拒絶
「やあだぁ!」



小さな花のように白い肌に咲く乳首は愛らしく、触れられるのを待っているかのごとく小さく震え見る者を虜にする。
再び胸に戻った指が今度は反対の突起を探り、同じように指先で撫でるようにさすりむずがゆいような今まで感じたことのない不可解な刺激をもたらしていく。

「静」
「ん・・・っつ・・・ぅ」

口づけながらも、いとおしく静の名を呼ぶ鷹耶の声は甘く、行為とは正反対のその慈愛さえ感じる声色に、これは悪い夢なんじゃないかと、夢ならば覚めてほしいと心の中で叫ぶ。

「う・・あ」

貪る口づけとは違って、優しく撫でまわされていた個所にいきなりピリッとした軽い痛みが走り静は体を強張らせた。指先でつまみ上げられた乳首は指で擦られながらクニクニと形を変えられ、先ほどと変わって少し強めの愛撫が施され始めた。


「お前は、どうしてこんなに・・・どこもかわいらしくできている」


小さな花のつぼみを執拗に愛でて、その愛撫で花を咲かせようとでもするかのように、擦り上げる突部はだんだんと色が変わってゆく。

「くっ、ん・・・・い・・いた・・・いらぃ・・ん・・」
「まだだ、まだ・・・もっとお前に・・・」

鷹耶にとっては愛撫でも、静にとっては痛みと恐怖しか感じないこの行為。刺激を与えられるたびに眉をしかめ苦しげな声が上がるが、その声は言葉になる前に鷹耶の口内に飲み込まれ、うぐうぐと唸る声だけが漏れ聞こえた。



(やだ、痛い、こんなのやだ!やめてよ鷹兄、お願いだからもうやめて!!)



刺激を与えられた突起はプクリとふくらみを帯び、鷹耶の手の中で赤く色づいていた。苦しいのと痛いのと怖い気持ちが入り混じって、ギュッと閉じた目じりに薄らと涙がにじむ。両手でどんなに背中を叩いても鷹耶の行為は止まることはなく、無茶苦茶に動かした手が、テーブルに置かれた飲みかけのジュースのグラスをかすった。




ガチャン!






その音に互いの動きが止まり、静の手が触れているテープルの上は、こぼれたジュースと、割れたグラスが散らばっていた。



「動かすな、怪我をする」

鷹耶の上体が静の体から少し浮き、淫らな行為を強いていた手が離れる。静の服の袖に飛んだガラスの欠片を払いのけ、自分から視線が反れた一瞬・・・


ガツッ!!


静は支配していた者の下から這い出すと同時に、怒りにまかせて鷹耶の胸を靴を履いたままの足で思いっきり蹴り上げた。

「ぐっ・・」


何とかソファーから抜け出した静はカバンを掴み、胸を抑える鷹耶を置き去りにしそのまま部屋から飛び出した。






バタンと大きな音を立ててドアを閉めた。

肩で息をしながら、閉じたドアに背を当てて人の気配に顔を上げると、そこには驚いた表情で静を見る3人の姿があった。




「朝川君」

静の名前を呼ぶ瀬名の声は少し上ずっていた。



しかめた眉と不可解な視線にハットした静は自分の服装があまりにもおかしなことにやっと気づき、カバンを胸の前でギュッと抱きしめ、乱れた胸元を隠した。
もう気が動転していて、とにかくこの場から早く出て行きたいという思いしかなかった静は、怪訝そうに見る3人を無視して早足でドアに向かって歩いた。



「待ってください」

瀬名に呼び止められても静は止まることなくドアノブに手をかけるが、駆け寄って来た瀬名にその手を抑えられた。

「ど、どけてくださ・・」
「服装・・・直しなさい。そのまま出て行ったら朝川君が困るでしょう」

外には他の社員がいる。この姿で出たら好奇の目に晒されることは間違いなく、部屋の中で何が起こったのかなんて一目瞭然だろう。



ドアノブごと抑えた静の手は小さく震えている。
怖さと羞恥の入り混じった表情、濡れたまつ毛、乱れた胸元からのぞく鎖骨に残る赤い痕。



(さて・・・この後どう取りつくろうつもりなんでしょうね)




うっ憤がうっ積しているのは分かっていたことだが。

子猫の方からやって来るなど予想もしていなかったので、このチャンスを最大限に利用した。ひと月ぶりの割には表面上は至って普通に見えたので、子猫と話せば少しでもあの不機嫌な態度が改まるかと思いきや、逆にたまったうっ憤を爆発させてしまったようだ。
社長が子猫に何もせず帰すとも思ってはいなかったが、この様子ではかなりの拒絶を示したことは明白。



これは・・・読み間違えた自分達にも責任があるかもしれない。



秋月が鷹耶のいる部屋にノックをして入って行く。ドアを開けたので静はドキリとしたが秋月は素早く中に入ってドアを閉めたまま出て来る気配はなかった。静を連れて来た西脇はソファーに座ったまま、わざと見ないようにでもしているように背を向けパソコンを操作し続けていた。



「シャツ、入れなさい」

その言葉に握っていたドアノブをようやく放した静は、瀬名に背を向けてズボンにシャツを入れ込んだ。シャツのボタンを閉めようとした手は震えていて上手くボタンをはめられずにいると、瀬名の手が伸びてきた。


パシッ・・・



「っ・・あ・・・・」
「・・・」

反射的に叩いてしまった瀬名の手。

シャツに触れただけなのに、その手をはじかれたのは自分に触れる他人の手を恐れてのことだろうと瀬名は思った。それは無意識で、過剰に反応した静本人でさえ驚いて瀬名の目を見返している。

(かわいそうに)

「・・・ボタン、とめるだけですから」

そして瀬名はもう一度静のシャツに手をかけ、外れたボタンを襟首まできちんととめた。不格好に緩んだネクタイも結び直して最後にジャケットのボタンをとめると「送ります」と言い、ドアを開けた。






エレベーターに乗り込むと瀬名は地下のボタンを押したが、その後静は自分で1階のボタンを押した。

「送りますから」
「いいです」
「ですが、社長が」
「嫌なんです!・・・1人で、帰ります」

自分と一切目を合わさずに怒りをはらんだ声で言い放った静に、瀬名はため息を吐き、それ以上は何も言わなかった。



(鷹兄の車になんか誰が乗るもんか!

こんなところ早く出て行きたい!

会社の人も嫌いだ!



鷹兄が・・・一番嫌い・・・大っきらい!!)



エレベーターが開くと足早に静はエントランスを抜け、自動ドアをくぐると同時に見送りに出た瀬名には見向きもせずに駆け出した。




「帰宅次第報告を。今日はアパートに監視をつけてください」

瀬名がそう言うとスーツを着た男が2名、静の後を追った。

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あきゅろす。
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