平穏最後の日(完結)
9
以前部活が遅くなった時連絡しなかったら、帰り際着信履歴がすごいことになっていたのだ。
以来、予定より遅くなる時は早めに連絡を入れるようにしていた。
「おまたせ」
ことりと目の前にコーラが置かれた。
シュワシュワと泡を立てている様が段々と暑くなってきた今の時期には特別爽やかに映り、ぐい、と一気飲みをしたくなる。
「有難う御座います」
お礼を言いつつ携帯を仕舞うと、コーラに手を掛け半分ほど飲む。
「はは、勢い良く飲むね。夜なのに今日は暑いもんな」
田川がアイスコーヒーを飲みながら笑う。
本当に今日は暑い日だ。まだ六月にもなっていないのに。
一度暑いと思ってしまうとそれに集中してしまい、まだ夏仕様でない店内の暑さも手伝い若干汗が滲む。
さらに月末の練習試合に向けての部活の疲れか眠気が襲ってきたようだ。
まずい、いつもこの時間は大抵家におり疲れた日は仮眠を取っているのに、帰宅して電話を受けてすぐ外出したものだから今日に限って仮眠を取ってない上外にいる。
まだ知り合って間もない田川の世話になる訳にもいかず、何とか眠くならないように残りのコーラを飲んで頭を冷やす。
「そういえば、携帯の番号とか聞いてもいいかな?ダメだったらいいんだけど……」
必死に頭をフル回転させていると、田川からの質問にはっと顔を上げる。
「あ……と、はい。どうぞ」
回らない思考でどうにか携帯を取り出し赤外線で携帯の番号を交換する。
「ありがとう。これで新しいとこでの友達一号だ」
はにかむ田川に遼介も自然と笑顔になるが、やはりどこかぼーっとする。
「次回は遊びに来て欲しいなぁ」
「――――」
とうとう何を言っているか分からなくなってきたところで、遼介の様子がおかしいことに田川も気が付いた。
「―――君! 遼介君!」
「あっ……あれ?」
肩を揺すられ目を開ければ、ぱっと心配する田川の顔が映った。
「どうした? 熱は無いみたいだけど風邪かな、汗掻いてる」
「本当だいつの間に。どうしたんだっけ、疲れたのかなごめんなさい」
田川の言うとおり風邪なのかもしれない。
先ほどまでの会話もどこか飛んでいるようだったが、大分頭がすっきりしていることは分かった。
今のうちに帰らないと、もし風邪を本格的に引いたらあの恭介が黙っているはずはない。
「いいよ、俺が誘ったんだし疲れてるのにこっちこそ悪かった」
「いえ! 俺こそ調子悪いの自分でも分かってなくて。最近部活大変だから疲れてたみたいです」
しょぼんと落ち込む田川に慌ててフォローを入れる。せっかく誘ってくれたのに本当に申し訳ない。
「もう帰ろうか、送るかい?」
「大丈夫です。すっきりしてきたので、後はゆっくり家で休みます」
「そっか……じゃあまた」
まだ心配してくれていたが、あまり迷惑は掛けられないと送ってもらうことは断って家路へと急いだ。
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