春の嵐(2)
「こたろー?こーたーろ―――?」
「はっ!」

しまった・・・あまりのことに時間が止まっていた。




「ねえ、どうしよう」

どうしようと言いながらも見た様子では困っている感じはない。



「どうしようって・・・・・・・・千加はどうしたいんだ」
「そうだね〜実はちょっとね・・・・好みのタイプ」

うぷぷと、相手の男を思い出しながらにんまりと顔の筋肉を緩める目の前の友人はとても嬉しそうに見える。

「・・・・・男だろ」
「そうだね」
「野郎なのに、好み・・・なのか?」
「うん。結婚は女の子としかできないけど、恋愛は自由でしょ」

白い歯をキラリと出して笑うなよ・・・

そう言えば男もOKとか、初めて出会ったときに言ってたしな。子どもっぽい千加から結婚なんて言葉が出てきたのにも驚きだ。「恋愛は自由」か・・・・・椎神もさっき告白されてたしな・・・

千加の顔を見返してその顔立ちをジーッと眺めて見る。確かに千加はかわいい。でも男だ。しかも入学して間もない短期間で、かわいい先輩がいたからって簡単に好きとか普通言うか?
うー・・・・・・わからん。理解できん。・・・・・・・・・・・でも一目惚れってこともあるか・・・あるのか?俺は生まれてこの方男に目をひかれたことは無いぞ。

「こたろーはどう思う〜?」
「どうって・・・相手はどんな奴なんだ?」

「性格なんて分かんないさ。会ったのさっきだもん。でもかっこいいよ!背が高くて男前!超好み!!」
「ふうん・・・・・・」

背が高くて顔が良くて男らしいってのはモテる男の必須要素だよな。俺もあと5センチでいいから伸びないかな。そしたらもうちょっと強そうに見えるかも。3人で並ぶと俺だけガクッと目線下がるもんな。

「ま、千加が決めればいいんじゃないか」
「えー。ちょっとはアドバイスしてよ」
「俺無理だわ。アドバイスしようにも・・・・・経験がない」
「そうなん?」

キョトンとした顔で俺の顔を見るな。どうせ俺は子供だよ。誰かと付き合った事なんかないし、ケンカ三昧で恋愛なんてする暇もなかった。そりゃあかわいいなと思った女の子はいるけど、告白するような度胸もなく見ているだけでも十分?みたいな感じだった。

「だから、その話を俺に振ってもいい答えは返せない」
「ぶー・・・サービス悪いなあ〜。じゃ、もしこたろーが告白されたらどうする?」

「もしとか・・・ありえないだろう」

それは絶対ありえない。椎神みたいに顔がいいわけじゃないし、千加みたいにかわいいわけでもない。まして龍成みたいに独特な雰囲気を醸し出しているわけでもない。俺って至ってパンピーだよ。

「もしもだよ。それにこたろーはかっこかわいいから告白される可能性大だよ」
「何だそれ」

あり得ない話に眉根を寄せて嫌な顔をして見せた。千加は俺のことを贔屓目で見ているからそんなこと言うけど。引っかかるのは「かわいい」だ。「かっこいい」は受け入れるけど「かわいい」の言葉は俺は好きじゃない。散々あの2人に言われてきた言葉だからだ。あの2人もきっと目がおかしい。というか、あれは単なる嫌がらせだろう。



「かわいいとか言うな・・・・・俺そう言うの好きじゃない」
「そっかな?僕こたろーの性格も好きだけど顔も好きだよ」

そう言って俺の顔を見て、顔が幼いとことか、髪が柔らかくて触ると気持ちいいとか、目がぱっちりしているところがかわいいとか、千加のお気に入りポイントを羅列する。

「かわいいって言うのは千加みたいなのを言うんだよ。俺は違う」
「こたろーってさ・・・見た目よりも性格がさ、こう・・・放っておけないて言うか、守りたい感じ?保護欲ってのが掻き立てられるんだよね。だからちょっと見じゃなくてさ、こたろーのことをちゃんと知ってる人はこたろーのことかわいいって言うじゃん」
「誰が?」
「芝ピーって呼んでる奴ら」

ああ・・・あの訳の分からない愛情を押し売りする奴らのことか。せっかくクラス替えがあったというのにいつの間にか俺はまた新たなクラスで「芝ピー」呼ばわりされている。

「だいたい保護欲とか・・・なんだよそれ、俺の方がケンカ強いぞ」
「男の強さはケンカだけじゃないんだぞ!」




話がだんだんそれてきたことに気づいた千加に話を戻されて、自分ならこの告白をどう受け取るかと再度聞かれた。

「俺だったら・・・・・」
「ふんふん」

「・・・・考えさせてください・・・・かな」

(本心は「男だったら即効で断る」だ。でも千加はそう言う答えを求めてはいないと思うから、百歩譲って、いや千歩譲って俺だったらどうするかを考えて言ってみた)


「だよね〜見た目が合格なんだから、キープしておかないと損だよね」
「いやいや、そう言う“考えさせて”じゃなくてだな・・・」

自分の事じゃなくて、相手の真剣な気持ちをくみ取った場合、少し考えてから言葉を返すのがいいんじゃないかとアドバイスしたのに、キープって何だよ・・・





そんなこんなで千加の力にはたいしてなれず、ただその事実に驚かされた一日が終わろうとしているとき、そう・・・気を抜いているときに大体不幸は訪れる。これが一般的に不幸な事かどうかは分からないけど、少なくとも俺には不幸で全く望んでいないことだった。



下校するたくさんの生徒達。千加と一緒にその人ごみに紛れいつものように寮を目指していたときのことだった。


「あ・・あの・・・綾瀬先輩!」

「・・・・・・・?」

「綾瀬・・・虎太郎先輩ですよね」



声に振り返ると、真新しいしわのないジャケット姿の1年生が俺を呼び止めた。



「・・・・・・・・・・・・・そうだけど」


「あの、ちょっとだけお時間もらえますか」
「・・・・・・・・・・・はぁ?」


誰だこいつは?見たことのない1年生が俺を見ている。
それに先輩って・・・そっか、俺2年だから一応先輩って呼ばれてもおかしくないんだ。

そんな相手に戸惑って隣の千加を見ると、あれ?千加がいない。キョロキョロ周りを見回すと数歩下がったところで足を止めてこちらを眺めている。千加は俺と目が合うとにっこり笑ったけど、なんでそんなに嬉しそうにしているんだろう。できればそばに来て欲しいのだけど。

「あの・・・綾瀬先輩って今、付き合っている人とか・・・いますか?」

「・・・・・へ?・・・・・」


ふんわりとやわらかい風が足元から吹き上がった。髪がふんわり揺れて、その周りを桜の花びらが踊るように宙を舞う。

「もし誰ともお付き合いしていなかったら・・・その」

きらきら光る大きな目をパッチリ開いて、顔を真っ赤にして俺を見ている。まさか・・・これは・・・
千加をチラリと見ると、うんうんとか首を縦に振っているけど、それってなんのサインだ?

「僕と・・・」

その次の言葉をなんとなく予想しながら待つしかない虎太郎は、固まったまま生唾をゴクリと飲み込んだ。


「僕と付き合ってください」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



春の嵐は・・・どうやら俺のところにもやって来たらしい。







「コータ。告白されたんだって?」
「ぶっ!・・・・・・・・けほ・・・げほっ・・・・」


龍成の部屋で俺はコーラ、龍成と椎神はコーヒーを飲みながら取るに足らない話をしているときに、聞かれたくないこと椎神が口にした。その言葉に龍成は一瞬だけ眉を動かした。

「で、どうだったの?何て返事したの?もしかしてOKしたとか」
「するわけないじゃん!!」

「あ、そう。もったいない」
「椎神だって断ってたじゃんか」

「私の場合は日常茶飯事の出来事ですから。いちいち相手してられないんですよ」


自分はもてて当然だとでも言う顔で椎神はふざけて聞いてくる。


「くるくる天パのカラコン入れたかわいい子ねえ〜。コータに目を付けるなんて、なかなかその子趣味がいいよね」

何でそんな詳しいことをこいつは知っているんだ。まさかあの場に居たんじゃないだろうな。思い出すだけでも恥ずかしいのにあんな場面を見られていたとしたら、しばらくからかいの的にされるに決まっている。
下校中のあの場には大勢の人がいた。見られたのか噂を聞きつけたのかは知らないが、こんな話題は早く終わらせたかった。

男に告白されるなんて、かっこ悪いし気持ちのいいものではないからだ。



「誰が男と付き合うかよ。ありえねーし」



正直な気持ちを、俺は何も考えずに口からポロリとこぼした。



次回・・・「春の嵐(3)」

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