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平穏最後の日(完結)
2



次の日は月曜日で、気分が沈んでいようがいまいが外に出て学校に行かなければならない。

確実に寝不足の体を起こしてのろのろと準備をする。意を決してリビングのドアを開けるが、そこには誰もいなかった。
どうやらすでに外出してしまったらしく気が抜ける。

しかし、キッチンを覗くと朝食が用意されているのが見えて少し申し訳ない気持ちになった。

もそもそと食べる、冷えたそれを温めることすら出来ずに俯いて食べた。

普段なら有り難い嬉しい行為が遼介を押し潰しそうで、恭介への憤りも自分の中の黒い部分も何もかもが溶けてぐちゃぐちゃになった。

「俺はどうすればいいんだろう……」

久遠を好きになって、恭介は大事な家族で、二人は相容れない関係で。
どちらかを選ぶなんて出来なくて。

皆が仲良くなんて我儘が言えなくて。

子どもなのに、我儘を言える程子どもでもない遼介はぐるぐると同じ場所を回り続けることしか出来ないでいた。






「……なんか、調子悪い?」

「ん……?」

ぼーっとしていると横から話しかけられ、目線だけ動かすと心配な顔で覗き込む坂本が見える。
いつの間にか学校に来ていて授業が始まり、そしてどうやら今は昼休みのようだ。

朝から何かおかしいとは思っていた坂本だったが、目の前でご飯をぽろっとこぼされてさすがにこれはと聞くことにした。

「遼ちゃんこぼしてる」
「うわっごめん。あの、いや……うん。ちょっと悩み事」
「悩み?」

ティッシュで机に落ちたご飯を掴んで苦々しく笑って答える。
それを遼介が思う以上に感じ取ってしまった坂本が、がばっと机の上で乗り出し遼介の肩を強く掴んだ。

「何、どしたの。学校のこと?いじめ、は遼ちゃんにはないだろうから、ストーカーに遭ってるとか!?」

最近ストーカーという単語を頻繁に聞く気がする。

ふんふんと興奮しだした坂本にまずいことをぽろっと言ってしまったとさっそく後悔した。
坂本にはそもそも久遠のことを話せていないのだから、今回の件も遠回りにも言える気がしない。

「そういうんじゃないよ、くだらないことだから平気」
「ほんと?俺じゃ頼りないからとかじゃない?いつでも聞くから言ってよ!」
「分かった、ありがと」

「んで、ちょっとでもいいから話せないか?」
「うーん……まあ、昨日恭兄と言い合いになっちゃってさ。それだけだよ」

坂本の不安を消すために一言だけ話せば、「なんだぁー」と気の抜けた返事が返ってきた。

「遼ちゃんのとこって喧嘩しなさそうだもんな」

「だからちょっとしたことで悩むんだね」と納得してくれうんうん頷いているのを見て危機は去ったととりあえず安心する。

「理由知ったらお腹減ったー残り食べちゃおうぜ」

「おー」



「何あれ……あんなに顔近づけて何話してんのかな」

その二人の様子を雑誌で顔を隠しながら盗み見していた山岡が滾りながらも悔し気に呟く。
自分のキャラを生かして空気読めない的に話しかけてもいいのだが、それだと二人の会話が終わってしまうためここから静かに見守っているのだ。

「うーん、やっぱ二人お似合いだからおしいのよねー。でも遼介君は別の誰かがいそうな気配もするし」

さすが腐女子嗅覚恐るべし。






「あ、じゃあさ。久遠さんて人に相談してみたら?仲良いんだろ?一回学祭で見たけど恭介さんと知り合いみたいだしすげー強そうな大人だったし」

勢いよく食べていた坂本がいいこと思い付いたとばかりに明るく言う。
遼介は一瞬固まったが、坂本の言うことに賛成するように上辺だけで笑った。

「え、あ、そうだな」

坂本それ地雷地雷。



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