春の嵐(3)
「男はだめ?」

「当たり前。椎神もそうじゃん」

「私は男だから断ったわけではありません。自分の好みだったら男女は問いませんから」
「は?」

・・・・こいつもか。


千加と同じようなことを言う椎神の言葉にあんぐりと開いた口。波長は合わなくて会えば口ゲンカばかりしているけど、恋愛観に関しては一緒か。でも似てるなんて言ったら千加が激怒するから今思ったことは言わないようにしておこう。

「コータ。本当に好きだったらね、性別なんて関係なく誰よりも大切にしたいって思うんだよ」
「無い無い無い、それは無いって」
「コータには無くても、そう言った感情はちゃんと存在するんだから」

妙にまじめな顔で話す椎神の言葉に、そんなものなのか?と疑問符が頭にいっぱい浮かぶ。性別が関係ないって、男が男を好きになったり、女が女を?・・・・おえぇ・・・俺だめ、想像しただけで寒気がするけどな。でも・・・


(本当に好きだとしたら?か・・・)


たとえば・・・たとえばだぞ・・・千加を想像してみるとする。あいつは男にしてはかわいい、俺も千加が好きだ。友達の中では多分一番好きだけど・・・・・その好きは友情であって、どう転んでも恋愛対象にはならないぞ?もし千加から告白されるようなことがあったとしてもきっぱりと断る自信がある。

「コータはかわいいから、これから言い寄ってくる奴がいるかもしれませんよ」
「まさか。そんな物好きそんなにいるわけ無いよ。俺普通だし」

「何言ってんのコータ。知ってた?今年は三悪めあてに入学した子がすごく多いってこと」

「うそだろ・・・」

蒼谷の三悪ってそんなにメジャーなのか?そして俺もその中に入ってるわけ?

じゃ。・・・・・龍成も?




チラリと視線を龍成に送る。さっきから難しい顔で眺める本は「鯛の一品」と言う料理本。それをめくりながら時折本の端に折り目を付けている。来週あたりには鯛料理が食べられるかもしれない。



こいつは恋愛とかに興味があるのだろうか?女の子と一緒に居るところは見たことも聞いたこともないけどモテる要素は俺なんかよりたくさん持ち合わせていると思う。見た感じも大人だし、まあその・・・・男らしいし顔もカッコいい部類だと思う。凶悪な目つきと残忍非道な行いがその全てを棒に振っているわけだけど。
俺の知らないところで彼女がいても全然おかしくないし恋愛とか似合わなさそだけど。


やっぱりこいつも、1年生に告白された口なのかな・・・・・


龍成をぼんやり見ながら、「彼女とかいるのか?」と聞いてみたくなるけど、もしかして突拍子もないことを言おうとしているのかもしれないし、またデコピンの刑を食らうかもしれないので喉まで出て口をつぐんだ。
でも・・・・・やっぱり聞いてみたい。どうしよう。


そんな俺の頭の中などすでにお見通しな椎神が突然ケタケタ笑い始めた。



「あはは・・・さすがに龍成に面と向かって告白する度胸のある1年はまだいないね。もしいたらその勇気をほめてあげるよ」

確かに・・・蒼谷でこいつに告白とかする奴は命がけかもしれない。




「椎神はさ・・・」
「何?」

「・・・いや、やっぱいい」
「言いかけて言わないのは気持ち悪いなぁ」

マグカップをテーブルに置いた椎神はにじり寄って来て俺のコーラを取り上げた。



「何?っ・・・ぷ・・ははあっ・・はは・・や・・・やめ、やめろってば!!」



いきなり脇に手を伸ばしくすぐってきた。体を抱え込んでそれに耐えるが、椎神は背中にのしかかってきて締め付けた脇の隙間に入れた手で思いっきり脇腹を攻めてくる。くすぐったいし、重いし、苦しいし・・・。

「うひ・・・・・ひゃあ・・・も・・・も・・・やめって・・・・」

「じゃあちゃんとしゃべる?」

体を好き放題くすぐられ、しまいには首元でしゃべるから、上半身がゾワゾワしてカーペットの上で身もだえる。



「し・・・しゃべる・・・言う・・言うからやめろ・・・・・・どいて・・・・・・っぷ・・そこ、っ、さわんな・・やめろってば・・・・・ひっくっ・・・」



「椎神・・・・・・・どけ」

「はいはい」




はーはーはー・・・・・・もう・・・こいつは・・・

静観していた龍成の一言のおかげか、やっとのことで椎神の嫌がらせが治まり、背中にのしかかっていた体重が消える。半分涙目になりながら起き上がり座りなおすと俺の横にドシリと龍成が座った。

「おいこら、重い。寄りかかるな」
「ぁあ?」

龍成は俺の横にピタリと張り付き、寄りかかりながら本の続きを読み始めた。こいつは体が無駄にでかいので重い。寄りかかるなら壁にでも寄りかかればいいのに。




「で、コータ。何を言いかけたの?」

龍成に文句を言っていると椎神にさっき言いかけたことを話せとせっつかれ、またくすぐるつもりかとそっちも警戒しながら、仕方なく正直に重い口を開いた。

「・・・彼女」
「ん?」

「椎神は居るのかなって・・・彼女」

最後の言葉は恥ずかしくって小さくなった。いきなり何を言い出すのだろうと思っているのかもしれない。ちょっと間をおいてから椎神の言葉が返ってきた。


「コータはどう思う?」
「俺?」

何で俺が聞いたのに、お前が聞き返すんだよ。分からないから聞いてるのにそうやってすぐはぐらかす。正直に答えてくれないのが椎神だよな。聞き方間違えた。

「・・・いる、感じがする」
「どうしてそう思うの」
「だって・・・昔からモテてたじゃん」
「コータかわいいーー。顔赤いよ〜照れてるんだ」
「照れてないし!」

照れて何が悪い。俺はそういう話は慣れてないの。なのに自分から話を振ったことが恥ずかしくて顔が赤くなっているのにそれを笑われてさらに恥ずかしさが増す。

「じゃあ答えましょうか」

もったいぶらずに早く言えよ。

「私はね・・・あ、そうだ。私なんかより龍成に聞いてみたらどうです」
「何でそうなるんだよ。今お前の話ししてたんじゃん」
「でも聞きたくない?」
「それは・・・」



それは・・・・・・聞きたい・・・。

興味は・・・あるぞ。かなりある。ってか、さっきまで気になってしょうがなかった。だってこのふてぶてしい奴に、彼女とか、恋愛願望とかそんなのがあるのかと。



龍成をじーっとみつめる。
そんな俺を無視して、鯛料理の本をペラペラめくる龍成の手がふいに止まった。パタンと本を閉じてテーブルに向かって乱暴に本を投げた。





ガタン!





大きな音に驚いて、虎太郎の肩がビクッと上がった。



投げた本が缶にぶつかって、少しだけ残っていたコーラがこぼれてテーブルを汚す。俺達が言ったことが気に障ったのだろうか。ピッタリ張り付いていた龍成には、俺がビビッたのが分かったはずだ。が、寄りかかったそのままの体勢で顔だけ横に向けて俺を睨む龍成は不機嫌そうに言葉を吐く。




「で、何が聞きたいって」




こ・・怖い・・・。

腹の底から絞り出すような野太い声で・・・・・・しかもそれを耳元で吐かないで欲しい。

「いや・・・別に、もう・・・いい」

「何でも答えてやるぜ」

「いや・・・ほんとに・・・・・・・・・・・・も、忘れていいから・・・」



20センチくらいしか離れていないこの至近距離で、そんなに睨みながら言わなくてもいいじゃんか・・・

背中に冷や汗が流れる。さっきまで赤かった顔はきっと今、青ざめていると思う。なんでそんなに怒ってるんだ。俺そんなに悪いこと聞いたか?ただ彼女がいるかどうか聞こうと思っただけじゃんか。そんなの普通の高校生が話す一般的な話題だろうが!

地雷を踏んだ記憶は無いのに、どう見ても何かに怒っている龍成に、もうこれ以上この話題はまずいと空気をしっかり読み時計を見ると、ラッキーもう午後11時前だ!

「あ、門限!時間だ。俺帰らないと」

あわてて立ち上がろうとすると足首を掴まれてそのまま前のめりに転倒する。顔を打ち付けなかったのはそこにいた椎神が倒れる俺を支えてくれたからだ。


「タロ、今日は泊まっていけ」
「な、何で?」
「理由なんかねえ」
「で、でも」
「泊まって行きなって。たまにはいいじゃない。龍成も寂しいってさ」

寂しいとかいうたまかよ。大体こいつ怒ってんのに何で泊まらなきゃいけないんだよ。



「コータ。泊まるの嫌なの?」
「嫌とかじゃなくて・・・その・・・」

本心は嫌に決まってる。でもそれをはっきり言えるほど俺は龍成と対等ではない。未だにペットやら下僕やらとインプリンティングされた刷り込みは強く尾を引いている。

「だって・・・何か怒ってるじゃんか」
「怒ってねぇ」
「怒ってるよ」

「じゃあ、もう怒らねぇ。これでいいだろうが」




そして龍成は立ち上がり、コーラの缶を持ってキッチンに向かった。



何だよあれ。訳わかんねえ。



こんなに機嫌を損ねたのは久しぶりだった。
あいつが怒るときたまに理由が分からないことがある。それが困るんだよな。対応のしようがない。また地雷踏んだらどうしよう。

とりあえず言うことを聞かないことにはまた機嫌が悪くなりそうだったので、千加に紫風寮に泊まるとメールをした。もう怒らないって言ってたし。




もう怒らないって・・・・・・・・・何だよ。

それってやっぱ、怒ってたんじゃないか。



次回・・・「淡桃色の手紙」
やっと淡桃に辿り着いた・・・

[←][→]

36/72ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!