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平穏最後の日(完結)
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結局選んだのは、恭介は黒地のシンプルなもの、遼介は濃いグレーに白抜きの模様が入ったものだった。
恭介は大人の色気が加わって遼介ですら見とれてしまう程だ。

「恭兄似合う、格好良い」
「遼だって似合うぞ。身長も伸びてきたから和服でも様になるな」
「ありがとう」

学祭で浴衣を着たことがあるものの、お遊びにちょっと着た程度なのでこうしてしっかり和服を着付けされると気恥ずかしい。

社交辞令でも似合うと言ってもらえて外へ出る勇気が出来た。

せっかくだからと片瀬たちも着替えて四人揃って外へ出る。これだけ人数がいれば外へ出ても違和感は無いし、店の従業員は和服の者が多いのでむしろ溶け込んでいるくらいだ。

「こうやって普段やらないことしたり見たりすると旅行してるって感じするね!」
「まあな、俺も良い休暇になった」
「また忙しくなる?」
「いや、年末までは平気だったはずだ」
「そっか、よかった」

忙しいのは会社にとっては仕事があるということで良いことなのかもしれないが、疲れている恭介を見るのも家で一人でいるのも遼介にとってはあまり歓迎出来るものではない。
今度家で食事をする時は、癒されるかは定かではないがまた料理の一つでも作って食べてもらいたいと思う。

「俺、あっちのお土産見てくるよ」

「おお、俺たちはすぐそこのところで家の土産包んでもらうから。遠く行くなよ」

店同士も離れていないことから、遼介は別れて一人で土産物屋に入ることにした。

家の土産は買ってくれるので、近しい友人くらいにしか買う予定はないのだが、何となく土産を見ていくと買いたくてうずうずしてくる。
女性が買い物すること自体は好きという気持ちが少し分かった気がする。

暖簾をくぐると少し肌寒かった体に暖かい空気が店内から流れ込んできて気持ちが良い。
和を基調とした店内は、落ち着いていて一人でも気兼ねなく回れそうだ。

ぐるぐると店内を半分程回り、裏側も見てみようと狭いところを通った時に横から人影が現れぶつかりそうになるのを慌てて避ける。

遼介より上背があるためすぐには顔が見えなかったが、向こうも和服のようだ。


「すみません」

「大丈夫だ」

その時降ってきた声が何か聞き覚えのあるもので、何とはなしに上を見上げると思った以上のことが起きてそのまま顔が固まってしまった。

まさか、こんなところで会うことのない人物だったからだ。

「く、く、久遠さ」
「あ?遼介じゃねぇか、旅行ここだったのか」
「久遠さんこそ。久遠さんも旅行か何かですか?すごい偶然ですね!」
「すげぇな、週末暇になったから事務所の連中で遊びに来たんだよ」

「そうなんですかーすげえー」と偶然会えたことがよっぽど嬉しいのか、目を輝かせながらすごいすごいと言ってくる遼介に頬が緩む。

もちろん偶然ではないし、むしろここに来るだろうと張っていたくらいであるが、お互い和服だったのは本当に偶然だ。
店の奥に他の連中もいるぞと言ってやると「ちょっと挨拶してきます!」とぺこりと頭を下げて小走りで奥へ行ってしまった。

奥から店内ということで抑えがちだが明るい会話が聞こえて、こんなサプライズもたまには有りだと思う。

しばらく土産を物色していると遼介がまた戻ってきた。


「挨拶してきました」
「おお、何か楽しそうだったな」
「だってこんなところで会えるなんて思ってもみなくて」
「そうだな、少しだけ外出るか」
「はい」

話が延びそうなので、一旦店をあとにして裏の路地に入って何気ない会話を続ける。

「じゃあ、またな。テスト終わったんだから事務所に来い」
「分かりました」
「あと、敬語じゃなくていいぞ。恋人相手に敬語じゃつまんねぇだろ」
「こ、こいびと……はい、じゃなくて、うん」

「よく出来ました」

顔を真っ赤にさせながら頷いた遼介をぐい、と引き寄せて口に触れるだけのキスをした。

「浮気すんじゃねぇぞ」

ぽんぽんと頭を撫でてそれだけ言うとあっさり久遠は行ってしまう。遼介はさらに赤くなった顔を隠すことも出来ずに、目をぱちぱちさせながら遠くなる久遠を目で追うことしか出来なかった。



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