春の嵐(1)
2年に進級するとまた新たなメンツが縄張り意識むき出しでケンカをふっかけてくる。
新年度を迎えると気持ちも一新するのか、近隣校の奴らが順番を示し合わせたようにやってくるのだから逆に感心する。


蒼谷の三悪をブッつぶす。


どうしてもその祈願を成就したいらしく、飽きもせずぶちのめされに今日も奴らはやって来た。今日で連続4日目。中一日空いたがそれをのぞけば7回続く恒例行事にさすがに俺は音を上げた。

殴る蹴るの効果音が響く中、座り込んで壁により掛かる俺はあろう事かうとうと船をこいでいる。



だって時刻は午後11時。
新学期が始まっていろいろと気を張ることが多いこの時期に、毎日深夜徘徊をさせられケンカをすれば体力の限界に行き着くのは当たり前だろう。なのに何であの2人はあんなに生き生きと活動できるんだ?夜行性かよ。今日はパスしたかったのにすぐ終わるとか言っていつものように連れ出され、到着したところで俺に眠気のピークが訪れた。

起きなきゃ・・・寝ちゃだめだ・・・そう言い聞かせても上のまぶたと下のまぶたが仲良しさんになるんだ・・・






「コータ・・・」


名前を呼ばれて目をゆっくり開くと、膝を抱え込んだまま眠ってしまった俺の前でジャケットを羽織る椎神の姿が目に映った。

「あれ・・・俺」
「てめぇは・・・・・・寝るか、普通」

呆れて俺を見下ろす龍成の後ろを見ると、地面で唸る倒された連中がモゾモゾと四肢を蠢かせていた。

「・・・・・・・・・・終わったんだ」
「お前が寝てる間にな」

「・・・・・ごめん」

「度胸があるというか、バカと言うか・・・」


そう言いながら「帰るぞ」と投げかけた龍成は、座り込んだままの俺に大きくてごつい手をさしのべてくれる。その手を掴み立ち上がらせてもらうと、すぐ目の前に頭一つ分は優に高い龍成のふてぶてしい顔があり、その細めた視線が間近でかち合う。


「何?」


人の顔をマジマジと見るものだから、まさか口によだれでもたらしているのかと思い口の端を手で擦ってみたがよだれの後は無い。

「寝ぼけたつらしてんじゃねえよ」


バシッ!


「痛っ・・・ああもう、デコピンすんなって!」

痛がる俺に背を向けて龍成は歩き出す。その後に俺はブチブチ言いながらも付いて行く。そんな俺を見て後ろを歩く椎神は笑う。今日は役立たずだった俺に龍成はそれ以上怒るわけでもなく、そのまま3人で寮を目指した。



いつもとかわらない3人で過ごす日々。
俺は・・・半年が過ぎてやっと去年と同じように過ごせるようになっていた。






春の風が心地よい新学期。
今年は遅咲きと言われた桜の花も咲き乱れ、春の陽気に包まれた蒼谷学園は少しの緊張と新しい学年への期待に胸を膨らませた青年達が、相変わらずの賑わいを見せていた。


楽しいランチタイム。タコさんウインナーが入っているお弁当は早くも売り切れ。今日は久しぶりにパンにするかと、購買部でパンを買って教室に帰る途中俺は妙な場面に遭遇した。
椎神と、あれは・・・新1年?と思われる2人が廊下の端で何やら話している姿が目に入った。別に立ち聞きするつもりは無かったけど、話し声が耳に入ってきたから仕方が無い。気づかれないように壁際にコソコソ・・・けっしてコレは覗きではないんだぞ!



「好きなんです」



(はあ?)

今、相手の子は何と言った?



「あなたが好きなんです。椎神先輩。僕と付き合ってください」



(・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで)


何と言う場所に居合わせてしまったのだろう。これはゲロまずい。タイミングが悪い。

そっと廊下の角から顔をのぞかせると、背の低い見た目かわいいけど間違いなく男だよ〜な奴が椎神に告白をしている。顔を紅くしてモジモジしながら、それでも勇気を振り絞って告白しているように見えた。
男ばかりの男子校。蒼谷はそういう奴も少なくはないが、告白現場を見たのは初めてだしその告白の相手があの椎神であることに俺は一番驚いた。

そうしているうちにパタパタと足音がし、口元を押さえて1年が走り去っていく。それをポカーンと眺めていると「覗きですか?」と背後から突如声をかけられた。


「うああああ!!し、椎神っ!い・・いや、その覗いていたわけでは!!」
「もう、かなりうんざりしてます」
「へ?」

椎神にしては珍しくイライラと不満気な声をもらしている。

「断ったの?」
「あたりまえでしょ、毎日毎日うっとおしいったらありゃしない。あんまりしつこいからさっきの子も犯っちゃおうかと思いましたけど」

「な・・・・・・・・ええっ!」

こいつは今何と言った?・・・さっきの子も・・・「も」って何だ!!

「毎日来るんで日替わりで数人、頂いちゃいました」
「う・・・・ぇ・・・・・・ぇぇええ!!う、うそ・・・」

「ほんと」

ニッコリ天使の頬笑みで「さすがに毎日はきついですけどねー」などと言う椎神。その言葉に虎太郎の顔は引きつり3歩は後ずさった。



(こいつ・・・・マジでか!なんて恐ろしいことを・・・・ってか・・・・・・・男相手に??春の陽気でこいつら頭がいかれたか!?)



「あははははっ!ジョーダンですよコータ。やだなあ、そんなひきつった顔して」
「ジ、ジョーダ・・って・・・・・・・お前・・なぁ・・・」

「本気にした?コータ」


(・・・・・・・・・・したよ・・・椎神なだけに・・・・・)






新入生が入学してから校内は騒がしい。
初々しい1年生はあこがれの蒼谷での生活に舞い上がり、何をするにもテンションが高い。自分たちが入学したときにはここまでは無かったのに・・・。


しかしそう思うのは虎太郎が周りをよく見ていなかっただけで、去年の1年生こそ入学当時は大いに春の嵐を巻き起こし騒がれたのだ。

椎神を筆頭に見目のよい奴が注目を集め、極めつけは京極龍成。すでに有名になっていた西中のとんでもない奴らが入学して来たと騒ぎになっていたらしいが、虎太郎は自分のことに精一杯で周りの動静などには何も気が付かなかった。そして今年入学した1年が一番気になる存在それが・・・



「いた、あの人だよ蒼谷の三悪って」



そんな言葉をあちらこちらで耳にする。パンを買って教室に戻る途中1年生に指を刺されコソコソ話の的にされている。

(何をささやかれているのやら・・・陰口とかだったら嫌だな・・・)

チラリと視線をやると目がバチッと合い、人見知りな虎太郎があわてて目をそらすと、

「うわ、目合ったよ」
「なんかかわいい〜ww」

とか言って1年生は走り去っていった。


「・・・・・何だ?」


最近、俺の周りも騒がしい。“穏やかな豆芝”と2年には定評のある俺だが、何も知らない1年生には暴力的だとか、夜間徘徊しているとか、不良ともめ事起こしているとか「蒼谷の三悪」としての悪い噂をささやかれているんだろうな・・・
やだなぁ・・・と思いながらトボトボと教室に帰って席に着くとバタバタとあわただしく千加が帰ってきた。




「こたろー!!」




喜び勇んで帰ってくる友人は購買部で買ったお弁当を机にガザリと置くと、椅子にドカッと音を立てて座り俺の肩を引き寄せて小声でこう言った。

「うぷぷ!!聞いて聞いてよ」

喜び方が尋常ではない。何かいいことがあったのだろう。お金でも拾ったのか?



「僕、・・・・・・・・・・告白されちゃった!!」



「・・・は?ええっ!!」

「だーかーらー、1年に好きですって言われちゃったの!きゃーどうしよう」

千加が2年のかわいい系アイドルであることは知っている。
今までだって告白をされたことがあるってのも何度か聞いたことがあるし、千加は男が相手でも付き合えるということも俺は知っている。

そりゃあ、そんじょそこらの女子よりも、千加の笑顔はかわいい。
でも、お前だって男だろうが・・・・・



俺は未だこう言う状況に慣れていない。
千加に告白した1年の後輩だってもちろん男。何をどうやったらヤローに告白する気になるんだろう。顔か?やはり顔なのだろうか。



さっきの椎神が頭に浮かぶ。
あれも男からの告白。

あのときは椎神がアホみたいな冗談をブチかましたので、俺は正直あいつの品性を疑った。思わず信じてしまった自分がバカだったんだけど。
口八丁手八丁を絵に描いたような奴。あいつの言葉には必ず裏があって、そうなると全ての言葉を疑いたくなってしまう。きっと口から生まれたんだと思うくらい人を言いくるめるのが達者だ。どれだけ騙されてきたことか・・・



見た目はいいけど中身は最悪な死神君。
見た目も中身もかわいい小動物系千加。


2年が誇る美男子アイドルってか?
でもなぁ・・・・



やっぱし・・・・・・・・・・・・・・共学がよかったよなぁ。

完全に舞い上がっている千加に俺はただ・・・開いた口がふさがらず呆然とした。



次回・・・「春の嵐(2)」

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あきゅろす。
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