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平穏最後の日(完結)
8



「……園川!遼は!?」

いつもの清潔な恰好と違い、よほど急いだのだろう髪の毛が乱れた様子の恭介が病室のドアを乱暴に開ける。

その先にはベッドに横たわる遼介と横に座る園川の姿があった。
真っ先に園川が電話をしたのは恭介だ、そして指示を仰ぎ紫堂御用達のこの病院へと遼介を運んだ。
以前謙介が入院していたのもこの病院なので、すぐにまたここを訪れるとはと園川も恭介もあまりいい気分ではない。

眠る遼介を青くさせた顔が覗く。

ゆっくり手を伸ばしたかと思うと、壊れ物を扱うように頬を数回撫でた。
冷たくない感触にほっとする。


「若頭、今眠っているだけですので」
「怪我の程度は」
「血が流れていた割には傷が浅かったので、横っ腹を数針縫っただけです。腕の方も一か所傷がありますがそちらは固定していれば塞がるそうです」
「そうか、助かった」
「いえ、当然のことをしたまでです」

恭介は思う。

本当に助かった。
まだ誰がどんな理由で遼介を傷つけたのかは分からないが、園川が通っていなければしばらくそのままの状態で放っとかれたわけだからこの程度で済んだとは思えない。

とりあえず遼介の様子は確認出来たので、あとは犯人捜しだ。

もちろんただじゃ済ませない。

「園川、その二人組はどうなった。堅気なんだろ?」

「ええ、顔はよく見えませんでしたが堅気と見て間違いないでしょう。後姿の画像はありますので捕まるのも時期かと」

片手で口もとを押さえた恭介からくっと笑いが漏れる。
冷たく光る瞳からは到底遼介へ向ける普段のそれは想像出来ない。

堅気には関わらない。紫堂会の掟だ。

しかしそれは「堅気」相手だけだ。

紫堂会に喧嘩を売ってきた時点でその者はもう堅気でも何でもない、ただの犯罪者と見なす。
敵には一切手加減など必要ない。

「早く捕まえろよ、俺の気が触れないうちにな」

本気の恭介にはあまり近づかない方が身のためだと、了承の返事だけしてそっと病室をあとにする。
そのまま仲間に連絡をつけて二人の行方を追った。

車に乗り込んだところで園川がふと気付く。


「あー、久遠さんもそろそろ来るか?やばいな」

今あの二人が鉢合わせして大丈夫だろうかと思うが、そうは言っても「今病室に行かないでください」と伝えて聞く人間でないことはよく分かっている。
さすがに病院で流血沙汰はないだろうと知らない振りをするしかなかった。





部下を廊下で待たせているため、病室内は遼介と恭介の二人だけだ。

こうして弟の顔を間近で見るのはいつ振りだろうと力なく笑う。
もしも、もしもだ。言い争ったまま病室で再会し、その遼介が二度と目の覚ますことのない状態だったとしたら。

想像しただけで寒気がした。はらわたが煮えくり返りそうだ。

遼介の素性を知ってか知らずかは二の次、紫堂会が本気になったらどうなるのかその体に刻み付けてやる。
握った拳にぐっと力を込めた。

それまでは遼介のことを第一に考えていようと、眠るその額に手を乗せて優しく撫でた。

吸い寄せられるように無意識に手のひらにすり寄る遼介が可愛らしい。
微笑ましい光景に癒され始めた時、後ろからドアがきい、と開く音が聞こえた。

部下が入ってきたのかと思い振り向くがそうではないようだ。自然と眉間に皺が寄る。


「てめえ……」



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