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平穏最後の日(完結)
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「あーくそ!絶対二月には終わらせて卒業旅行行ってやる!」
「俺はさっさと終わらせたら部活ちょっと参加したいな」
「お前部活バカだからな、こいつらと一緒」

こいつらと言われたのは遼介と坂本。自主的に居残り練習しているのは彼らと三年の数人くらいである。

「だってやるからには徹底的にやらないとっすよ」
「まあなー、部活で汗だらだら流して真剣にやるなんて強い大学にでも行かない限り精々高校までだよ」
「淋しいなぁ」
「大学生って大人だけど、子どもじゃないと出来ないこともあるし」
「一人で何でも決めてやるって結構難しいよ」

こうして話していると、すでに卒業が目の前に見えている三年生が随分と大人びて見えた。

たった一年、しかしその一年でいろいろなことを考えるのだろう。悩んだ分だけ人生を歩くための道となる。

「すごいですね」
「おう、遠いところに決まったら一人暮らしもしないといけないから今のうちからしとかないといけないんだ」
「へー、すげえ。俺絶対無理、まず朝は親に起こしてもらわないと毎日遅刻しそうです」
「そりゃー単位落とすな。裕太は自宅から通え」
「……そうします」

当たり前にツッコミを受けてしょぼんと坂本が頭を下げる。
そういえば小学生の頃から朝は弱かったなと遼介が思い出して笑うと、坂本も頭を掻きながら笑った。

「裕太修学旅行の時も起きなかったもんな」

「いやー本当ダメなんだよ。社会人になったらどうしよ」

遠い未来だと思いながらも真剣に悩む坂本。

「ま、そん時になったら大いに悩め。俺らには関係ねえし」
「先輩〜!」
「部活やるぞ部活ー」

強制的に会は話が終了とされてストレッチを始める。
外から冷気が入り込んで寒いので、早く温まろうといつも以上にアップを多めにして練習に励んだ。

走り込んで大分体が慣れてきたあたりで室内の温度計を見ると十度を下回っており、これは寒いに決まっていると部員たちは納得した。






「うーさぶい」

「あったかいのは部活の時だけですね」

帰り道皆で寄り添いながら歩いてはみるものの、急に冬が来たような寒さが攻撃してきて思わずぶるりと体が震える。
今日は冷えるとお天気お姉さんが言っていたのでたいていの者はマフラーなどを付けていたが、これはコートもあった方がよかったようだ。

「今日の夕飯何かなー」
「鍋かラーメンがいい」
「おっいいね、ラーメン屋行きたい。近くに美味いとこあるって聞いた」
「行きてー!もう腹がラーメンの準備出来ちゃったけど、家じゃあ絶対ラーメンじゃねぇな」
「いいとこ肉料理だろ」
「もうそれでもいい、早くあったかいとこに入りたいよ」

段々と語尾が小さくなってしまう程に寒い。

東京はこんなに寒かっただろうか。それとも今年の冬が特別か。


――久遠さんはまだ仕事かな。

こんな時に思うのもいつの間にか久遠のことになってしまった。
毎日会えるわけがない生活なのは重々承知であるが、まだ付き合いたてのため今何をしているのかやはり気になってしまうのだ。
もしも事務所や仕事相手に知らない女がいたとしたら嫉妬してしまう自信があるくらいで。

実は女々しいところがあったのかと、自分の意外な一面を知ることになってしまった。

「じゃあなー」
「遼ちゃんばいばい」

「おー、さようならー」

分かれ道で一人になり家を目指す。本当に今日は寒いので風邪を引かないようにしなければとやや急ぎ足でマンションまで歩いた。

確か今日は繁忙期も終わって夕飯は恭介も一緒だったはずだ。
たまには二人で何作るのも良いかもしれないと思うと顔がにやけてしまう。

やっと毎日の生活が安定してきていろいろなことを考える余裕が出てきた。そうなると、小さなことでも嬉しくなるから不思議だ。



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あきゅろす。
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