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平穏最後の日(完結)
13



そのやり取りを遼介は不思議そうに見る。

「神田さん格好いいのに何でですかね」
「ぼ、坊ー!俺の味方は坊だけやー!」

テンションの上がった神田に抱き着かれていると、横から「ふざけんな」と鉄拳が神田のこめかみを襲う。
遼介にとっては、神田は恭介がいない時の話相手になってくれたりと、恭介の部下という以上に思う存在だった。
なのでそんな神田がモテないと聞いてもピンとこないのだ。

「そんなんこいつがだらしねえ顔で調子のいい奴だからだろうが」

けっと軽く悪口を放ってさっさとエレベーターに乗り込む恭介。慌てて二人も続いて乗り込む。

こんなことをしているが、ついに父と、神田にとっては雲の上のような上司と再会出来る。
小さな緊張を隠すようにふざけたやり取りをしてしまったのかもしれない。
特に恭介と神田は瀕死の状態で病院に運ばれたのを知っているため、どうにも会うまでは安心出来ないでいた。

ちん、と音を立ててエレベーターが止まり扉が開く。
ここの階は病室も少なく全て個室のため、すぐに該当の部屋まで辿り着くことが出来た。
前回恭介がここを訪れた時はまだ一般病棟には移っておらず、遠目に父の姿を確認しただけだ。

やっと会える、遼介とはまた違う意味でついに会える父を心待ちにしていた。




「親父、遼介を連れてきた」

軽くノックをして、返事を聞く前にドアを開ける。

目の前に広がるは真っ白な部屋。そこに同じように白いベッドが鎮座してし、上体を起こしてはいないが確かにそこに人がいるようだ。
紫堂会を統治している者には似つかわしくない光景で、恭介は苦笑いを浮かべるしかない。
横で立ちすくむ遼介の背中をそっと押してやる。

遼介がちらりと横目で見れば、恭介が頷く。神田は病室のドアを閉めてそこを守るように立っている。


「初めまして遼介です。……お父さん」

そこで初めてベッドに沈んでいる体をゆっくりと起こしてこちらへ向きを変えた。
つい先日まで死にかけていたとは思えないほどの鋭い眼光、逞しい体躯に遼介はごくりと喉を鳴らす。
この人がお父さん……遼介は嬉しさを抑えてきり、と顔を引き締めた。


「よお……」

たった一言の何気ない言葉がびり、と体を突き抜ける。これが幾度と死闘を繰り広げてきた男のオーラか。

未だ緊張している遼介を見て父―本山謙介―は片手を挙げて手招きをした。
上目づかいでそろそろとベッドの横まで来てみれば、わしわしと頭を乱暴に撫でられる。

吃驚して謙介の顔を見れば、瞳の奥がとても優しい色をしていることに気が付く。



「淋しい思いさせてすまんな。これからは一緒だ」

「……っ」

遼介からぽろりと一つ零れたそれに謙介がぎょっとする。

「りょ、遼介!泣くな、アメちゃんいるか。冴子の奴が置いてったのがあるはず」
「泣いてな……」


「親父があんな慌ててんの初めて見るぜ……」
「ほんまや……そんで冴子さんこっちでもアメちゃん持ち歩いてるんか」

初めての息子への対応にどうしたらいいのか慌てる謙介が、見た目とギャップがあり過ぎてかなり滑稽な状態になっている。
その様子を恭介は複雑な表情で見ていた。
しかし同時に、弟にやっと父と対面させることが出来、さらにいつも周りに気を配っている父のあの安心しきったような顔を久しぶりに見ることが出来たことを心から良かったと思えていた。


「それにしても写真では見たことあったが、えらい可愛く育ったなー格好いいの方がいいか。誘拐とか心配だぜ」

「すでに一回あったしな」
恭介の呟きに険しさを増した謙介が恭介を睨む。

「あ?恭介ちゃんとその野郎潰したんか」
「ややこしい相手だから難しいんだよ。それより遼の前で物騒な話止めろ」



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