ステラ2〜王様ゲーム
「もう〜レイナ待ちくたびれちゃった。山ちゃん遅いんだもん!」
プリプリ怒るしぐさがなんともかわいいレイナちゃんはここ『ステラ2』の人気ナンバー5。しかし売り上げはナンバー1らしい。その売り上げのほとんどがこの山ちゃんこと山之内さんの懐から捻出されているらしく、今日も数十万円するシャンパンをポンと開けてウン万円もするフルーツがテーブルに並ぶ。
海藤廉治はここではステラ2の常連客、『山之内廉』と名乗っている。海が山に変わったこの安易なネーミングゼンスは、叔父さんらしいです。
数十分前。
○○ランドから家に送ってくれるとばかり思っていた僕は、「寝るにはまだ早え」という叔父さんの一言で、キャバクラに連れて来られた。僕は未成年なのに。今日保護者面談して生活面で注意を受けたばかりだと言うのに・・・
いくら個室でお金さえ払えば何でもまかり通るからって・・・このレイナさんも話を聞く限りは19才。こんなとこでお酒飲んで働いていい年じゃない。ばれたらみんな捕まっちゃうよ。
社会勉強だの、人間経験が必要だの、深みのある人間になれだの言ってることは素晴らしく聞こえるがこの状況ではすべてが台無しだ。
「はい、山ちゃんアーン」
「こ、こらレイナ子どもの前で恥ずかしいだろうが」
「やだ〜何照れてるの、いつもは食・べ・さ・せ・てって言ってるじゃない。息子の前じゃかっこつけたいのかなぁ。キャッ、山ちゃんってかわいい!」
そして全然嫌そうじゃない叔父さんは、アーンなんて口を開けてレイナちゃんの手ずからメロンをほおばる。
「社長だけいいなぁ〜私にもアーンしてくれないんですか」
「やだ〜染谷ちゃんはだめよぉ。だって山ちゃんがやきもち焼くじゃない。そうだ、息子君も遠慮しないでどんどん食べて飲んでね」
「・・・・・・・いえ。僕はいいです」
「何だかこの子ノリ悪いわね。本当に山ちゃんの息子?ってかいくつ?あー、当てていいかなぁえっとねえ・・・・・中2?どう〜当たったでしょう」
静の眉がピクリと上がる。
「・・・・・・・こ・・高1だけど・・・」
「うっそーーーー本当に!やだぁーー。16歳?見えなーい。学校どこ?彼女とかいるの?あはは山ちゃんと顔全然似てなーーーい、いろいろとちっちゃいし、いつパパみたいに大きくなるのかなあ?ひょっとしてママ似!」
「ち・・ち・・・ちっちゃい!!」
「その通りや〜静はめっちゃくちゃ母親似や〜。美人やろう。うちにはデカイ息子もいるがそいつとは比べ物にならねえほどかわいくできてやがる。この子は最高傑作や」
「うんうん。このちっこい息子君、山ちゃんの遺伝子きっと1%以下だよ。きれいに生まれてよかったね!はい、山ちゃんアーン」
「おう、アーン」
叔父さんとイチャつく姿にどこを見ていいやら目のやり場に困ってリンゴジュースばかり飲んでしまう。キラキラしたドレスは胸の谷間が深くて、脚はスリットがかなり上の方まで入っている。本物だろうか、キラキラ光るイヤリングやネックレス、指には3つずつ指輪がはまっている。綺麗と言うか・・・かわいい系で話し方は子供っぽい。そしてボンキュッボンな体型。こういう子が好みなんだろうか。僕はこの人・・・ちょっと苦手。だってぼ、僕のことち、ちっちゃいとか中2とか・・・言うし。
「はい、どーぞ。かわいい息子君。あら?」
「・・・・・・?」
トイレから帰って来た僕におしぼりをくれたレイナさんはそのまま僕の手を掴んだ。
「息子君冷え性?指先すごく冷たいわよ」
「あーちょっと今日は外に居すぎたか?風邪なんか引かねえだろうなあ」
「ホットミルクとかありませんかね。ジュースじゃ体冷えちゃいますから何か温まるものを飲ませてあげてください」
染谷さんの言葉に、しばらくして出て来たのは白く濁った・・・酒臭い物体。
「何これ?」
普通のお湯のみに入った白っぽい液体をクンクン匂ってみると、甘い香りとツイーンと鼻をつくにおいがした。湯気を深く吸い込むと鼻と喉の奥がチンとしてにおいだけでむせってしまった。
「うっ・・ん。くへ・・けほっ・・・」
テーブルの上にその暖かい物を置いてむせっていると叔父さんがそれを一口飲んだ。
「お、甘酒か。うめえなぁ、こりゃあ体があったまるわ。飲め静」
「でも、・・それ何か臭い」
「あら、うちの特性の甘酒よ。みんな帰る前によく飲むの。体の芯からポカポカ暖かくなるから寒さなんてへっちゃらよ。息子君のためにはちみつも入れてもらったから飲みやすくなってるはずよ。味は山ちゃんが言った通りおいしいからね」
みんなに勧められ、染谷さんが湯のみをわざわざ手に乗せてくれたので仕方なくちょっとだけ舐めて見た。
(・・・甘い。)
コクリと一口飲んでみると、臭いは駄目だけど甘い風味が口にブワッと広がって口の中と喉が一気に熱くなった。
「う・・うわ・・」
「うめえだろう」
「どうしました?」
湯呑みを握りしめたままフーと2度ほど大きく息を吐いた僕に染谷さんは笑いながら聞いてきた。
「味は?」
「おいしいです・・・」
僕がそう答えるとレイナさんは喜んでよかった〜どんどん飲んでねと言うけれど・・・
そして数十分後。
「こるえ・・・おいひい・・・れす」
「じゃもう一杯飲む?」
「・・・・飲みたいれすぅ」
「お、いいぞ静。その調子だどんどん飲め」
においを気にしながらちびちび飲んでいた静が突如しゃべりだした。何だか話し方がおかしいのでもしかしてと思った染谷は、静が飲んでいた湯呑みを奪い取り甘酒を一舐めしてみる。
「・・これって米麹じゃなくて酒かすで作ってたんですか。まずいですよ会・・社長。これはアルコール飲料です。未成年に飲酒させちゃいましたよ。社長は何で先に味見したときに気付かないんですか?」
「はあ?何言ってんだ?甘酒だろうが。ありゃあ酒じゃねえ」
「いえ、酒ですってば。よく沸騰させればだいぶアルコールは飛びますが子どもには・・・どうでしょうね。体質的に合わなければ体調を崩しますよ」
そして3人が見つめる静の様子は・・・
「うふふ〜ん。甘らけ・・れ・・おいひい〜ね。ぽ、ポカ・・ポカらよーーー」
顔は真っ赤。
上機嫌。
呂律はもう回っていない。
ソファーの上で正座になりニコニコ笑顔でフルーツの大皿を抱えてパクパク食べている。
「か・・かわいい。山ちゃん!息子超かわいい!写メ、写メ撮ろうよ!」
「よし、染谷上手く撮れよ。こんな機会滅多にねえからな」
「はいはいまーかせてください」
写真を撮られていることなど何も気にせず、リスの頬袋並みにほっぺを張らして食べている。ソファーに正座する小動物は大人達の格好の餌食だった。
「静さんは動くと危ないので、お二人とも静さんを挟んで並んでください」
湯呑み1杯でご機嫌な静を真ん中に置き、左右に廉治とレイナ。2人とも酔っぱらった静に抱きつきながら画面に向かってピース。
上手く撮れた画像を見て喜ぶ酒がまわった大人3人と子ども1人。23時を過ぎても夜はこれからだと勢いに任せてヒートアップしていった。
「きゃ〜今度は私が〜王様よ!」
「ほう〜レイナが王様ってことは、女王様やなぁ・・・俺ならなんでもしてやるぜ〜なんならここで・・・」
「会長〜〜〜それ以上脱ぐのは無しです。目が腐ります」
「ぼ、僕まだ一度もおうひゃまになっれないれすぅ」
王様ゲームで更にテンションが上がる。
ネクタイを頭に巻き付けて胸のボタンを半分外してもうすでに紳士風情の欠片も無い廉治。その廉治にブチュブチュと赤い口紅の痕をまき散らすレイナ。“社長”ではなくもう“会長”と呼んでしまっている染谷。ポカポカ気分で上着を脱ぎ捨て半袖Tシャツの肌着状態になってしまっている静。
「うぷぷ。じゃあ山ちゃんちょっと携帯貸して!」
「何だ〜?」
「女王様の命令よ!よこしなさい」
「そうらよ〜王様のめいれいはれったいらよ〜」
そしてレイナは廉治の携帯を奪いさっき撮った写真をメールに添付した。
「これからルーレットを始めます・・ええっと、件名は・・・ステラ2ね。で、なんて書こうかしら・・・もう文はいいや、じゃ闇メールルーレット!!」
そしてレイナは誰にしようかな〜と言いながら履歴を検索し始めた。
「レイナ、何やってんだ?」
「記念写真の闇ルーレット。うぷぷ・・奥さんに届いたら修羅場かもね!」
今ステラではやっているそのゲームは、イチャイチャ画像を履歴の中から適当に選んだ相手に送るというはた迷惑な遊びだった。それが原因で会社でもめたり離婚の危機に陥った人間もいるらしい。
「はっ、誰に送ろうが俺は関係ないけどな。送りたきゃあ一斉送信でもいいぞ〜好きなだけ送りやがれ」
「うわ〜さすが山ちゃん!奥さんに届いても平気なんだ!」
「あったり前だろうが。俺が今一番愛してるのはレイナだ」
「もう〜スキスキ、山ちゃん大好き〜〜〜」
ブチュ〜〜〜
濃厚なキスをする2人。普段の僕なら恥ずかしくてこの場から一目散に退散していただろう。
でも今は平気だ。
「さすがに誰でもってのはまずいんでレイナちゃん、やるなら今日の履歴の分だけにしてくださいねー。それ以外でするといろいろと不都合が、ここにも来れなくなっちゃいます」
「うーん。それじゃあしょうが無いわね〜ど・れ・に・し・よ・う・か・な〜。じゃ、このあたりの履歴で、えいっ」
目をつぶって適当に選んだアドレスを押す。
ピッ・・・
どこかに送信された写メ。結果は店を出るまでは見ないのがルールなので携帯は廉治の脱いだ上着のポケットに突っ込まれた。
静はフワフワと体を揺らしていて、とても気持ちがよさそうだ。
うはは・・・何か…すんごく楽しい。
幸せだなぁ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・ こんな気分・・・・・・・・・・ 初めてだ。
次回・・・「ステラ2〜王様乱立」
あの人もこの人も王様。そしてまた新たな王様がやってくる。
(余談)
静 「ぼ、僕はちっちゃくありません!!」
レイナ「あははぁ〜むきになっちゃって〜かわいい〜〜息子ちっちゃぁ〜〜〜い」
染谷「ぷぷ・・・レイナちゃんその言葉ちょっと卑猥ですよ〜」
レイナ「やだ!染谷ちゃんのH!何想像してんのよ〜あは、でも本当に・・・・・いろいろちっちゃそう〜」
廉治「俺はデカ、」
染谷「はいはいもう分かってますからね〜」
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