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平穏最後の日(完結)
20



「ん!」

「どうだ」
「美味しい!これいいな、今度家でも買おう」
「だろ、ここに住んでからすぐ見つけてそれから通ってんだよ」
「こんな近いところにあったなんて知らなかったよ。恭兄は惣菜買うとかしないし」
「あいつが買い物とか似合わねぇ。どうせ相馬あたりに適当に頼んでんだろ」

その通りである。

恭介は簡単な料理をするし食事をするのも好きなので外食にもよく行くが、食材からこだわるようなことをする趣味はないためいつも部下に無くなったものを伝えて買い置きしておいてもらうのが常だ。

何となく恭介の性格を熟知しているのがおもしろいと遼介は思う。

嫌い合っていると公言しているものの、実際のところはそこまでではないのかもしれない。
根本で似たところがあって相容れないだけではなかろうかとも考える。

実際、周りの人間もそう思っている者が多いのだが、本人たちが認めることはないので誰も口を挟むことはない。

「久遠さんは料理したりする?」

「するように見えるか?」

見えない。

しかし思い切り肯定するのも悪い気がして「うーん」と曖昧な返事をしてしまう。それを聞いた久遠は薄く笑う。

「今度からお前が作ってくれりゃあいい」
「俺?まだそんな料理出来ないよ」
「いい、切るだけの料理だってこの前の肉じゃがだっていい」
「それなら……」
「恋人の手料理なんて男の夢だろ?」

――キザ!

心の中でそう叫んでしまったが、そんな言葉を吐いても今の久遠にはよく似合う。
遼介はテーブルの下で両手を擦り合わせて気持ちをごまかすことしか出来なかった。


昼食のあとは二人でのんびり過ごしたり、前のように別々ではなく一緒に旅行も行ってみたいと旅行雑誌やパソコンであれこれ言い合った。

今はテレビをソファに座って観ているが、それより気になることがあって遼介は全く集中出来ない。
先ほどから久遠との距離が近いのだ。

近いというよりゼロに等しい。久遠の腕が遼介の背中に回っているためへたに動くことすら出来ないでいた。

「遼介」

「はいっ」

急に話しかけられて変に力の入った返事をしてしまう。

「はっ緊張してんのか」

「……いじわるだ」

くつくつと笑っていた久遠がついに声を上げて笑い出した。よほど遼介の慌てっぷりがおもしろかったらしい。

「くっ……はっは!」
「笑い過ぎだろ」
「だって遼介おもしれぇ、今更緊張すんな」
「すんなって言われても、久遠さん恰好良すぎ」

思わず褒めてしまったのが災いして、引っ張られたかと思うとぎゅうぎゅうに抱きしめられた。

「は、恥ずかしい!恥ずか死ぬ!」

「おー死ね死ね。俺がずっと傍にいてやる」

遼介はもう恥ずかしいのも緊張するのも仕方ないといろいろ諦めて背中に手を回した。






夕方暗くなる前にマンションを出る。夕食前には家にいる約束をしているからだ。
見送りで下りてきた久遠に手を振って道路へと歩き出す。

しかし、その歩みはたった数歩で敵わぬこととなる。

目の前に人影が現れ遼介を覆うように全身を射抜く視線を送ってきたため、思わず一歩後ずさる。
久遠を、と一瞬思ったが、すでに部屋へ戻ってしまっているしいたとしても絶対に状況が悪化するのは目に見えていた。


「遼……これはどういうことだ」

「恭兄……!」



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あきゅろす。
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