平穏最後の日(完結)
11
「うわ、うわ……久遠さん結構キザ……」
寒いはずなのに顔だけ暑い。
まるで、久遠への想いが変わったあの日のようだ。
「それにしても本当すごい偶然だったな。恭兄には言わない方がいいか」
別に秘密にする必要はないが、あの二人が出会ったら最後ほんのり温かい癒し旅行が真っ赤な血みどろ旅行になってしまうかもしれない。
そこまで想像してぶるりと体を震わせたあと、そういえば土産がまだだと店へ戻ることにした遼介が体を動かすと何やら胸元に違和感を感じる。
視線をそこへ向けるとそこには見覚えのないものが服からちょこんと主張していた。
「何だこれ」
ひょいと片手を入れて取り出す。
小さな袋だ、よくよく袋に書かれている文字を見てみるとここの店の名前ではないか。
「まさか」
ぴっとテープを切って中身を確認すると、シンプルなキーホルダーが出てきた。
もしかしなくても、久遠からのプレゼントといったところだろう。
「本当に……格好良いことばっかする人だな」
以前にされた誕生日プレゼントの時といい今回といい、久遠の普段の人柄とのギャップに驚かされる。
しかし嬉しくないはずがない。
しばらく眺めてにまにましていたが、とりあえずにと久遠の家の合鍵にくっつけて今度こそ店に戻り土産物の物色を始めた。
「ねね、遼介君和服でしたね!俺らと一緒じゃないっすか!」
「可愛かったね、店内じゃなければ写真撮りたかったよ」
「あれは俺のだから無断で撮るなよ」
「わー、男の独占欲」
「斉藤、ここで置いてってもいいんだが」
「す、すんません言い過ぎました置いてかないでください!!」
無事遼介に出会えた事務所組は、先ほどの出来事を語り合ったり相変わらず一言多い斉藤が怒られたりとこれはこれで楽しそうだ。
何気に小宮山が一番土産を買っているところを見るとよほどここが気に入ったらしい。
聞いてみると家族にあげる以外は全部自分にだそうなので、もしかしたら意外に可愛いものが好きなのかもしれない。
なにせ買っていたものがこれである。
「小宮山さ、それ誰かにあげるの?彼女?」
「家に飾る」
「へ、へー」と斉藤が戸惑い頷く視線の先には、和服を着たクマのぬいぐるみ。しかもキーホルダーではなく確実に抱く用サイズのものだ。
小宮山は実家ではなく一人暮らしなので、十中八九個人的な趣味だろう。
同僚の知らなくてもよかった一面を知ってしまい複雑な気分になった。
斉藤は話題を変えようと回りをきょろきょろと観察する。
すると何やら久遠がごそごそとポケットを漁っているのが見えた。
「何してるんですか?」
「別に関係ねぇだろ、鍵探してただけだ」
「お、それさっき買ってたやつじゃないですか。なんだー、久遠さんも結構はしゃいでますね」
やっぱり余計なことを言ってしまう斉藤は、この一秒後久遠の重い拳を頭に受けることになる。
「うーっいってぇ。皆ほんとに先行っちゃうし」
痛みに悶えている間に一行は昼食にしようとさっさと近くの飲食店に入ってしまい、慌てて追いかけているところだ。
「にしても、久遠さんてキーホルダー付けるタイプじゃないのに珍しいなぁ」
「まさか遼介君とお揃いしたくて無理して買ったとか!?」
にししと笑ってみる斉藤だったが、「そんなわけないか」と考えるのを止めて皆が待っているであろう店に足を踏み入れた。
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