろーが得意としている英語が生かせる英会話研究会にも無理やり誘ってみた。特にやりたいこともなくいつも人に流されているこたろーが、自分から進んで行動することは考えられなかったから。やりがいのあることや目標を見つければ毎日が楽しくなる。前進しようとする力やチャレンジ精神が自然とみなぎって来るものだ。

時を同じくして偶然起こった告白。
新入生の1年でもよかったけど、こたろーはオンリーだから女の子が告白してくれてよかったと思う。恋愛はものの見方や考え方をガラリと変えてくれる人生のスパイスだと僕は思っている。
恋愛は時には激しく、時には優しくその心を満たしてくれる。こたろーが今みたいに恥ずかしそうに笑ったり、あの短いメールを見るのにあんな嬉しそうな顔をしたりして、心をときめかせているのを見て、こたろーを取られるかと思うと寂しい気持ちもするけど、安堵する気持ちの方が僕の中では勝っている。



特に美人だとも思わなかったあのおさげの子。
はっきりものも言えないで下ばっかり向いて。
あの子も恋愛は不器用っぼい。
至って普通。何処にでもいるような女子だった。

でも、それがいいんだと思う。
普通なのが。
こたろーには普通の恋愛がして欲しかった。

普通。でも素敵な恋愛。



あんな怖いことなんか忘れちゃうくらい。
新しい世界に目を向けて欲しかった。


京極なんかにいいようにはさせない。あんなのと一緒に居ていいことなんてあるはずがない。実際こたろーは苦しんだじゃないか。
だからこたろーには幸せになってほしかった。

あいつらの檻の中から飛び出して、自由を手にして欲しかった。

こたろーがあの子のことが好きなら、その思いを成就させてあげたかった。

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