鋼の錬金術師(ロイ×エド ※死ネタ)
手紙

あの日・・・


俺は無理矢理、大佐に犯された――‥


今思えば、大佐はきっと、こうなることを予期していたんだと思う





久しぶりにイーストシティに戻って来たエドワードは、報告書を提出する為にロイが居る執務室へ向かった

「やあ、鋼の・・・ずいぶん見ないうちに背が縮んだのでは無いか?」

「誰が目に見えないほどの豆粒ドチビだぁ!!」

そんな相変わらずの会話が一段落した時、ロイが口を開いた

「家に鋼のが喜びそうな珍しい文献があるんだが、見に来ないか?」

急な誘いだったが、珍しい文献と聞いてエドワードは二つ返事でロイの家に行くことを承諾した

エドワードが帰った後、ロイは机の中に仕舞ってあった任務内容が書かれている書簡を眺めた

任務内容は大規模なテロリストのアジトに単身乗り込み壊滅させろというものだ

成功すれば大手柄だが、失敗すれば死ぬかもしれない危険な任務だった





夕方になりエドワードがロイの家に向かっていると雨が降ってきた

傘を持っていなかったエドワードはすぐ止むだろうとそのまま走っていたのだが、雨は止むどころか激しさを増してロイの家に着く頃には服も髪もびしょ濡れになってしまっていた

呼び鈴を鳴らすと少ししてロイが出てきた

そしてずぶ濡れのエドワードを見て苦笑する

「そのままだと風邪を引く、中に入って風呂でも入りなさい」

エドワードは一瞬迷ったが、やはり濡れた身体は寒くロイの言葉に甘えることにした





風呂に入って温まったエドワードは濡れた服を着るわけにもいかず、ロイが貸してくれたバスローブを身に纏ってリビングへ向かう

リビングで一人ワインを傾けていたロイはエドワードの姿を見て固まった

今のエドワードは風呂上がりで頬が紅潮しており、髪も濡れてとても艶めかしく煽情的だったのだ

そんなエドワードの姿にロイは抑えていた理性がぷつり、と切れるのを感じた

いきなりソファーに押し倒されたエドワードが身動きを取れないでいると、目の前にロイの顔が迫ってきた

怖くてぎゅっと目をつぶると唇に柔らかい感触が当たった

キスされたのだと分かり抗議の声を上げようと口を開くが、その隙間にロイの舌が入ってきて舌を絡めとられる

「・・・っ・・・」

抵抗しようにも押さえ付けるロイの力が強すぎて身動きが取れず、口も塞がれているので、ただされるがままになっているしかなかった

散々、前も後ろも弄られたあげく、幾度となくロイの欲望を注がれたソコは切れて血が流れ出していた



ーー俺はただ痛みに耐えながら、そんな事をする大佐が怖くて、信じられなくて涙を流すしかなかったんだーー



ロイがハッと我に返ると、目の前には涙を流しながらぐったりするエドワードの姿

ロイは自分がしたことに激しく嫌悪し、思わず自嘲的な笑みを浮かべた

そして気を失っているエドワードの身を清めてベッドに運んだ

「最低だな、私は。・・・すまない・・・エドワード」

眠っているエドワードの髪を梳くように何度も撫でながら、愛おしげに見つめるロイの顔はとても優しかった





エドワードが目を覚ますとそこには誰もいなく、時計を見ると明け方の4時を回ったところだった

痛む身体を引きずりながら家の中を探してみるが、ロイの姿は何処にもなく、エドワードは溢れてくる涙を拭いながらまた部屋に戻る

テーブルの上にはシワ一つ無く綺麗に畳んであるエドワードの服と、ロイの言っていた珍しい文献が置いてあった

しばらくして涙も止まり落ち着いたところでリビングに向かうと、一人分の朝食が置いてあった

エドワードは迷いながらもそれを口にしたが味は感じられなかった

「っ・・・痛ぇ」

身体の痛みだけではなく、心も軋んで悲鳴を上げていた





しばらくしてエドワードは昨日報告書を出していなかったことに気付く

今はロイに会いたくなかったが提出しない訳にもいかないので仕方なく東方司令部へ向かった





執務室に入るとロイが辛そうな表情でこっちを見る

「昨日は済まなかった・・・あんなことをして・・・身体は大丈夫か?」

ロイの言葉にエドワードは昨日のことを思い出して無言で俯く

そのまま机を挟んで前に立つと報告書を渡した

ロイがそれを受け取るとエドワードが小さな声で呟いた

「・・・本」

ロイはその単語だけでエドワードが何を言いたいのか分かったようだ

「あの文献は君に用意したものだ。持っていくといい」



普段ならここで

「大佐が俺に物くれるなんて何か裏があるんじゃねぇの?」

「失礼だな、私だってたまにはそういう時もあるのだよ。いらないなら返したまえ」

「ぅゎぁ、嘘です!大佐様!!有り難く使わせていただきます」

「最初から素直にそう言えばいいものを」

なんて軽口を言い合うのだが、今は沈黙が訪れるだけだった

それを少しだけ寂しく思うエドワード

すると突然、ロイの手がエドワードの方へ伸びてくる

エドワードは思わずビクッとして目をつぶった

その様子にロイは傷付いた表情で伸ばしかけていた手を引いた

「髪にゴミが付いていたのでね・・・」

エドワードはこれ以上その場に居たくなくて早足で扉へ向かう

「鋼の」

背中に声を掛けられて振り返る

「気を付けて。私はいつでも君達の旅の無事を祈っているよ」

優しい眼差しで語りかけるように言うロイに違和感を感じたが、それよりも早くここから出たくて返事もせずに扉を閉めた

それを後で後悔することになるなんて思いもせずに――‥





それから1週間後、ロイはあの危険な任務についた

ごく小数の兵を伴って乗り込んだアジトは予想以上に敵の数が多く、ロイは苦戦を強いられる

それでも何とか、あと一歩のところまで追い詰めた

しかし、物陰に隠れていた敵に気付くのが一瞬遅れた



ドンッ――‥



火柱が上がるのと鉛玉がロイの身体を貫くのは同時だった・・・




イーストシティを出発してから2ヵ月後、定期報告の為にエドワードは再び東方司令部を訪れていた

正直、まだロイと顔を合わせたくは無かったが、そうも言ってられず仕方なく司令室の扉を開けた

「こんにちは、大佐いる?」

その瞬間、場の雰囲気が凍り付いた

訳が分からず戸惑っているエドワードに、リザが近付いてきて暗い表情で告げる

「大佐は・・・亡くなったわ・・・」

その言葉に、エドワードは頭が真っ白になって呟く

「っ・・・嘘、だよな・・・?」

リザが小さく首を振る

「大佐は、あなたたちが出発した一週間後ぐらいに・・・任務中に銃で撃たれて殉職されたわ・・・」

「な・・・んで・・・だよ?嘘だろ?皆して俺のことからかってるだけだろ!?」

助けを求めるように司令部のメンバーを見るが皆黙って俯く

その事が真実だと、リザがそんな嘘を吐くはずないと分かっていても、どうしても信じられなかった。いや、信じたくなかった

祈るような気持ちでロイの執務室を開けるが、中には机とソファーがあるだけで、そこに居たはずの人の面影は無い

「・・・つ・・・大佐・・・」

リザが辛そうな表情でエドワードに歩み寄り、一通の封筒を手渡す

「これ、大佐の机の中にあったの。あなたによ」


その封筒には“Edward”の文字が――‥


エドワードはその封筒を受け取り中の手紙を取り出した

そこには、ロイが書いたであろう形のいい綺麗な文字が綴られていた





君がこの手紙を読んでいるということは、既に私はこの世にはいないのだろう

君には本当に申し訳ない事をしたと思っている

あの日、君を家に招いたのは決して下心からではない。ただ、少しでも君と一緒に居たかった

今思えば初めて君に会った時、魂が抜けた様な目をしていた君が私の言葉でその目に光を宿したのを見た時、あの時に私の心は君に捕われていたのだろうな

それから君は見事に国家錬金術師の資格を取って私が後見人を務めることになった

初めてだったよ、君みたいに生意気で、挑戦的な態度で私に接してくる人は、それが新鮮で

私の言葉にいちいち反応するのも面白くてついからかってしまう、そんな他愛ない時間が好きだった

そして気が付くといつの間にか君を目で追っている自分がいた

最初は戸惑ったよ、自分よりも半分も年下の、しかも男を好きになるなど

何度も“違う”と思い込もうとした

でもどうしてもダメだった…

君を見る度、気持ちが大きくなっていくのを感じたが、自分ではどうにも出来なかった

その綺麗な金色の髪に何度手を伸ばしかけたか・・・

抱きしめて「行くな!」と言いそうになるのを必死で堪えたよ

あの日、風呂から出て来た君の姿を見た瞬間、私の中で抑えていた何かが切れた

溢れる思いのまま、君を無理矢理ーー

どうせ手に入らないのならば、いっそ壊してしまおうとまで思った

だけど涙を流す君はとても綺麗で、その心に一点の汚れも無かった

君には本当に済まないことをしたと思っている

君の事を、君の心と身体を深く傷付けてしまった

でも、どうかこれだけは信じてほしい。一時の気の迷いや慰めなんかで君を抱いたわけじゃ無い

君は私を恨んでいるだろうな
いや、憎んでくれて構わない

それで少しでも君の中に残れるのなら・・・

本当は直接伝えたかったが、もう君に会うことは叶わないだろう

だから、どうしても私の気持ちを君に知ってほしかった

本当に済まなかった





そこまで読んだエドワードは涙で、それ以上読むことが出来なかった

最後の一行には、こう綴られていた





『エドワード、君を心から愛している――‥』





なぁ、アンタはどんな気持ちであの手紙を書いた?



私はいつでも君達の旅の無事を祈っているよ――‥



最後に見た大佐の顔と声が頭から離れない

いつもとは違うひどく優しい声と、少し寂しそうな笑顔

アンタのことだから既にあの時にはこれが最後になるかもって分かってたんだよな?

なのに俺はろくに顔も見ずに逃げるように部屋から出て行った

何でもっと早く気付いてやれなかったんだろうな・・・ごめん、

大佐がいつも俺達の事を気にかけてくれたり、助けてくれるのは分かってたし感謝もしてた

それを俺達が負担に思わないよう配慮してくれてることも

まさか俺の事を、その・・・す、好き、だったなんて思わなかったけど・・・

あの日、大佐が俺を自分の家に呼んでくれたこと、ちょっとだけ嬉しかったんだぜ?

プライベートなことなんて何一つ知らないから、少しだけ近付けた気がして

だから尚更悲しかった・・・

アンタは俺のことをそんな風に見てたのかよって、俺じゃなくてもそういう事が出来れば誰でも良かったんじゃないかって・・・

そう思ったら余計悲しくて、悔しくて涙が溢れてきた

そういえば俺、寝てる時に夢を見たんだ

誰だか分かんないけど大きな温かい手の平が何度も頭を撫でてくれて・・・それが気持ち良くて、何故だかとても安心したんだ

あの時は夢だと思ってたけどあれは大佐の手だったんだよな

アンタは卑怯だ、自分だけ言いたいこと言って先に逝っちまうなんて

俺も言いたい事や伝えたい事、沢山あったのに

名前もちゃんと大佐の口から読んでほしかった・・・

もう顔を見ることも、声を聞くことも出来ないんだな

この手紙が大佐の元に届くか分かんないけどさ、面と向かっては恥ずかしくて絶対言えないから

俺もこの気持ちを手紙に託すよ


『俺も





    アンタが好きだぜ、





         ロイ――‥』





fin.




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