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平穏最後の日(完結)
12



買い物が終わり恭介たちがいるはずの土産物屋に戻ると、すでに店の前で談笑していた。
どうやら何百人もの土産選びは無事終了したらしい。

近づくと恭介が気が付き手招きをするので小走りで近寄った。

「おかえり。何か買ったか?」
「うん、友だち用にいくつか」
「そうか、じゃあ土産はもういいな。そろそろ昼にするぞ」

そんな時間になっていたのかと携帯で確認すると、ちょうど正午を回ったところだった。

「せっかくその恰好だから和食にしよう」
「そばかうどんとかいかがですか」
「いいな、最近食ってねえし」
「俺探してきます」
「有難う御座います」

片瀬が付近の飲食店を探してくれている間、記念にと恭介とツーショットを撮ってもらう。
普段家族で写真を撮ることなどまずないので良い機会になった。

さっそく待ち受けに設定していると横の恭介も同じことをしていた。

「これぞ旅行って感じだからな」

「また他のところでも写真撮ろう」

考えてみれば、恭介と何処かへ行って写真を撮るなんて中々貴重なことなのではないか。
特に写真好きでもない恭介と次にこんな機会がいつ来るか分からないため、帰りまでにまた何枚か撮ってもらおうと決意した。

遼介にとって家族は母一人だった。

そこへ兄がやってきて、今は形は変わってしまったけれど新しい家族が出来た。

そんな過去を埋めるわけではないが、何か形になるものが欲しいとも思う。
とりあえずこの写真が第一歩だ。


「お、店見つかったみたいだ。行くぞ」

「うん」






月曜日、坂本や部員仲間に渡すべく土産を持って登校する。
学校にお菓子を持参するのは少し気が引けたが、食べ物を持ってきてはいけない決まりもないし小さなものなので特に問題は無いだろう。

「裕太、これお土産」
「うわ!やった、ありがと遼ちゃん!」
「昨日は部活休ませてもらったしあとで先輩たちにも渡すんだ」
「いいね、先輩旅行羨ましがってたよ。もうすぐ引退で受験勉強だから遊ぶ暇ないみたい」
「あーそっか、そうだよな」

身近な者が受験勉強をすると聞くと急に自分にも降りかかったような気になる。

もちろんすでに進路相談も始まっているので準備は始めないといけない。


「いいなー美味そう。じゃなくてここ学校だぞー」
「うわっ先生ごめんなさい。お菓子ってダメでしたっけ」
「うんにゃ平気、売店でも売ってるだろ。そういう注意一回言ってみたかったんだよな」
「せんせー変なの!」

突然現れた山崎に驚く遼介と笑う坂本。
どうやら山崎も食べたくて近づいてきたようで、じっとこちらを、厳密に言うと土産袋を見られている。

「先生も一つ食べますか?小分けのものなら余ってるんで」

「おお、いいのか。悪いな、催促したみたいで」

嬉しそうに遼介から一つお菓子を受け取る山崎はここにいる高校生と大差ない。


「先生も旅行行きたい」
「家族と行けばいいじゃないっすか」
「坂本、独身の俺に対する嫌味か」
「はい」
「おい」
「はは、彼女はいないんですか?」
「原田まで言うのか、どうせいません」

ぷい、と拗ねたあとに笑いながら行ってしまった。あの様子だと本当にいないようだ、坂本が憐れみの視線を送っている。

その後部室に行き土産を配ると、散々受験勉強が始まっている三年生たちに羨ましがられながらもさっそく食べ出した部員たちに美味しい美味しいと感謝された。



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