視線が目に、肌に、突き刺さるようだった。
色欲をはらんだそれは、静には異様な目つきにしか映らない。




「や・・やだ・・・」
「・・・」

「や・・・・・」
「嫌しか、言わないんだな」

「だって・・・こんな・・・・・おかし・・・」
「おかしいか?・・・欲しいものを欲しいと思うのはおかしいことか?」

「だっ・・・て、鷹兄・・」
「俺は兄じゃない、そう言っただろう」



鷹兄と呼ぶなと言われたこと。そう呼ぶたびにペナルティを課せられていたこと。それはこんなことをするため?僕は鷹兄にとって何なの。

笑みを浮かべながら圧倒的な力で支配しようとするのは憧れさえ抱いた兄のような人。




――― なんで、笑ってるの




表情の少ない鷹耶が浮かべる冷笑は、静には酷薄な表情に見えた。鷹耶にとって今の自分は手近にあるていのいいおもちゃなのか。気分次第でいいように扱われているとしか思えなかった。

修造の言っていた「人形」。

それは鷹耶にとって何でも思い通りになる遊び道具のこと。




――― そんなのはおかしい。そんなのは嫌だ!




「何故だろうな、今無性に欲しい」
「へ、変なこと・・い、言うなっ!!」


(欲しいって・・・
キスして・・・こんな変なことして、これ以上・・・・・何するって言うんだよ!おかしいよ!こんなの普通じゃない。
いつもの鷹兄じゃない!!!)

未だかつてない危険な発言とこの嫌悪しか感じない行為に、静は初めて鷹耶の中に潜む狂気を知った。





「欲しい」なんて、こんな直情的なことを真っ向から言われたのは初めてで、もうすでに服装も乱れていて何だか分からないうちに体を舐められて、キス以上のことを実行しようとする鷹耶が目の前にいて・・・
何もかもが静にとっては気が動転することの連続で、強行な鷹耶の振る舞いに蛇に睨まれたカエルのごとく血相を変え固まったまま動けずにいた。



「好きだ・・・静」


「し・・・知ってる・・・・」



裏返った声で、なんて間抜けな返答をしたのだろうと、後で思い返せば自分にそう突っ込んだに違いない。


「なら、いいな」


「・・・よ・・・・よく・・・ない」





「もっと、触れても」


「・・・・・・やだ・・・」



クスリと喉の奥で笑った鷹耶はいきなり静のシャツをズボンから引き抜き、肌着の下に手を滑り込ませた。

「ひっ、何、何、何すんの!」
「お前に触れると言っただろう」
「そんなの・・・ちょ、ダメだって、どこ触って・・・き、気持ち悪い!やめて!」
「心配するな、じき気持ちよくなる」
「何バカ言って・・・・あっ・・や・・・・」

わき腹を伝い上がってくる指に、何をされるのかと怖くてビクリと身をすくませた。いつもならくすぐったくってたまらないその場所も、今日に限ってはくすぐったさよりもゾワゾワする妙な感覚が上回り、口から出るのは笑い声ではなかった。

「やだよ!触んな、やだってば」
「我がまま言うな静」
「どっちが!・・っあ」

鷹耶の唇が静の首筋をチュッとついばみ、手は滑らかな素肌の感触を楽しみながらどんどん上へ這い上がって行く。

「ひっ!」

指先がかすかに触れたのは、小さな胸の突起。


(何何何してんの!た・・たっ・・・たか!うっ・・うそ!!!)


静の全身が硬直した。
喉の奥で小さな悲鳴を上げ、かわいそうなくらい青ざめた顔とカチンコチンに固まった体は、まさにまな板の上の鯉。きっと追いつかない思考が頭の中をグルグル回って何もできないでいるのだろう。
鷹耶はその反応がおもしろくて、首筋を舐めていた口からくくっと声を漏らして笑った。



仕事のしすぎで鷹兄は頭がおかしくなってしまったのではないだろうか!
怖くて動けない静には鷹耶の揺れる髪と、もごもごと蠢くシャツが目に映る。シャツの隙間から見える鷹耶の指が触れているものは・・・


(うぎゃーーーー!!そこって、そこ・・・ぎゃーーーーー!!なんてとこ、さ、さ、さわって・・・おえーーーーー)


本当に驚くと、声さえ出ない。
何が目的でそんな場所に触れたがるのか、女の子じゃあるまし、まっ平らな男の胸に何の興味があるのか?もう、鷹耶の嗜好を疑うしかない。絶対におかしい。異常だ。変だ。変質者と同じだ!!




覆いかぶさって首筋を堪能する鷹耶の視線はシャツの胸元に注がれている。服を着ているにも関わらず何もかも見透かされているようなその視線に、背筋がゾクッとする。

「うぅ!」

腹から這い上がった指は軽く触れた突起で止まり、指の腹でそのふくらみを円を描くようにさすり始める。

「や・・・だ、やめろってば、やだ・・・やだ・・やだ・・・」



怖いのだろうな・・・
分かってはいても、やめる気にはなれない。



嫌悪と快感の区別もつかない・・・
初めて他人に体を触れられる嫌悪感が先立ち、愛撫を受け付けようとしない。
欲情の対象として扱われることが理解できないのだろう。



だが・・・・・・




「も、や・・・は・・・放せって・・・」

震える声で嫌がる反応を見せる静に鷹耶の口角がくっと上がる。体をひねり抵抗を始めた態度に嗜虐心が一層膨れ上がる。


(どうして・・・嫌だって言っているのに、どうしてやめてくれないんだ!)


鷹耶は嫌がれば大抵のことはやめてくれる。どんなに意地悪な事も、静が本気で嫌がればあきらめてくれた。キスだって、むやみに触れることだって、お泊りのことだって、夏にした約束を守って過剰なスキンシップはだいぶ減ってきていたというのに。


でも今日の鷹耶は違う。


静に重くのしかかる鷹耶はどれだけ嫌だと言っても、行為をやめようとはしてくれなかった。




「やだって、変なとこ触んな!はな・・・」




抵抗する口を塞いだのは、またもや鷹耶の唇。
拒絶の言葉は荒々しく貪りつく唇にかき消され、静は鷹耶の背中をバシバシと叩いた。そんな静の態度さえも楽しむように、鷹耶は制服のジャケットを大きく開き腕まで引き下げると、シャツと肌着を強引に胸までたくし上げ、白い胸元をあらわにした。



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