Morning Coffee
−5−
「んじゃ、出るか」
伝票を持って虎徹は席を立つ。
これ以上ここにいたら何をされるかと思うとレジに行く足も早くなる。
その後ろを歩きながらバーナビーは虎徹のありありの態度にため息をつく。
レジに伝票を渡し、別会計と言う前に後ろから手が伸びてきてゴールドカードが置かれた。
「バニー」
隣にいるバーナビーに咎める。
支払いを済ませるとさっさと店を出た。
それを追って虎徹も外に出た。
「バニー」
背中に声をかけ引き止める。
「俺の分は払うって」
「いつも言ってるじゃないですか。いいです。って」
「それじゃ、俺の気がすまないんだよ」
「だから、いいんですって」
しつこい虎徹に幾分強く言う。
「バニー」
食い下がらない虎徹。
「わかりました」
くるりと虎徹へ向いた。
「お金はいりません。その代わり、キスでならいいですよ」
「‥‥‥‥」
戸惑う虎徹。
ほら、やっぱりね。
「わかった。それでいい」
「−−−!?」
NOと言うのがわかっていて言ったのに、思わぬ虎徹の返事だった。
「なんだ。聞こえなかったか?いいって言ったんだよ。キス一回だろ」
「ホントにいいんですか」
「あ?何言ってんだ?条件出したのおまえだろ」
「‥‥‥そうですけど」
虎徹が割り切りがいいのを忘れていた。
虎徹も言われたときは驚いたがバーナビーも頑固なのは知ってるからお金は受け取らないだろうし、だったら、キスぐらいですむんだったらと決めた。それにバーナビーとはこれまでもキスをしたことは何度かあった。向こうからのアクションで抱きつかれたり、その延長でキスをしたりのセックスまでにはいたらないがぬるい関係だったりしている。
「今はしませんよ。でも、ボクがしたいときにします。その日払いで」
したい時って、それって今までとあまり変わらないんじゃないかと虎徹は思ったが口にはしなかった。
車をアポロン・メディアの自分専用の駐車場に停めた。
アニエスからの出動のコールが入り、車から出ようとした虎徹は手首を捕まれ引き止められたのに振り向き、それをつかれたように首に腕を回され引き寄せられるがままに唇を重ねられた。
「――――っ!」
態勢が悪く咄嗟にシートヘッドに手をついてなんとか倒れ込むのを防いだ。
なおもバーナビーは唇を深く重ねる。
「‥‥‥っ‥‥バ‥ニ‥っ‥んっ‥‥」
甘い痺れが体を流れていく。
シートヘッドを掴んでいた手がずり落ちていく。
支えをなくした体はバーナビーへ倒れ込んでいくが間一髪でヘッドボードに手をついた。
それでも不安定なのはさっきよりも増している。
そんな態勢でいるのにもバーナビーは構わず、舌を絡めていく。
車内は二人の湿った音が響き、時折漏れる虎徹の甘く熱いくぐもった声だけが聞こえる。
「‥‥う‥ん‥‥っふぅ‥‥っはぁ‥ぁっ‥‥」
どれだけの時間そうしていたのか、アニエスからの催促のコールが二人の邪魔をした。
甘い時間の終わりだ。
名残惜しくバーナビーは虎徹から離れる。
「‥‥‥バニー、俺、ちょっと無理っ‥‥」
熱い息を吐きながらシートにすっかり体をもたれさせてしまっている虎徹。
「‥‥‥何言ってるんですか‥‥」
せっかくの虎徹との時間を邪魔されてバーナビーはいらついていた。
それでも虎徹のことは放っては置けない。
「‥‥。いいですか。斎藤さんにトレーラーをさっきの店近くに廻してもらいますから。虎徹さんは3分したら来てください。それまでに立ち直っておいてください」
「‥‥‥悪ぃ」
額に手を置き目を覆い、バーナビーに手挙げる。
バーナビーが立ち去るのを見送るとため息と未だおさまらない熱い息が出る。
「‥‥はぁ‥‥」
あれだけのキスで参ってしまっている自分が情けなかった。
はじめの頃よりバーナビーが上手くなっているのもある。
的確に虎徹の弱いところを攻めてくるようになっている。
そして、虎徹自身もバーナビーに感じいるようになってしまっていること。
溺れているなと思う。
「‥‥‥まったく‥‥‥」
どちらに対してなのか。それとも両方なのかもしれない。
それでも嫌な気持ちではないことは確かだった
†END†
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