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平穏最後の日(完結)
13



「とは言ってもイラっとくんな、これ」

「いってて!何すか一体」

ふっきれた斉藤は今日もマイペースに仕事をする。そこへひょこっと佐藤がやってきた。
才川の用事が済むまでここで待機を言い渡されたらしい。

それにしても今絶賛遼介の傍で活躍?中のあの佐藤だ。
タイミングの悪い奴だと、八つ当たり気味に佐藤の頬を引っ張れば案の定文句の声が飛んでくる。

当たり前だ。佐藤は悪いこと何一つしていない。

「ごめん」
「ごめん言うなら最初っからしないでください!」
「ほんとごめん」
「つか早く離してくださいよ!」

軽く謝りながらも未だ手を離さない斉藤、前を向いて歩くことにしたもののちょっとしたいたずらくらいは許してもらいたいといったところか。
それにしても今の佐藤は到底極道には見えない。
斉藤もただのチャラい男にしか見えないが。

ちょっと見目を変えただけでこうまで変わるものか。

「ふうん、お前も真面目に見えるもんだな」

苛つきにまかせてちゃんと見ていなかったと佐藤をしばし眺めて呟けば、抓られていた頬を擦りながら照れる。

「何すか、照れるし」
「照れんな、きしょい」
「ひっど!」
「もー!俺のが遼介君だって懐いてくれてっし!」
「うわ嫉妬っすか、斉藤さんじゃどう頑張ったってチャラいし高校生には見えないっす」
「天・誅ッ!」

「うっせぇ!てめぇらやるなら出てけ!」

ぎゃいぎゃい騒ぐ二人に書類の山が飛ぶ。ついでにファイルも飛んできて斉藤の頭に直撃した。
ふざけ半分に佐藤をどついていたら、ついに久遠がキレたのだ。むしろ今まで黙ってくれていたことが奇跡だ。

あれか、先日の久遠が助けてくれた件といい一生分の運を使い果たしたとか、と斉藤は内心がくがく震える。

「まあ、俺だって俺なりに頑張るからね」

佐藤はそれを聞いてきょとんとした。


「何言ってんですか。斉藤さんちょー頑張ってるじゃないですか」

何気ない一言に今度は斉藤がきょとんとする。
何を言われたのか分からない。じわじわと理解していくと信じられないくらい顔が真っ赤になってしまった。

佐藤は嘘を言わない。そこまで頭が回らないタイプだ。それにこんな時に気を遣うわけもない。
つまりは本心ということで。
違う組の大して仲が良いという程でもない相手に「頑張っている」と言ってもらえて、自身の努力が少しでも周りに知ってもらえていることが分かり、体中のあちこちが恥ずかしくて嬉しくてこそばゆい。

久遠は二人の会話に一瞥もくれずパソコンに向かって仕事をしているが、もう五月蠅いとは言わなかった。

思いがけない、勝手に嫉妬していた相手にそう言われて、どうしようもならない気持ちを込めて佐藤の背中を「さんきゅー」とばしばし叩いた。

ちょっと強く叩き過ぎてまたしても佐藤に文句を言われたが、そこは勘弁して頂きたい。

「何か分かんないですけど奢ってください」
「よかろう、そこの店の一番高いものを奢ってやる」
「ファミレスかよ!」

もう漫才になってきた。
斉藤が奢ると指差した先は、全国展開するチェーン店で安くて有名なところだ。

うげ、と苦虫を噛み潰した顔全開の佐藤だったが、これ以上言っても無駄な気がしてきたしぶしぶ頷く。

「仕方ない、斉藤さんですもんね」

「あ、あ?」

聞き捨てならないと斉藤がすごむ。

そこへ、こんこんと控えめなノックとともに事務所のドアが開いた。

「こんにちは」

「うわ!遼介君だ、癒しー!!」



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