声を聞かせて
1・・・2・・・3回とコール音が鳴る。まだ午前4時過ぎだから眠っているだろう。でも携帯の電源が切られていない事だけで安堵した。もういい・・・切ろう、やっぱりこんな時間に迷惑だ。




切ろうとしたとき、プツッと コール音が切れる。携帯を持つ手が震えて、心臓がバクバクする。どうしよう・・・繋がっちゃった・・・





「静・・・」
「あ、、、」


低く耳に心地よく響く声。3日ぶりに聞く、大好きな人の優しい声。



「静・・・」
「・・・・・・・」

声を聞くだけでわき上がる高揚感。あふれ出る思慕の念。気持ちは高なるのに、それに反するように言葉は紡げない。


「どうした、静」
「・・・・・っ・・・ふっ・・・」



「泣くな・・・・・・どこか痛むのか。手は?熱は下がったのか」
「・・・っ・・・・・ぅ・・・」



「頼むから・・・何か言ってくれ。静。声を聞かせてくれ」
「た・・・鷹・・・」



「・・・静・・・」



電話の向こうで泣き続ける静、泣かせているのはやはり、自分なのだろうか。

「ご、ごめん、な、さい・・」
「もういい。分かっている。つらかったな」
「ぼ、僕のこと、き、きら、、ぃ、、に、、なっ、、、、」
「お前を嫌いになるわけがないだろう。だから泣くな・・・」

泣いている静をすぐに抱きしめてその涙をぬぐってやりたいのに。他の人間には泣き顔を見せたくない、触れさせたくない、自分だけが独占したい・・・けれど電話では声を聞くことしかできない。もどかしさばかりが募る。


「あ・・あい・・・・・・会いた・・いよ・・鷹に・・・」
「静・・お前は俺に」


プツッ・・・突然通話が切れた。。





涙を流しながら、「どうして?」と携帯の画面を見ると『充電してください』の文字が点滅し、電源が落ちた。ずっと充電していなかったため、電池切れになってしまった。

真っ暗になった画面を見て呆然とするが直ぐに現実に引き戻され、自分の言った言葉に後悔した。
僕・・・なんてこと言っちゃったんだろう。





『会いたい』なんて。



自分から逃げて、あんなことしておいて、鷹兄を避けたくせに、今更会いたいなんて都合がよすぎる。
自分が嫌いだ。
鷹兄が許してくれるからって。
どうして僕はこう甘えてしまうんだろう。
鷹兄にも、九鬼さんにも、みんなにも・・・



最低だ。



そしてまた昨日と同じ気が重い朝が来る。
3日ぶりに聞いた鷹耶の声はまだ耳に残っている。鷹耶の声に包まれているような気持ちに少しずつ落ち着きを取り戻しながら、もう少しだけ目を閉じていようと思った。







6時を過ぎると、本家に住んでいる人達が朝の支度をする音が聞こえてくる。結局僕はあれから寝なおす事も出来ず、布団の中でひたすら落ち込んでいた。

トイレを済ませて部屋に戻ると家政婦さんが訪れて朝食が摂れるか確認に来た。
僕は食欲がなかったけど、おかゆを準備してくれると言うので無理をしてでも食べようと思った。何時までもお世話になっているわけにもいかないし、食べて体力つけないと。それと、お風呂にも入りたかったので、相談してみると手にビニールでも巻いて入浴しましょうかと言われ、お願いすることにした。7時に朝食を運んでくれるので、それまでお待ちくださいと、家政婦さんは言って出て行った。
今日は修おじいちゃんもゴルフから帰ってくるから、ごはん食べたらお風呂入って身支度を整えて、ちゃんとお礼を言って帰ろう。そう考えていたのだけど。







7時前・・・何だか外が騒がしい。

大きな声で言い争う声。
布団から体を起こし、聞き耳を立てると、ドスドスと足音が近づいてきて、部屋を仕切る障子に黒い影が映る。



ガタッ!



突然。

乱暴に開けられた障子。その向こうに立つのは・・・






「うそ・・・何で・・・」



いつもと変わらぬ洗練されたスーツ姿でその場に現れた人は、眉を寄せ不機嫌そうな顔だけど、僕はちゃんとその表情の中に優しさを見つけることができる。





「帰るぞ、静」




「・・・どうして・・」




どうして鷹兄がここに!!




2時間ほど前に電話したばかりの相手が何故ここに?会えた嬉しさと疑問が交互に頭を回って混乱しているとまた大きな声が廊下から響いてきた。





「若!!」



その声に鷹兄の表情が一気に怒りをはらんだ暗いものに変わる。険しい目つき。その視線の先には九鬼さんがいた。

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あきゅろす。
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