鋼の錬金術師(ロイ×エド ※死ネタ)
蝕まれた身体

「離せっ!俺達をどうする気だ!」

エンヴィーに捕らえられたエドワードとロイは閉じ込められ両手を縄で拘束されていた

「どうって・・・ねぇ?ボクはアンタ達を捕らえて少し痛めつけろって言われてるだけだし」

エンヴィーがニヤリと笑う

「まっ、せいぜい泣きわめいてボクを楽しませてよ」

ゾっとするような笑みを浮かべるエンヴィーを見たエドワードは背中を冷や汗が伝うのを感じた





「そうだなぁ、まずは鋼のおチビさんから・・・」

「待て!鋼のに手を出すな!」

「へぇ、コイツを庇うんだ。いいよ、じゃ焔の大佐、アンタからやってあげる」

そう言ってエンヴィーは何かのカプセルを無理矢理ロイに飲ませた



ゴクンッ――‥



「大佐に何飲ませたんだよ!」

「それは見てのお楽しみww」





しばらくすると、ロイが急にお腹を押さえて苦しみ出した

「ぐっ・・・あああ・・・!」

「大佐!?」

「おっ、始まったみたいだね」

「おいエンヴィー!大佐に何しやがった!!」

楽しそうな様子のエンヴィーにエドワードが怒鳴る

「どうだい?焔の大佐、想像を絶する痛みだろ?」

「・・・っ・・・私に・・・ハァハァ・・・何を、飲ませた・・・うっ・・・あああーー!!」

「何って、寄生虫だよ。腹を食い破って中で動き回ってるでしょ?でも早く出さないとお腹ん中、全部食べられちゃうかもねv」

「なっ!?ふざけるな!早く出しやがれ!!」

「それは無理。出したかったら自分達で出せば?」

ロイの苦しそうな呻き声が部屋に響き渡る

「いいねぇ、その表情!苦痛にもがき苦しむ姿!もう最っ高!」

「・・・くっ・・・下衆が・・・っ・・・」

「ああん?誰に口利いてんのか分かってんのか?」



ドカッ――‥



「がはっ!!・・・コホッ・・・ハァハァ・・・」

エンヴィーの蹴りがロイの腹に入る

「大佐!!エンヴィー、やめろよ・・・やめてくれよ、頼むから・・・」

エドワードの目から涙が零れる

「あれ?鋼のおチビさん泣いてるの?そんなに焔の大佐が大事?しょうがないなぁ、じゃ縄だけでも解いてあげる」

エンヴィーが縄を解くとエドワードはロイの元へ駆け寄った

「大佐!しっかりしろっ!」

「・・・っ鋼、の・・・ハァハァ・・・君は、大丈夫かい?」

「こんな時になに人の心配してんだよ!」

「はが・・・ね、の・・・っゴホッ・・・ゴホッ・・・がはっ!!」

ロイが大量の血を吐く

「大佐!それ以上喋んじゃねぇ!」

「苦しそうだね、マスタング大佐。そのままだと死んじゃうよ?」

ロイの腹に手を当てると、中で石ころぐらいの大きさの何かが動いていた

「何だよコレ・・・」

「だから寄生虫だって。ああ、だいぶ大きくなってるね、これじゃ内臓ほとんど残ってないかもね」

「早く出せよっ!、このままじゃ大佐が・・・」

額に汗を浮かべて苦しそうに息をするロイには、もはや一刻の猶予も無かった

「だからさっきも言ったけど出せないんだってば。それこそナイフで腹を切り裂いて引きずり出すぐらいしか無いんじゃない?」

「そんな!!」

「・・・鋼、の・・・ハァハァ・・・やって、くれ・・・頼む・・・」

「でも!」

そんなことをすれば途端に血が溢れ出し、出血多量で死ぬかもしれない

「・・・このまま、では・・・っどのみち・・・助からない・・・くっ・・・だから・・・ハァハァ・・・頼む・・・」

真っ直ぐ見つめるロイの目は、エドワードを信頼している目だった

「・・・分かった」







エドワードはナイフを錬成するとロイの傍らに屈んだ


「大佐、少しの間我慢してくれよ」


「ああ。…酷なことを、頼んで…すまないね…」


ロイは微笑むとゆっくり目を閉じる


それを合図にエドワードは手に握ったナイフをロイの腹に突き刺した



グサッ――‥



「くっ…」


そのままナイフを横に動かして傷口を広げると、ナイフを一気に引き抜く


真っ赤な血がエドワードの顔や辺りに飛び散った


しかし、ドクドクと溢れる血とは裏腹にロイの顔は蒼白く、呼吸は浅くなっていく


エドワードは広げた傷口に手を入れて中の虫を探した







「くそっ、どこだ!?」


腹の中はエンヴィーが言った通り、ほとんどが食い荒らされていた


早くしなければ、ロイが死んでしまう


エドワードは焦りながらも必死で中の虫を探した


すると、手に動く何かが当たった感触があった


それを掴んで引きずり出す


「がはっ!!!」


手を抜いた時の衝撃でロイの身体がビクリと痙攣し、大量の血を吐いた


傷口からもとめどなく血が流れ出している


すでにロイは相当な量の血を失っていた


「大佐、しっかりしろ!くそっ、死なせてたまるか!!」


エドワードが合わせた両手をロイの傷口に押し当てると周りをまばゆい光が包み込んだ







ロイの瞼がピクリと動き、徐々に持ち上がる


「喋るな、じっとしてろ」

何かを喋ろうとするロイをエドワードが止める


「無事な細胞だけを繋ぎ合わせて傷口を塞いだ」


エドワードの言葉にロイが僅かに微笑む


「やるねぇ、おチビさん。まっ、今回は僕も結構楽しめたしこれぐらいにしといてあげるよ」


お仲間も来たみたいだし、と言ってエンヴィーが姿を消すのと同時にハボックと憲兵が中に入ってきた







「大佐!!」


ハボックは目の前の惨状に言葉を失った


倒れている上官の周りにはおびただしい量の血が血溜まりを作っており、青い軍服は真っ赤に染まっていた


側まで行ってかろうじて息をしていることに安堵するが、この出血の量からいっても直ぐに輸血をしなければ命は無いだろうということも分かり、ハボックは急いでロイを抱え上げる


「ハボック少尉、あまり揺らさないで。詳しいことは後で話すけど、大佐、内臓がほとんど無いんだ。とりあえず無事な細胞を繋いで傷は塞いだけど…」


エドワードの言葉にハボックは絶句する


「とにかく大佐を病院に運んでくれ」


「…あっ、ああ分かった」


エドワードに言われた通りなるべく動かさないように、ハボックはロイを車まで運んだ







「大佐、もうすぐ病院だからな」


移動中、エドワードはロイの手を握りながら声を掛け続ける


しかし、その手はまるで氷の様に冷たく、エドワードが握っていても一向に温まることは無かった


にも関わらず額には汗が浮かび、小さく胸だけが動いている状態だ


「大佐…」


苦しそうなロイの姿に、エドワードはただ側で見ていることしか出来ない自分の無力さを呪った







手術室のランプが消え、中から手術衣を着た人が出てきた


俯いていたエドワードは弾かれたように顔を上げ、その人に駆け寄った


「先生、大佐は!?」


「一応、出来る限りのことはしたが、何せ中がぐちゃぐちゃだ。正直、生きているのが不思議なぐらいだよ」


「じゃあ大佐は…」


「生きてるよ。ただし今のところは、だがな。あの状態じゃいつ急変してもおかしくない」


それでも取り敢えずロイが生きていると分かり、エドワードはその場にへたり込んだ







エドワードは病室に泊まり込んで、片時もロイの側を離れなかった


ベッドに横たわるロイの顔は青白く、自力では呼吸も出来ない程に身体は弱り切っていた


そんなロイを見ていると後悔ばかりが襲う


きっと大佐はもう永くないだろう――‥


自分があそこで助けたばかりに今なお苦しい思いをさせ続けている


本当はもう楽にしてやった方がいいのではないか、と…


でも一方で少しでも永く生きていてほしいと思う。


もう一度その瞳で、その声で、自分を映し、呼んでほしいと願っている


そんな相反する思いの中でエドワードは揺れ動いていた


「なぁ大佐、俺どうすればいい…?」


エドワードが漏らした呟きにロイの指がピクリと動いた


「大佐!?」


呼び掛けるとロイがゆっくりと瞼を開けた


「はが、…の………な…て…のか?」


何かを話したそうなロイの様子に、エドワードはロイのマスクを外して耳を傾ける


「泣いて…いる、のか?」


「…っ泣いてなんか…泣いてなんかない…!」


口ではそう言うものの、エドワードの目からは涙が次から次へと零れてくる


それを見たロイが苦笑しながらエドワードの涙を拭う


「相変わらず…素直、じゃ…ない…な」


「うるせぇ…」


もう一度見たかった瞳が、笑顔がここにある、それだけでエドワードは胸が一杯になった







「良かった…」


ロイがゆっくり息を吐きながら言う


「君に…もう一度、会えて…」


その言葉にエドワードは胸のつかえがスッと取れていくのを感じた


ロイは“良かった”と言ってくれたのだ


自分に会えて、生きていて良かったと…


「俺も…大佐が生きててくれて良かった…っ」







「…っ…ゴホッ…ゴホッ…ハァハァ…」


「大佐っ…待ってろ、すぐ先生呼んで来るから」


そう言って立ち上がったエドワードの手をロイが掴む


「…っ…ここに…いて、くれ…ハァハァ…エド、ワード…」


エドワードはロイの手を振りほどくことが出来なかった


「鋼の…ゴホッ、ゴホッ、ハァハァ…っ、ゴホッ、ゴホッ///」


「大佐!!」


激しく咳込むロイにエドワードは慌ててマスクを付けようとする


しかしロイはそれを拒んだ


「何でだよ!このままじゃアンタが苦しいんだぞ!?」


浅く呼吸を繰り返すロイにエドワードは怒鳴った


「…っ…君と…少しでも、長く…ハァハァ…話が、したい…んだ…」


ロイはそう言って微笑んだ


「私は…君と、話をするのが…ハァハァ…いつも、楽しみだった…ゴホッ…君は、私の言葉にも…ポンポンと、言い返してきて…その反応が面白くてね…つい、からかってしまう…」


「本当、アンタは嫌味でスカしてて、ずっと嫌な奴だって思ってた。…そう思ってたはずなのに…いつの間にか俺、アンタのこと好きになってた…」


「私も…ずっと、君が好きだったよ」





本当は気付いてた


お互いの気持ちに…


けれど、見て見ぬ振りをした


嫌味でスカした大人と生意気なガキ、という立場を守ってきた


だって、そうしなければ弱くなってしまうから


二人とも果たさなければならない目的があったから






でも、今くらい…


最後くらい素直になって、


   君に、
   アンタに、


“好き”と伝えたい――‥





「エドワード、愛しているよ」


「俺も…愛してる///」


そして2人は口付けを交わした


エドワードがそっと唇を離すとロイは柔らかく笑った


そしてゆっくりと息を吐いて、静かに目を閉じて、それきりだった


しかしその顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた――‥


            fin.




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