平穏最後の日(完結) 7 高層ビル群が立ち並ぶ街並み。 街に馴染んだこのビルも例外なくオフィスビルだ。 書類を持った若い男二人が二十階でエレベーターを降りると、下りたすぐ傍の扉を小さくノックした。 「社長失礼します」 「ああ」 するりと室内へ滑り込む。いつもより遠慮がちに入るのは話題が話題だからだろうか。 「どうだった」 「ここ半年のデータを集めましたが、犯人が見つかっていない外国人が絡んだ事件はありませんでした」 「ならいい。心配しすぎだったな」 「坊にはえらい過保護ですもんね」 「神田(かんだ)うるせえぞ」 説明している男の横に立つ神田と呼ばれた男は、へえへえと悪びれもせず適当に相槌を打っている。 「あっちは監視も付いてるしもう二年近く経つからな。だが生きてる限り気にしておくに越したことはない」 「そうですね。私としては生きていてくれなくて構わないのですが、許されませんから」 「相馬(そうま)がそこまで言うなんて珍しいな。まあ否定はしないが」 物騒な会話になってきたところで、欠伸一つして神田が扉に手を掛ける。 「ほな俺はこの辺で。他にも詰まってますんで」 「助かった」 軽く手を挙げて神田が去っていくのを確認し、止めていた業務に再び目をやる。 「このあとの予定は」 「十八時からこのプロジェクトの関連会社の会合があります。終了は二十時頃かと」 それを聞いた本山は書類にサインをしながらちっと舌打ちをする。 舌打ちの意味を理解している相馬は、何事もなかったかのように明日の予定をつらつらと言い並べた。 「苛々するのは分かりますけど、その顔で会合に出席されると困りますので」 「分かってる」 「遼介さんに夕飯に間に合わない旨こちらでお伝えしておきます」 「頼む」 分かったと冷静さを装うが、顔がどんどん険しいことになっている。 遼介と過ごせないと分かるとすぐこうなるのだが、こんなことが日課ではこちらがストレスが溜まる一方だ。 「明日はおそらく夕方の時間帯は空けられますので、遼介さんをこちらにお呼びしてはいかがでしょうか」 「…………」 無言は肯定であると判断して、明日遼介を迎えに行くための車の手配をする。 これで少しは気分が紛れるだろう。社長秘書は大変な仕事である。 「はい、分かりました。連絡有難う御座います!」 相馬から連絡を受けた遼介は、夕飯の買出しに行くことにした。 冷蔵庫に食材が入っているものの自炊出来ないためだ。 「自炊か……」 「やっぱ出来た方がいいよなー」 「何が?」 「へっ?」 一人で歩いていてただ呟いた言葉なのに、確かに今どこかから声が聞こえた。 吃驚して辺りを見回すとこちらを向いて青年が立っていた。 「えーと……」 困っていると、青年が頬を掻きながら優しく笑って言う。 「一回しか会ってないから分かんないよね。ごめん、この前道教えてもらった田川なんだけど」 「ああ! 田川さん!」 記憶と一致し一安心する遼介。 ―――――――――――――――――――― 5000hitキリリクに出てきた神田さんが本編でも登場です。 [*前へ][次へ#] [戻る] |