転生してみたものの 目を付けられたものの まさか、こんな所でまた会えるなんて思ってなかったよ。 ほんと、凄いよな。 ------------- 第2話:目を付けられたものの ------------- 「今日は、新学期恒例、クラスの係決めをします」 そう、明らかに面倒くさそうな顔で教壇に立つ元幼馴染一郎の姿に、俺は軽くため息をついた。 もう少し笑顔を作れよ。 顔が怖すぎて、生徒がビビっているのがわからないのか。 あぁ、もう。 何でお前は教師なんかになった。 そんな俺の内心など知ってか知らずか、一郎はこれまた面倒臭そうに黒板に係の一覧を書き始めた。 あぁ。まさか、一郎が、俺のクラスの新しい担任としてやってくるなんて思いもよらなかった。 何度、夢だと思った事だろう。 少なくとも、昨日の一郎との対面から一夜明けた今日までに100回以上は同じような事を思った。 「(世間って本当に狭い……)」 俺はカツカツと言う、一郎が響かせるチョークの字を目で追いながら、やはり字だけは綺麗だなぁとぼんやりと思った。 まぁ、これは昔、習字を習いたい習いたいと可愛いワガママを言っていた小学1年生の頃の一郎が、俺を引っ張って無理やり近所の習字教室にまで行って字を習った事に由来する事は、俺自身よく覚えている。 結局、途中で習字教室に飽きた一郎はわずか1年で習字教室を辞めてしまうのだが、一番大事な初歩の段階での字の矯正は一郎に、その後の綺麗な姿勢で字を書くことと、鉛筆の持ち方を覚えさせたのだ。 故に、一郎は中学に入って喧嘩で荒れ始めた頃も、提出するプリントは綺麗だと教師たちの小さな驚きの種となっていた。 だから一郎の字は今でも綺麗で整っている。 黒板の字だけ見るならば、奴は立派な教師である。 しかし。 「……野田先生、おこってるのかな?」 「わかんない……けど、こわいね」 あの顔は教師とは言い難い。 近くでコソコソと怯えながら話すクラスメイトに、俺は何故か非常に申し訳ない気持ちになると、また更に溜息をついていた。 顔は、昔以上に整っている。 あの頃は髪を染めたり、ピアスを大量にしたりと、顔の整った造形を覆す程の装飾品で一郎は覆われていたので意識した事はあまりなかった。 これは、きっと今まで相当モテてきたに違いない。 それに、中学時代にしていたようなアホみたいな金髪ではなく、現在は艶のある黒髪に戻って居る。 多分、クラスメイトの母親世代は一様に、一郎を好青年だと言う事だろう。 しかし、 しかしだ。 この、表情……アレじゃダメだ。 『あー、めんどくせー』 『あー、マジでダリィ』 中学時代の一郎の口癖。 まさにその言葉通りの表情をしている。 そして、その事もあって、もともと不良として名を馳せていた一郎の表情は物凄く人相の悪いモノとなってしまっていた。 「(何故、教師なんかになったんだよ、一郎)」 お前には工事現場の作業員か、とび職とかが絶対向いていると思うぞ、俺は。 本気でそう思う俺に、突然黒板から振り返った一郎と俺はバチリと目があった。 一瞬、息が止まりそうになる。 なにせ、この一郎の鋭い目を見るのは10年振りだからな。 それに、だ。 昨日の事、多分一郎はまだ気にしてると言うか、何と言うか。 多分、俺は昨日一郎に目を付けられたような気がする。 バチリと合う俺と一郎の目。 息を呑むクラスメイト。 おいおい、何でそんなに俺を見るんだ。 そんなに昨日の事が気に障ったのか。 俺は蛇に睨まれた蛙のような心境で、ピシリと固まるとチラリと昨日の一郎の言葉を思い出していた。 昨日の、少しだけ不機嫌そうな、あの幼馴染の声を。 [*前へ][次へ#] [戻る] |