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平穏最後の日(完結)
2



「何でてめぇがいんだ」

「あらーこっちの科白なんですけどぉ」

事務所のドアを開けた久遠はそれだけ言うと、盛大に顔を顰めて舌打ちをした。









「そういや週末は遼の誕生日だから夕方から予定空けとけよ」
「そうだった、ありがとう」
いろいろあって遼介自身忘れていたが、恭介の言葉でそういえば誕生日だったと思い出す。

知らない間に事件に巻き込まれたらしいし、恭介から先ほど爆弾発言もされた。頭の中がまだ多少混乱しているが、父に会えると聞いた遼介は気分が急激に上昇していた。
こんな時は誰かに聞いてもらいたい。
明日事務所へ行ってもいいだろうか。


次の日の朝もまだ余韻が抜け切らず、気を抜くとふにふにと表情が崩れそうなのを必死に取り繕っていた。
「遼ちゃんどしたー?イケメンが随分と可愛い顔になってんぜ」
不思議に思った坂本が遼介の頬を引っ張りながら問いかける。椅子に座る遼介は見上げながら、やはりへにゃと力無く笑う。

「実はさ、お父さんと会えることになった」

「お父さん!?」

坂本が驚くのも無理はない。
坂本と遼介は小学校から同じの所謂幼馴染であり、遼介に元から父がいなかったと知る数少ない人物である。それがここにきて父と会えることになったと聞いたのだから、坂本は目を丸くして遼介を見つめた。


「マジか、良かったなぁ遼ちゃん」
「ありがと」

複雑な家庭に育つ遼介に何も言わずいつも一緒にいてくれ、さらにはこんなに素直に喜びを表現してくれる坂本に嬉しくなるとともに本当に頭が下がる思いだ。
頭を撫でてくる坂本に逆らわずにそのまま顔を机に付けて幸せな気持ちを持て余す。このまま机に流れてそこら中に広がってくようだ。

そんな遼介を見て坂本も安心したように息を吐いた。



「ちょっと!何あそこの甘ったるい雰囲気は!」
「滾るんですけどマジで!」
ギャル腐女子がそれを見てけしからん会話をしていたとかいないとか。





放課後部活を終えた遼介。
久遠から事務所へは好きな時に来ていいと言われているので、先ほど連絡を入れてその足で直接向かう。
いつもの道を歩いているだけなのに、まるで季節すら変わったかのように周りの景色が違って見える。嬉しさを堪え切れないまま遼介は事務所のドアをノックした。

しかし普段なら聞こえる了承の声は無く、代わりに言い争う声が耳に飛び込んできて遼介は思わず一歩下がった。
事務所だから客も来るだろう。
しかしそれはそんな穏やかなものではなく、さらには片方は女性のようだった。


揉め事であれば、本来部外者である自分は入らない方がいいのだろうか。
そう悩んでいると今上ってきた階段からこちらへ近づく音がした。誰か戻ってきたようだ。階段の方を見遣れば園川が難しい顔をしながら上ってくるところで、遼介は園川へと駆け出した。


「園川さんっ!」
「りょ、遼介君!?」


遼介に気が付いた園川が片手を挙げたが、急に抱き着いてきたものだから軽くパニックになってしまいう。
このまま抱きしめ返していいのか何のサインなのかぐるぐると答えの無い思考を巡らせていた。



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