涼介の指示
耳元で叫ぶので鼓膜が痛い。
必死に耳を押さえると今度は胸ぐらをつかまれた。
「単独で行動するなって何度言ったら分かるんだ、お前は学習能力ってもんが底抜けか===」
「せん、先輩、つば、つばがきちゃない」
「ほらほら天馬〜姫が汚れちゃうでしょう、離してやんな」
友成先輩に引きはがされ、拓也先輩がハンカチで顔を拭いてくれた。
「しず」
総長の低い声が倉庫内に響く。
イスにもたれ片膝を立てて座る涼介さんは、人差し指だけで来い来いと僕を呼ぶ。
総長である涼介さんの目の前に行くと、耳をぐいっと引っ張られた。
「あい、痛い、あぃだだっだだっだだあ」
耳を引っ張るその手を引きはがし何するんですか!と痛む耳をすりするこする。
耳がちぎれるかと思った。
このバカちから。
僕の耳たぶは繊細なんです。
あんた達みたいに殴られても蹴られても平気な体じゃあないんですよ。
「天馬の言うとおりだ。お前の耳は飾り物か。違うなら言われたことはきちんと守れ」
怒っている。
天馬先輩ほど表情には表れないが目が、怒ってる。
このタイプの人たちって、何で目で怒るかなあ。
怖い。怖すぎる。
とりあえずごめんなさいとあやまっておこう。うん。それって大事。
「ゴメンナサイ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
心のこもっていない、大して反省もしていない棒読みのゴメンナサイは、さらに先輩達を怒らせ、とうとう拓也先輩からも近くに置いてある雑誌で後頭部を殴られた。
「しかし、涼介。ナイトヘッドはやっぱ締めとかないとまたちょっかいかけてくるぜ」
僕の首根っこをつまんだままの天馬先輩が言うには、ここ数ヶ月でナイトヘッドはあちらこりらのグループとやり合っているようだ。
エンペラーも今日のような小競り合いが数回あったので、今日の集会を開いたということだ。
「お前がしず姫ってことは、向こうにバレてんだよな」
拓也がケンタを睨みつけて言い放つ。
敵の前でしず姫を危険にさらしたケンタはすんません===とそのばに土下座して頭をこすりつけた。
「大丈夫だよ〜ケンタさん。それにほら、僕しず姫とかじゃないってちゃんとその場で訂正したし」
やっぱお前アホや。
後頭部を天馬先輩がパカンと叩く。
僕の台詞など無視して話は進む。
「ぜってえ〜何か仕掛けて来るよな。あいつらのやり方汚ねんだよ」
今日の多勢に無勢の状況を見て分かったが、ナイトヘッドのやり方はえげつない。
集団で一人を襲ったり、なぶり殺し寸前まで痛めつけたりする。噂では裏社会にも関わっていてドラッグを売りさばいたり、ヤクザの手下のようなことまでしているらしい。
後ろ暗いバックが付いているから、ここ数ヶ月で勢いを付けてきたのだ。
「とりあえず、今のところはこちらから仕掛けるようなことはしねえ。ただし一人でうろうろすんなって、全員に徹底しておけ」
涼介の指示は外でたむろしている連中にも、今日は集まっていない末端の下っ端にもすぐに伝わる。
エンペラーはこの付近ではかなり前から存在する有名な暴走族だ。
チームの結束力が強いのは代々の総長や幹部の破壊的な強さと、他を従えるそのカリスマ性が非常に高いからだ。
そしてチームを抜けた後も必要とあらば資金や情報の提供をOB達は惜しまない。
この縦の繋がりとチーム全体の結束力がエンペラーの最大の武器だ。
「さて、ということでしず姫はしばらく自宅待機です」
にっこり笑って友成先輩は言う。
しばらく大人しくしていなさいと。
どうしても遊びたいときは駅まで誰か迎えを寄越すから、絶対に一人で行動しないようにと念を押された。
「うえ〜つまんない」
その一言が命取り。
またバキッと先輩に叩かれて、頭悪くなったらどうすんの==と反撃すると、もうすでに十分バカだと罵られた。
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