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平穏最後の日(完結)
14



さかのぼること半日、久遠の事務所では。

「お早う御座いまーっす」

「斉藤、どうだった」

久遠が開口一番に聞けば、斉藤は「ばっちりっす!」とピースして手に持つ袋をがさがさと振ってみせた。
それを見て久遠も「よくやった」と珍しく褒めている。

斉藤が照れながら久遠のところへ向かうと、それを合図に園川と小宮山も席を立って集まった。


「じゃーん!」

効果音付きでばさりと袋の中身が机にばらまかれると、周りから「おお」と声が上がる。

何かと思えば、昨日までの旅行の写真だった。どうやら斉藤がまとめて現像に出してくれたようだ。

「最近の現像は一日で出来て便利だな」
「一日どころかちょっと買い物して待ってれば出来ちゃうくらい早いですよ。すごいっすよね」
「にしても遼介の写真多くないですか、隠し撮りだから目線合ってないし」
「別にいいじゃねぇか。こういう写真も秘密っぽくていいだろ」

「……変態」

久遠が撮ったものの多くが遼介だったため、思わずぽそりと小宮山が呟く。もちろん誰にも聞こえないようにだ、斉藤の二の舞にはなりたくない。
そんなことを言いつつもちゃっかり遼介の写真を一枚拝借した。

「おい小宮山、どうすんだそれ」
「従兄弟に言うんですよ、こっちにも可愛い高校生いるって」
「あ?まあ一枚ならいいが」

どうやらこの世界にいて学生との縁が無縁だと思われている小宮山は、親戚に仲良くしている子がいると自慢したいらしい。

昨日までの旅行で実は可愛いもの好きだと判明したので、遼介のこともそんな風に思っているのかもしれない。
しかし一抹の不安を覚えた久遠が念のため釘を刺す。

「言っとくが遼介はやらねぇぞ」
「分かってますよ。俺は遼介のこと動物だと思ってるだけなんで」
「なんか……それはそれでマニアックだな」
「そうですか?」

しれっと無表情で答えると、写真はしっかり持ってすたすたと一人席に戻ってしまう。

自分が写っている写真などは興味がないらしい。実に小宮山らしいといえばそれまでだが。
小宮山は放っておいて、他のメンツでどれが欲しいなど話し合いっているとあっという間に一日が終わってしまった。

「よし、今日は早めに帰るぞ」
「遼介君と会うんすか?」
「ちげぇよ、旅行の疲れを取りてぇからスパにでも行く」
「スパ!久遠さんがスパ!似合わね〜、入れるんすか?」

最後まで言い終わるかどうかのところで久遠の鉄拳が下る。
斉藤の言い方はどうあれ、入れるかどうかというのは昔から裸になる公共の施設は体に彫り物がある者は出禁とされている場合が多いからであろう。

斉藤はまじまじと見たことがないので想像でしかないが、何かしらは彫っているはずだと踏んだのだ。

久遠はじとりと睨みつけて言う。

「そんな大層なもん背負ってねぇ、肩にちっせぇのがあるだけだからタオル掛けたらわかんねぇよ。しかも個室のとこだしな」

そう言われた斉藤は何故だか分からないがほっとした。

「へ、へぇ〜そうなんすか」
「今時ドでかいのもだせぇしよ。本山の野郎もしてねぇぞ」
「そうですよね」

特にしなければならないことでもないため実際のところしていない者の方が多いのかもしれない。
斉藤もおしゃれ感覚でもっと若い入りたての頃に小さいのを入れただけで、それ以来増やしていない。

「それにしても、あの程度で疲れたなんてさすが三十路」

「まだ二十九だ阿呆、しかも男は三十過ぎてからがなんぼだろ」

文句を言いながらばたんと先に帰ってしまった。

しかしたまに今日のように一番に消えてしまう日もあるので、気分を害したかなどと誰も気にする者はいない。



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