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土方部屋
行灯(伊東×土方)
「くそっ!藤堂のやつめ」

よりによって土方歳三と同室とは。伊東は一人心の中で毒づいていた。



土方と伊東、真逆の二人であった。


片や剣の腕と弁舌を認められ道場主の娘婿として先生とよばれる選ばれた人種。

片や侍になりたくて武士道を貫くそのためだけに生きる無主義な男。

新撰組局長・近藤勇はそれでも攘夷論を説けばその思想に感動して協調してくれた。

だがこの副長・土方は論理など度外視、ただ隊の規律のみを重んじる。

こんな頑固な田舎モノは見たことがなかった。




そしてなにより気に喰わないのはその容姿。

伊東自身、容姿端麗と言われ続け現に妻はこの容姿に惚れこんで伊東と一緒になったのだ。

その伊東でさえ内心負けたと思わされる土方の容姿である。

京でも色町の女からの文が絶えないという噂である。

たしかに役者のようにすきっと整った顔は男前であった。

そのうえふとした時にみせる横顔には色香さえ漂うことがある。

伊東は目の前の男の横顔を見つめた。

宿の女中が灯していった行灯の火が陰影をつけますます土方の男っぷりをあげていた。

きりりとした唇、耳元から首筋にかけては吸い付きそう滑らかだった。

その先はどうなっているのだろう。


その手触りは・・・






「なんだ?」

その土方の声で伊東はハッと我に返る。

無意識に土方の首筋に手が伸びていたのだった。

「あ・・・首筋が凝ったりしないか?」

その吸い付くような肌をギュッともむ。

「あ・・・ん」

その瞬間、土方の口から思いもかけぬ色っぽい声が漏れた。

伊東はその声が聞きたくて土方の背に回る。

身を引こうとする土方の肩を両手で押さえる。

「知っていたかい土方くん。旅の疲れは指圧で癒すことができるのだ」

そう言いながら伊東はぎゅっと土方の肩を揉み解した。


「ああぁ・・・」

最初は身を固くしていた土方もその心地よさに身を委ね、時折甘い吐息をもらす。

伊東は自分の一部がその声に反応していくのを感じていた。



伊東は妻子もちである。

もちろん女を抱く男だった。

だが時には男を抱くこともある。

だがそれはみな男になる前の少年ばかりであった。

例えて言うなら亮祐のような匂いたつ美しい少年。

女の代用としてその身体を自由にする。

それには柔かい肢体でなければならなかったのだ。

だから土方がいくら整った顔かたちをしていようが守備範囲外であったはずだ。




なのになぜ・・・・






「ありがとう」


土方が振り返る。

それは新撰組副長・土方歳三。

涼しい切れ長の目元の視線が強い。

鬼の副長とみなが恐れるその瞳が伊東を見る。




「明日も早い。もう寝よう」

伊東はぶるんと頭を振る。



「あ・・・ああ」





何を想っていたのだ今、自分は。

目の前にいるのは天敵ではないか。




ふっ


土方が行灯の火を消す。

すると闇が覆う。

あれは行灯の火が魅せた妖しい幻だったのか。

布団に身を横たえ伊東は思う。

土方があんなに美しく色っぽく見えてしまうとは・・・・



がばっ


もう寝よう。

明日も早い。




気の迷いを振り払うように頭から布団をかぶる伊東であった。



片翼飛行
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