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土方部屋
月光2(近藤×土方)
その夜は満月だった。

それはいつか見た月。

暗い闇を照らす青い光。


「歳・・・」

月明りが影を作り、文机に向かっていた土方が顔をあげる。


スーっと障子が開き近藤の大きな身体があらわれる。

「ちょっといいか?」

昼間のことなのだろうか。

土方は少し渋面を作りながらも近藤を招きいれる。


近藤はなぜか気後れしたかのように静かに部屋に入ると土方の前に座った。




机の灯りが土方の横顔を照らしていた。

いつも見慣れているはずのそれが妙に艶っぽくみえるのはなぜなのだろうか。

近藤は思い起こす、昼間の情景を。

目の前に座る美しい友の胸にはこれまた性を感じさせない少年がいた。

ギュッと抱き合う二人は男同士という嫌悪感は感じさせなかった。

だがソレとは別に近藤の胸の奥の何かを目覚めさせてしまったのだ。




女に不自由しない友が男もいけるのだと認識したその瞬間、近藤の目には友の姿が変貌をとげていた。

信頼・友愛という言葉で封じ込めていたはずの心の奥底に潜む欲望に火をつけたのだ。

その艶かしい白い肌、役者のようだと称される美しい面。

男らしいとさえ言われるその姿にさえ、押さえつけて泣かせてみたいと欲情するこの心。

妻や愛人にさえこんな激しい想いをいだいたことはない。

こんなにも誰かを欲する心があるなんて近藤自身己を知らなかった。




「山崎に酒を持ってこさせよう」

そんな近藤の心を知らぬ土方は部下を呼ぶため手を叩こうとしていた。

だが近藤の動きが一瞬早かった。

土方の手が音を鳴らすその前に近藤の手がその白い手を引き寄せていた。


「近藤さん?」


いぶかしげに首をひねる土方。

そんな土方の首を近藤は手繰り寄せる。


「え・・・?」



近藤のたくましい胸に土方は抱き寄せられたのだ。





土方にはなにがなんだかわからない。

いつの間にこういうことになってしまったのか。

それともコレは夢なのだろうか。

だから少し身じろいで顔をあげる。

そこには長年見慣れた友の愛しい顔が間近にあった。


「歳・・・」


近藤の口から愛しい名がもれる。

いつも呼ばれる名ではあるのだが、そこにはいつもはない何かが含まれていた。

だから土方は呼んでみる。


「・・・・かっちゃん?」


それは愛しい友の名。

近藤の細い目が見開かれる。

その名にこめられた何かを感じたのか。


土方を床に押し倒す。

そしてまじまじと見つめる。

友の美しい顔を。

障子の隙間から青い光が入り込んでいた。

青い光に照らされた友の白い面。

それはいつか見た月光花。

夜に咲く美しくも妖しい花。


近藤は魅入られたようにその花の芳しい香りをかぐ。

そしてその甘い蜜を味わうべく唇を寄せていった。








青い満月・・・・月の光は魔を放っていた。








息ができないほどの接吻。

性急に身体をまさぐられる。

「ちょっと!むむむ・・・」

言葉は再び口内に絡みとられる。

月明りが映すのは獣の姿。

目が血走り本能だけで行動している。


ただただ喰われてしまうのはイヤだ!!




土方は近藤の頬を両手で押さえる。

そしてそのまま合わさった唇から舌を侵入させる。

驚いたかのように近藤の動きが一瞬止まった。

そのまま土方はお互いの舌を絡ませていく。

近藤の力が抜ける。

その快楽に身を任せるかのように土方の動きを享受する。

そこにはもう獣はいなかった。

だから土方はそっと唇を離す。




「かっちゃん・・・・」



土方の上から見つめる瞳はかつての島崎勝太がそこにいた。

土方がいやかつての歳三が憧れた一つ年上の勝太が。

「歳・・・」

勝太が土方を呼ぶ。

「ずっとかっちゃんのことが好きだった・・・」

だから歳三の昔に返って素直にそう言えた。

勝太の細い目が見開かれる。

「でも・・・つねさんとの祝言の日にこの想いは墓場まで持っていくと決めた」

近藤の脳裏に昔の土方が浮かぶ。

ムスッとしながらも祝福の辞をのべてくれた親友。

あの時この友はどんな気持ちでいたのだろうか。

「だがあんたはその妻子を置いて京に上ると言い出した。俺がどんな気持ちだったのかわかるか?」

土方がキッと近藤を睨む。

「俺は・・・俺は浅ましいことに喜んだんだよ。つねさんよりもかっちゃんの傍にいれるってな」

「と・・・・し・・・?」

「だけどあんたは京に来ても次々と女を作った・・・だから・・・だから俺は・・・」

そう言いながら土方の唇はゆっくりと自虐的に弧を描いていく。

泣きそうな顔に唇だけがにぃっと笑みをみせる。


「男に・・・男に抱かれた」


ダンっ!!


近藤は思わず土方の方を両手で押さえつける。

「うっ」

近藤の馬鹿力で押さえつけられた肩が痛む。

睨みあった目と目。

それを反らしたのは近藤だった。

ガバっと土方の胸元を開く。

男にしては白いきめ細かな肌。

そこに薄桃色の飾りが二つ。

近藤は無言でそれにむしゃぶりついた。



「男に抱かれ・・・男に貫かれて腰を振って・・・快楽に溺れて・・」


いつしか土方の目からは涙が零れ落ちていた。

「歳!言うな!!」

「それでも俺はあんたを忘れることはできなかったんだ!誰に抱かれても誰を抱いても俺は俺は・・・」


バシッ!!


近藤が土方の頬を思い切りはたく。

少しずれたのか唇から血がにじんできた。

「あ・・・・」

近藤は無意識のうちにそのにじんだ血を舐めとる。

「歳・・・もう言うな」

その言葉に土方はイヤイヤと首を振る。

近藤は駄々をこねる子供のような土方をそっと優しく抱き寄せた。

そしてその髪をゆっくりと梳くように撫で始める。

「すまん・・・俺のせいだ・・・・」

そっとその髪に唇を寄せて近藤が言う。

「・・・?かっちゃん?」

「俺も・・・俺もおまえに欲情していた。だけどそんなこと・・・おまえを卑しめることなんかできない。おまえは俺の・・・俺の半身だから。おまえと俺は・・・・だから島原に女を抱きに行ったんだ。俺は女に溺れていった」

そう言いながら土方の帯に手をかける。

さわさわと太ももに手が伸びていく。

その動作はどこかぎこちない。

だから土方がその手を掴む。


「・・・かっちゃん・・・・俺が・・・」


くるり


土方は反対に近藤を押し倒す。

「と・・・とし・・・」

驚いた近藤に土方は妖艶に笑ってみせる。

そして近藤の下帯に手をかける。




「俺があんたを極楽浄土に連れて行ってやるよ」







月の青い光。

青い世界でゆらゆらと揺れるのは夜叉なのかそれとも天女なのだろうか。

近藤は自分の上で揺れる美しい面から目を離せない。

「うううっ・・・」

これが極楽浄土なのか。

狭い器官が上下するたび近藤をいざなっていく。



ハァハァハァ



二人の息遣いが次第に速くなる。


アアアァァァ・・・・


その声はどちらのものなのか。





天に昇っていく・・・・




そう感じた瞬間、近藤は土方の中へ己を放っていた・・・・・・





片翼飛行
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