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平穏最後の日(完結)
18



――考えてみれば、恭兄に限ったことじゃなくて普通は誰にも言えないようなことなんだよな。

付き合い始めてからどこか浮かれた気分だった遼介は、バイト先の出来事を思い出し他人に気軽に言えるような仲ではないことに気が付く。

もちろん久遠と付き合っていることを恥ずかしいとは思わない。男同士だということも気にしないというのは言い過ぎだが後悔はない。
しかし、それを誰かに言った時の反応を考えると言い出しづらいのも事実だった。

付き合い始めに久遠が事務所で公言したため、今までそこに考えが至らなかったというところも理由の一つだろう。

よくよく考えてみれば、事務所の者たちの反応はとても嫌悪しているとはみられなかったので、かなり幸運であると遼介は思った。
久遠との仲を伝えても変わらない対応をしてくれるだけで感謝の一言に尽きる。

偏見なく反応してくれる者の方がはっきり言ってマイノリティだ。

言ったら最後、もしかしたら友人として接してくれなくなる人間も出てくるかもしれない。

最初は久遠の言う通り、恭介に報告をすると仲の悪い二人だからまずいとしか思っていなかったが、根本的なところで反対される確率の方が高い。
困ったと思いつつも男同士という点は改善のしようがないため他の部分でカバーするしかないのだろう。

男だから別れるという選択肢は無い。

あるのは、二人で歩んで行かれる道を探すという点だけだ。


「久遠さんはどうなんだろう」

先ほど出会った恋人の名前をぽつりと呟いてみる。久遠は特に気にする様子を見せたことがない、隠しているのか本当に気にしていないのか。
どちらにせよ自分も久遠を見習って堂々とした態度で過ごせるようにならねばと思う。

「まあ、気にしても仕方ないか。別に考えたところでどっちかが女の人になるわけじゃないし」

あまり恋愛的に知識の無い遼介は楽観的に考えを終わらせるが、そこで久遠がもし女だったらと想像してみる。
しかし、明らかに似合わな過ぎの様相しか想像出来ずもうこの話題は止めようと頭の中から掻き消した。

久遠は、男の中でも体躯に恵まれ見目も実に男性らしいものであるので、遼介の頭の中で相当な想像図でも出来上がったのだろう。

その逆に自分が女だったらなどというのも想像が付かず、無駄なことをしたとおとなしく眠りにつくことにした。








『今週末は空いてんのか』

「日曜日なら空いてるよ、と」

久遠からのメールに返信したあと、携帯で週末の天気予報を検索する。
どうやら今のところは晴れらしい。寒くとも晴れていれば外に出て遊べそうだと素直に嬉しくなる。

こうして一日一緒にいるなんてほとんど初めてではなかろうか。

会う日は沢山あったように思うが、お互い予定がすれ違うことが多く適当な時間を見繕って数時間だけ会いに行くだけだった。

――デート、だ。

クリスマスで盛り上がる街中、通学途中にイルミネーションを見て楽しむ毎日を過ごしているが、週末はそれを久遠と二人で見られるらしい。

一人で見るだけでも良いものを共有出来るなんて嬉しくないはずがない。
もしかしたら「寒い」と早々に家に帰るかもしれないが、家なら家でまったりと過ごすのも悪くない。

結局は二人だけの時間を感じることが出来ればいいのだ。

どうしたらいいだろう、何処に行こうかと考えているうちに週末は来てしまった。


待ち合わせ場所は分かりやすく事務所前だ。これなら駅前と違って人ごみにもまれて見つからないということもない。
歩きらしいので、ぷらぷらとその辺を歩いてから久遠の家にでも行くのだろうと思う。

着る服はいつも通りでいいと適当に選んで早めに寝る準備をする。


「もう寝るのか」

「あ、うん。明日ちょっと出掛けるから」

恭介に聞かれて一瞬びくりとするが、普通の態度で返事をして自室に入った。

もし寝坊でもしたら大変だ。出来れば自分が先に着いていたいと早めにアラームをセットした。



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